地本の業務、募集と援護(3)

先週の最後に「防衛省には職業紹介(あっせん)の権限はなく、職業紹介職業紹介権を持つ自衛隊援護協会という組織が防衛省に替わり行なうという形を取っています」と記しましたが、サポートの具体的な例として、リーマンショックが発生した2008年の不景気が続き再就職事情の厳しい時期、都内の駐屯地で実施された「2年後に定年退職を控えた自衛官のための就職援護教育」をご紹介します。
この日の参加者25名ほどで、多くが曹長や准尉、なかには最上級先任曹長の姿もちらほら。そんな彼らに対し、援護課は最初のあいさつの時点から容赦なく厳しい現実を伝えました。
「みなさんは先輩方から就職に関する話をいろいろ聞いているかもしれません。しかし決してそれを鵜呑みにしないでください。先輩たちが再就職した好景気の時期の話は、現在の不況下においては通用しません。また、定年退職者数は増加するのに、企業の受け皿の数も同様に増加するわけではありません。先輩たちと同じ企業に同じ雇用条件で再就職できるとは限らないことを認識してください」
「部隊では部下がいろいろやってくれたかもしれませんが、新しい会社であなた方は新人です。雑用もいとわずやること、年下にも自分からきちんとあいさつすること、いろいろ学び教えてもらう側であることを忘れずに。それから企業とは営利を追求するわけですから、コスト感覚を身につけて下さい。そして健康管理はしっかりと。就職に有利になるよう資格取得を目指すのは結構ですが、どんな資格を取るかは正しい選択を」
のっけからなかなかきつい内容です。
続いて定年退職隊員再就職までの流れが説明されると、メモを取る隊員の姿が目立ちます。
そして陸自の援護組織の編成と東京地本就職援護状況の実績、定年退職隊員の業種別就職状況、業種別平均年収比較、階級別平均年収比較などの話が続きました。この辺りは退職後の生活にダイレクトに関わる問題なだけに、隊員たちの目も真剣そのものです。
厳しい話が続きましたが、最後にはこんな話も聞けました。
「企業が退職自衛官に求めるのは自衛官らしさ。つまり、服装が整い、規律を守り、礼儀正しく責任感があるといった点です。資格や経験だけ求めるなら退職自衛官でなくてもいいわけでしょう。企業がわざわざあなたがた自衛隊出身者を採用したいと思うのは、一般の人にはないこのような資質を求めているからです。たとえば、銀行のATMは1台に1200万円ほど入るそうです。その警備員といったら、通常は入社してすぐの社員がまかせてもらえることなどまずありえません。けれど退職自衛官だったら、自衛隊30数年間の実績を買われて、すぐ担当させてもらえるんです。一般社会で自衛隊時代の階級は役立ちませんが、そこで培ってきたものを活かすのは自分次第であることを忘れないでください」
地本は自衛官にとってまさに「ゆりかごから墓場まで」を具現化した組織なのです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和四年(西暦2022年)3月10日配信)