自衛官候補生による射撃場での死傷事件(4)

今回は自衛隊施設内で発生した事件のため、自衛隊の警務隊と岐阜県警による合同捜査となっています。
警務隊は自衛隊の警察にあたり、犯罪捜査や容認警護などを担当します。職務中に自衛隊員が起こした事件や自衛隊員に対する事件、自衛隊の敷地内や施設で起きた事件などを捜査します。
陸軍の憲兵のような立場ですが一般の国民は対象ではなく、対象はあくまで自衛隊内のみ。逮捕権はありますが軍事法廷がないので、今回のような事件では警察と一緒に捜査を行なって検察庁に送致します。
なお、外国では軍内部の捜査に警察は入りません。基本的には軍法に従い、軍隊の中のミリタリーポリス、いわゆるMPが軍隊の中で起きた事件を捜査、逮捕し、軍法に基づいて処罰します。

拘留期限を迎える2023年7月4日、警務隊は菊松1曹への殺人容疑で候補生を再逮捕。引き続き警務隊による捜査が進められていますが、候補生の認否について防衛省は「捜査や今後の裁判に影響を与える可能性がある」として明らかにしていません。また、浜田靖一防衛相(当時)は同日の会見で、候補生は現在岐阜拘置支所に勾留されており、6月27日に自衛官候補生としての任期を満了する予定でしたが、引き続き調査するため任期を3カ月延長したと述べました。

安全管理が徹底しているはずの射撃場で、なぜこのような凶行が起きたのでしょう。
通常、隊員は準備線、待機線、そして射座という順番で的に向かって進みます。事件当日、候補生たちは「準備線」で待機している際に教官から指示を受け、複数の弾倉に実弾を込める作業を行なっていました。
実は、弾倉に実弾を込める作業をどこで行なうかは決まりがなく、射撃場の状況などに応じて教官の指示で行なわれています。
今回、なぜ準備線で実弾を弾倉に込めさせたのかについては、35連隊に勤務経験のある隊員がNHKの取材に「自衛官候補生は一つひとつの動作が遅く、射撃位置についてから弾倉に弾込めをさせると時間がかかりすぎてしまい、予定通りに訓練が進まなくなるため」と答えています。
射座には多くの監視者がいますが、準備線や待機線には多くの人員を配置しません。実際、今回も八代3曹ひとりでした。準備線で弾倉に実弾を込めることができたのですから、後は制止される前に弾倉を装填すればいいということになります。

陸自では自衛官候補生などを対象にした基本的な訓練では防弾チョッキを着用しないとしているし(今回は着用していてもあの至近距離からの射撃では無意味だったでしょうし、陸自の防弾チョッキ自体の性能にも問題があります)、鉄帽をかぶっていた菊松1曹の頭部に致命的なダメージを与えました。そして射撃場にはAEDも担架もなく、AEDのあるコンビニに隊員が駆けていく姿が目撃されており、銃撃を受けた隊員は戸板で運ばれました。準備線での弾倉への弾込めも含め、自衛隊は安全管理態勢に不備がなかったか調べています。

(つづく)