海上自衛隊東京音楽隊(6)

海上自衛隊東京音楽隊の紹介は今回が最終回です。
2016年12月9日、すみだトリフォニーホールで開催された定例演奏会の話の続きです。
ステージのセッティングが完了したら、隊員ごとに割り振られた楽屋に散らばり昼食となります。
ここで音楽隊長はじめ幹部自衛官の楽屋へ弁当を届けるのは新人の役目なのですが、渡すべき相手の部屋がなかなか見つからず、3人で階段を往復するシーンも。
ようやく自分達の食事の時間となっても先輩と一緒の楽屋なので、いくらやさしくしてくれるといっても気を緩めるわけにはいきません。
15時から本番のステージでリハーサルが行なわれ、次第に開演に向けての準備が進んでいきます。
新人3人が東京音楽隊員としてこのホールで演奏するのはもちろん初めて。
3人の中でもっとも客席から目立つ位置に座るのが、最前列かつセンター寄りという池田2士。おそらく本人はそんなことよりもしっかり演奏することで頭はいっぱいでしょう。
全体のリハーサルが終わった後も、開演前に行なわれるプレコンサートのメンバーはステージに残って音合わせをしています。
在川2士もメンバーの1人ですが、先輩たちに交じっても臆することなく、ぴたりと息の合った演奏を見せています。
演奏用の制服に着替え、18時の開場と同時に来場者が会場に入ってくると、一気にコンサートらしい華やかな雰囲気がホール全体に広がりました。
チケットの申し込み方法ははがきのみと古風ですが、この申し込み方法や演奏会の告知をどう行なうかによって、大量の申し込みが届いてしまうことがあるそうです。来られない人が多すぎては申し訳ないと告知を地味にしすぎると、今度は演奏会があることを知らない人が増え、客席が埋まるか担当者が胃の痛む思いをすることになります。この日は1500~1600人ほどの来場があり、客席はほぼ満席となりました。
本番前、ステージ袖に隊員たちが揃います。前半は原2士の出番はありませんが、在川2士と池田2士は先輩たちと一緒に控えています。自衛隊音楽まつりという大舞台をすでに経験したせいか、2人はほどよい緊張感を保ち、なおかつはたから見ると演奏会を楽しんでいるような余裕すら感じられます。
いざ本番となり先輩達と一緒に演奏する姿も堂々としたものです。
2部からは原2士もステージに上がり、新隊員3人揃っての初めての定期演奏会となりました。
クラシックからラテン、ワルツ、ゲーム音楽にクリスマスソングまで、さまざまな楽器のソロが満載のプログラムは、各隊員の演奏技術の高さと東京音楽隊としてのレベルの高さ双方が備わって、初めて実現するものです。
2部のスタート曲『セレブレイション』ではパーカッションに音楽隊長の樋口2佐も参加、会場を大いに盛り上げました(音楽隊長は指揮者ですから、演奏する姿を一般の人が見るのは非常に珍しいことなのです)。樋口2佐はパーカッション出身とあってノリのいいラテンが好みだそうですが、定例演奏会では荘厳な響きから慈愛に満ちた音色まで、その指揮で自在に奏でました。
アンコールではヴォーカリストの三宅由佳莉も登場。現在入校中のため、今回の登場はこのアンコールのみです。人気も知名度もずば抜けた彼女が登場しないと、「由佳莉たんファン」はさぞや肩を落とすことでしょう。そこは東京音楽隊もちゃんとわかっています。
宮城県に住む私の知人は、東日本大震災で被災した際、避難していた体育館を訪れた音楽隊の演奏に涙が止まらなかったと言っていました。あまり知られていませんが、陸海空各音楽隊は、それはもう膨大な数の慰問演奏を実施しました。体育館のような大きな施設のみならず、ごくごく小規模の避難所でも屋外でも、音楽で人々を励まし続けました。
隊員の士気高揚のための演奏が、音楽隊が存在するもっとも大きな意義であることに変わりはないでしょうが、音楽の力で自衛隊と国民をつなぐ架け橋となることもできます。
新隊員たちはこれからさまざまな場面で演奏を重ね、それを実感することでしょう。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)6月22日配信)