自衛官候補生による射撃場での死傷事件(3)

候補生が手にしていた89式小銃は発射後自動的に弾薬の装填などが行なわれる自動小銃です。1発ずつ弾を撃つ「単発」のほか、1分間に約850発の速さで発射できる「連発」、3発しか出ない3点制限点射機能などの設定に切り替えることができますが、今回は単発モードで射撃されました。
有効射程500m、銃口初速は秒速920m、時速にすれば約3312kmという小銃でこれほどの至近距離から撃たれたら、鉄帽をかぶっていても防弾チョッキを着ていたとしても用をなさないという威力です。

0930頃に通報で駆けつけた岐阜県警が現場に到着、0932、候補生の身柄が県警に引き渡されました。
菊松1曹と八代3曹は心肺停止の状態で病院に搬送され、1045に菊松1曹、1123に八代3曹の死亡を確認。菊松1曹への1発目は左前頭部に被弾、2発目は背中から胸に貫通しており、死因は失血死でした。八代3曹は脇腹から入った弾が逆側の脇腹に貫通しており、死因は出血性ショックでした。2人ともほぼ即死とみられます。

銃撃された3名は射撃場以外で候補生を直接指導する担当ではありませんでした。
菊松1曹と原3曹は35連隊で候補生を支援する新隊員教育隊本部に所属し、訓練計画の検討や物品手配と訓練を担当していました。
八代3曹は4~6人の候補生の班を指導する立場でしたが、候補生の担当ではありませんでした。
銃撃のきっかけが判然としないことから陸自中部方面警務隊は19日、候補生の実家の家宅捜索を行ないました。

6月21日には守山駐屯地でふたりの「送る会」が営まれ、遺族や白い手袋をつけた礼装の隊員約500名が参列。防衛省によると、死亡した隊員2名を1階級特別昇任し、公務災害も認定しました。全治約3カ月の重傷を負った原3曹についても公務災害を手続き中で認められる予定といいます(6月27日現在)。

これまでの調べで、候補生は銃撃の理由を「銃と弾薬を自分のものにして外に出たかった。犯行は当日、射撃場に向かうバスの中で思いついた。弾薬を奪うために邪魔な人を撃った」、弾薬係の2人を撃った理由については「『動くな』と言って銃を向けたのに、伏せたり手を上げたりしなかったので挑発されたと思った」。
さらに「その人たちに恨みはなかった」と3人に対する殺意を否定しながらも、菊松1曹に対しては「体が大きく動かれたら弾薬が奪えなくなり困るので、倒れている背中を撃った」と、強い殺意が感じられます。
菊松1曹については、逮捕直後には「狙っていた」や「叱られた」という趣旨の供述もあったようですが強い怒りや不満などを口にすることもなく、取り調べでも「弾薬置き場にいた人」と、名前も把握していないような様子も見られたので事実は不明です。
行動を阻止されると撃った八代3曹の役割や性格についてなどは話したといい、「やさしい人なので本当は撃ちたくなく、脚を狙ったつもりが外れた」とも供述しているといいます。また、銃弾を奪った後は「射撃場の外に出て、自衛隊や警察が追ってきたら奪った弾で銃撃するつもりだった」とも述べているが、それでなにがしたかったのかは明らかではありません。

(つづく)