神は賽子を振らない 第32代陸上幕僚長火箱芳文の半生(48)

1995(平成7)年3月、陸上幕僚監部防衛部防衛課業務計画班長として、六本木の防衛庁で再びの勤務となった。

陸海空すべての自衛隊で、防衛部防衛課はもっとも多忙な幕僚監部といっても過言ではない。特に業務計画を作成する業務計画班は、誰もが連日の泊まり込みは当たり前で、たいてい1週間分の着替えを持ち込んでいる。「日曜だけは自宅に帰る」「パンツの替えがなくなったら帰る」、こんな感覚だった。

業務計画とは、防衛力整備や教育訓練、人事、補給整備などあらゆる事業の事情を掌握し、各部署から上がってきたものをまとめて事業化することである。

たとえば防衛力整備で「戦車を○両買う」と上がってきたとする。何両買うかは防衛班が中期防衛力整備計画で行なっている。業計班ではそれを年度の計画とするだけでなく、戦車購入に伴う諸費用もすべてまとめる。そしてその必要性を まずは内局に説明し、そこが通過できたら大蔵省(現: 財務省)とやりとりし、予算(防衛関係費)をつけてもらうべく 奮闘するのだ。

防衛関係費を一口で語るのは難しいが、予算を見るとき、当該年度に支払われる額の合計(歳出ベース)と、当該年度で結ぶ契約額の合計(契約ベース)のふたつがある。

歳出ベースとは当該年度支払う予算で、歳出予算と呼ぶ。これは隊員の給与や食事のための人件・糧食費と、以前の契約に基づき当該年度に支払われる歳出化経費(いわゆる付け払い経費)、さらにその年度の契約に基づき支払われる一般 物件費の3分類がある。人件・糧食費と歳出化経費は当初より決まっているので、一般物件費がその年の予算の伸びを左右する。

さらに歳出化経費と一般物件費を足したものを物件費という。これは防衛庁全体の事業費の合計額である。内訳は装備品の調達・修理・整備、油の購入、隊員の教育訓練、施設整備、光熱水料など営舎費、技術研究開発、基地周辺対策や在 日米軍駐留経費などの基地対策費などからなる。

この中の、当該年度に支払われる装備品の修理・整備、油の購入、隊員の教育訓練経費などを一般物件費という。これは活動経費とも呼ばれ、部隊の活動のため必要不可欠な経費である。

あらゆる部署が1円でも多く予算を欲しがっている。業計班はそんなすべての部署の担当者とやりとりをし、不備があれば指摘し資料の再提出を求めたりするのだから、業務に時間がかかるのも当然である。

しかし、業務計画に携わる業務計画班は、陸上幕僚監部の中枢ともいえる部署でもある。万年寝不足なのはきつかったし、なかなか自宅に帰れず家族と会えないのは寂しかったが、その一方で業計班長としてこの業務に関われていることに責任とやりがい、矜持を感じていた。