海上自衛隊幹部候補生学校(5)

ごあいさつ

こんばんは。渡邉陽子です。
住んでいる地域に緊急事態宣言が発令されてしまいました。その瞬間、決まっていた仕事がふたつ、「1都3県からの取材者は受け入れ不可」という理由で中止になりました。年始早々恐れていたことが起きて、さすがにへこみました。気持ちを切り替えないといけませんね。
K様
教官として海自で勤務されたこともあるとは貴重なご経歴ですね。旧軍を負の歴史として関係性を断った陸自とは対照的に、海自は伝統墨守に誇りを持っていますよね。個人的には空自の伸び伸び大らかな空気も大好きです。
N様
五省は難しい言葉が並びますが、実は奇をてらったことは一切言っていないですよね。江田島は見送りに行かれたこともあるのですか。幹候を卒業し、実家にほんの少し立ち寄ることも許されないまま遠洋練習航海に出るのは酷だよなと思っていたのですが、知り合いの自衛官はただただ江田島を離れられるのがうれしい一心だったと言っていました。

海上自衛隊幹部候補生学校(5)

先週に続き、海上自衛隊幹部候補生学校の「ミニトリビア」です。
■基準は艦
●右側通行
これも艦内での動きに準じたもので、「右小回り、左大回り」と、常に右側通行。艦内の廊下は狭いので、これが徹底しないと出会いがしらにぶつかってしまいかねません。そのため、艦に乗っていないときでも右側通行を厳守して体に覚えさせます。
●部屋番号
赤レンガは正面入口を艦の船首と見立てて各部屋の番号を付けています。艦では右舷が偶数、左舷が奇数となるので、正面から見て右側の部屋には偶数、左側の部屋には奇数の番号が付けられています。ちなみにこの正面玄関を候補生たちが使用することは許されておらず、左右両端の廊下から出入りします。
●5分前の精神
海上自衛隊では、艦艇乗員が遅刻して出港に間に合わない「後発航期」は懲戒処分の対象。そのため、どんなことでも時間に余裕を持って臨むよう、常に5分前には次の行動に移る準備が整っているようにします。具体的に流れる号令アナウンスは「総員起こし5分前」「国旗揚げ方5分前」「消灯5分前」など。
■掃除関連
●甲板掃除
幹部候補生学校に限らず、海上自衛隊ではあらゆる掃除のことを甲板掃除と呼びます。
●目立て
熊手を使って砂地に石庭のような目立てをつけるのは、「この場所の掃除はした」という印の意味だけでなく、そこを人が通れば「誰か通った」とはっきりわかるようにするためでもあります。さらに見栄えもいいし、なによりも目立てをしていると雑草が生えにくいのだそうです。
●金属磨き剤
実際は「ピカール」と商品名で呼ばれることが一般的。光るべきものが光っていないことは許されないので、磨き剤と布を使って顔が映るほどに磨き上げます。昔、トイレの排水レバーが真鍮だった時代は、当然レバーも磨いていたそう。
■赤レンガ関連
●建物のサイズ
「赤レンガ」の名称で親しまれている幹部候補生学校庁舎は、左右対称で東西141m、きっかり真東・真西を向いています。
●竪樋(たてどい)
屋根の雨水が赤レンガの壁を汚さないよう竪樋(いわゆる雨どい)を設けていますが、壁面から目立って外観を損ねないようにと壁に埋め込まれています。さらに雨水の地面からの跳ね返りを防ぐため、側溝まで竪樋をつないでいるという細かさ。
●赤レンガは英国製!?
使用されている赤レンガは、ひとつずつ油紙で二重に包装し、イギリスから軍艦で神戸に運び、そこから小船に積み替えて江田島に持ち込まれたと言われてきました。しかしその後の調査の結果、実際は現在の東広島市で生産されたものと判明。当時の日本は外国崇拝の傾向が強かったため、帝国海軍の威厳を示そうとこのような話になったとか……。
●赤レンガのサイズ
江田島で使用されている赤レンガは、現在のものよりも一回り大きく製造されています。この建物は従来の日本建築とは根本的に異なるため、外国技術者の指導が必要でした。そのため、西洋人の手の寸法に合わせたサイズのレンガになったと言われます。
●ドアがない!
赤レンガには、各部屋に入るためのドアはあっても、この建物に入るためのドアはありません。必然的に雨風がホールにがんがん吹き込んでくるし、天井からつり下がる電灯も揺れまくります。甲板掃除も大変な労力を伴います。海軍兵学校時代の生徒はこの建物で寝起きしていたので、ドアがないのは「総員起こしの邪魔だから」との説も。
●玄関ホールの床板
赤レンガの玄関ホールの床板は、旧帝国海軍の軍艦である初代「金剛」で使用されていた甲板板に使用されていたチーク材をそのまま使っています。3つ並んだ穴は、甲板にビス打ちされていた穴の名残。「金剛」は明治43年に除籍しました。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)1月14日配信)