陸上自衛隊 中央輸送隊(1)

今週から自衛隊唯一の輸送専門集団である陸上自衛隊中央輸送隊についてご紹介します。
陸上自衛隊の輸送科は、大型車両で部隊、戦車、重火器、各種補給品を輸送するとともに、輸送の統制、ターミナル業務、道路交通規制などを行なう職種です。
2018年3月に大規模改編が行なわれ、現在のおもな輸送科部隊は各方面隊の方面輸送隊、師・旅団の後方支援連隊隷下の輸送隊、そして防衛大臣直轄の中央輸送隊となっています。
中央輸送隊は輸送科のいわば総本山です。
輸送科の仕事は「A地点からB地点まで大型車両で人や装備品を輸送する」とシンプルに思われがちですが、輸送科職種の隊員すべてが自ら大型車両を運転しているわけではありません。
自衛官にもあまり把握されていない、しかし輸送科にしかできない重要な輸送業務も担っています。そこで中央輸送隊の紹介を通して、それらの任務に触れたいと思います。
横浜駐屯地に所在する中央輸送隊は陸海空自衛隊で唯一、総合輸送統制を任務としている部隊です。
1983年に中央輸送業務隊として発足。2018年に名称も含め改編され、現在の組織は隊本部、輸送処理隊、第1~第5国際輸送支援隊などからなります。
複数の輸送業務を常に並行して、そして非常に広い範囲にわたって行なうこと、動く規模が小さく、陸曹でも1~2名で「行ってこい」と出され、現場では責任者として仕事をすることが求められる点などが特色です。責任重大ですね。
中央輸送隊のおもな任務としては、まず国内における2方面区にわたる災害派遣、演習、補給などにかかる輸送が挙げられます。
所在地と同じ、あるいは隣接する方面区へ移動する場合は、各方面隊にある輸送隊が輸送業務を担当します。たとえば東部方面隊から東北方面隊、あるいは中部方面隊のエリア内への移動ならば、方面隊の輸送隊の担当です。
しかし、たとえば東部方面隊以西の部隊が北海道の演習場を使って訓練を行なう場合などは、人も装備品も2方面区以上の長距離を移動することになるので、輸送支援は中央輸送隊の担当となります。
具体的には船舶や航空機などの手配のほか、移動先では待機位置(駐車場・待合室など)に誘導したり、部隊が行なう搭乗手続きの補助を実施したりします。これかだけでも「へえー! そうなんだ!」という感じがしますよね。
隊員や装備品の輸送には民間の船会社や航空会社も利用するので、輸送するものに対してどのようなタイプの船舶(あるいは航空機)を選ぶのが最適かといった情報量の豊富さや的確さも、中央輸送隊ならでは。
このように、輸送業務といっても隊員たちがトラックを運転して人や装備品を運ぶわけではなく、輸送に関わる手配や諸手続きなどを一括して担当するのが仕事なのです。
ところで、先日北海道へ取材に行っていたのですが、取材を終えて帰る日の朝、タイミングよく陸演で九州の日出生台演習場に行っていた第2戦車連隊の戦車が苫小牧に到着、民間フェリー「はくおう」から下船するシーンを見ることができました。こういう場面にもかならず中央輸送隊が関わっています。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)10月28日配信)