第3普通科連隊から第3即応機動連隊へ(15)

MCVは105mm砲を搭載した陸自最新鋭の装輪装甲車です。火力と機動力を駆使して多様な事態へ迅速に対応するため、公道を時速100キロで走行できるという高い走行性や、空自のC-2輸送機に搭載して空輸も可能という機動力、そして最新機器を多数採用し、射撃精度も高いのが特徴です。
MCV中隊準備隊長の齋藤進之佑3佐の話では、準備隊は基本的に第2戦車連隊から異動してきた隊員を中心に構成されていますが、全国各地から異動してきた隊員も10数名おり、扱ってきた戦車も異なるそうです。
74式戦車と比べると、MCVは射撃の機能もかなり高度化されている分操作も難しく、すべてがネットワーク化されているので74式とはほとんど別物。また、北海道は装填手のいない90式と10式戦車で育った隊員が多いですが、MCVには装填手がいます。一方、全国各地から来た隊員は74式経験者なので、彼らの力を使って装填手を育てているそうです。
2021年10月には上富良野演習場で初めての実射訓練を実施しました。この連載の第9回~でご紹介した内容です。
最初の105mmライフル砲の初度射撃では、2両のMCVがまず点検射的に向けてTP(演習弾)を車外撃破により射撃。リモート操作で演習弾を発射、的に命中し、車両にも異常が認められないことを確認すると、次は乗員が乗り込んでHEAT(成形炸薬弾)を射撃しました。
続いて砲身の外部または内部に口径の小さい砲を装着して縮射を実施。0点規正(射撃を行なって特定の距離における平均弾着点と照準点が一致するように照準具を調整すること)と操砲で射撃を行なった後は直接命中法の射撃も行なわれました。
さらに、近目標標的・遠目標標的に射撃する戦車砲停止射撃、停止直後、速やかに射撃する戦車砲躍進射撃、時速20㎞で走行したまま止まらずに射撃する戦車砲行進射撃と、どんどん難易度が上がっていきます。
そして最後は、実射訓練の集大成として単車戦闘射撃が行なわれました。これは状況開始でMCVが前進すると無線で目標が付与されると、まずHEATを停止射撃、続いて目標のうち「0番」と指示されたら行進射撃するというものです。なお、7・62㎜機関銃の射撃も行なわれ、点目標に対し同時に多数弾を集中する点検射や連装銃停止射撃で、近・遠距離の目標に対して連射しました。
この実射訓練では即機連新編と同時に火力支援中隊と部隊名が変わる重迫撃砲中隊も、120mm迫撃砲の実射に臨んでいました。
もともと重迫中隊は普通科職種ですが、火力支援中隊になると特科職種となるため、すでに隊員の多くは特科の隊員で占められています。言い換えればまだ120mm迫撃砲に慣れていないわけで、半数以上の隊員が今回初めての実射となりました。訓練を重ねて戦力化される際にはFCCS(火力戦闘指揮統制システム)が入るなど、扱う装備品だけでなくそれを構成するシステムや幕僚活動なども変わるため、そこの慣熟も必要になります。
MCVは先遣部隊の火力として、そして高い機動力を生かした攻撃が期待されています。2021年に実施された陸上自衛隊演習では第2師団も九州まで機動展開しましたが、このときは苫小牧港から防衛省がPFI契約している民間大型フェリー「はくおう」に74、90、10式戦車などを搭載、往復しました。次の九州への機動展開を含む演習では、2師団初の即応機動連隊となる現3連隊のMCVが、九州の土地を踏むことになるでしょう。
次号では雪深い上富良野演習場におけるMCVの実射訓練をご紹介します。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和四年(西暦2022年)7月7日配信)