地本の業務、募集と援護(1)

2018年4月に地方協力本部についてはご紹介していますが、その際は地本の業務や地域における特性などが中心の記事でした。最初にさらっとおさらいしておきます。
自衛官の募集、退職自衛官のための就職支援や教育など、特に“人材”に関する業務を司るのが地方協力本部、通称「地本(チホン)」です。自衛隊の“外”に対するアピール力の高さから、「自衛隊の営業部隊」とも言われています。
地本は全国50カ所(北海道に4カ所、全都府県に各1カ所)に置かれ、さらに多数の地域事務所、出張所、募集案内所が各地域に点在しています。
合計すると400ヵ所以上の地本関連施設が設置されており、これほどまんべんなく全国に散らばっている自衛隊の組織は地本だけです。
業務は自衛官募集業務を筆頭に、自衛隊の広報活動(駐屯地や基地で催されるイベントの案内、学校向けに見学・体験などの総合学習支援、企業研修などを目的とする隊内生活体験の支援など)、予備自衛官の管理業務、退職自衛官の再就職援護業務など。さらに2006年に「地方連絡部」から現在の名称へ変更した際、新たに災害派遣、国民保護における地方自治体との連絡・調整任務が加わりました。
つまり地本は自衛官募集のためだけの組織ではなく、自衛隊と地域社会をつなぐ窓口であり、隊員にとっては入隊を希望したときから退職後までずっと支援してくれる強力なサポーターでもあります。
今回はこれらの業務の中から「募集」と「援護」の2種に特化してご紹介したいと思います。
まず募集業務ですが、各地本の募集課がこの業務を担います。
募集課の隊員は部外との接触もきわめて多いため、高いコミュニケーション能力が求められ、高卒の自衛官であろうが現役東大生に「入隊したい」と思わせる募集広報能力も必要です。
少子高齢化が進むわが国でいかに新隊員を確保できるか、それは近隣諸国の脅威よりも新たな装備品の選定よりも切実かつ喫緊の課題と言っても過言ではありません。
募集事情は担当地域の人口などによって特性が異なります。
たとえば地本が担当するすべての業務が備わっている東京地本は、全国各地にある地本の仕事を紐解くための「見本」として最適ではありますが、首都を担任しているとあって、他地本とは違った特性も持っています。
たとえば、50ある地本の中で編成規模が最大であること。そして豊富な人材、多種多様な就職口、教育機関の充実、防衛省・自衛隊の中核部隊の存在などといった特性です。
また、多くの大学がある東京都八王子市などには、住民登録していない学生が多数存在しています。住民票が実家の住所のままというわけです。募集対象者となりうる「隠れターゲット」が多いのも東京地本ならではの特性といえるでしょう。
人材が多いのだから募集は容易かと思いきや、自衛隊のライバルもてんこ盛り。
全国の企業など事業社数と国家公務員、それぞれ11%以上が東京に集中しています。また、東京都の有効求人倍率は全国平均より高いので、求人する側が必死に募集をかけなければ、有能な人材は他企業や別の公務員へと流れていってしまうのだ。
人口が多い=募集すればたくさん集まる、という公式は成り立たないのですね。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和四年(西暦2022年)2月17日配信)