「ひゅうが」型護衛艦運用史(6)

護衛艦「ひゅうが」型運用史最終回です。
2022年は英海軍の航空母艦「クリーン・エリザベス」が日本に初来航したことが話題となりました。テレビや新聞でも取り上げられたので、日頃ミリタリーにまったく興味のない人でも、ニュースを知っている人は多かったのではないでしょうか。
横須賀にやってきた「クリーン・エリザベス」を少しでもいい場所で撮影しようとしたマニア(もしかしたら商業カメラマン?)が、入港場所をいいアングルで撮影できる場所の木を切ってしまったとか、好ましくないニュースも世間をにぎわせました。これはもう「ダメ絶対」ですね。

気を取り直し、改めて……
「クリーン・エリザベス」は2022年5月に本国を出発、NATO加盟国の艦船と打撃群を組み、共同訓練を重ねながら9月4日に横須賀に入港。英空母としては「イラストリアス」以来24年ぶりの日本訪問、「クリーン・エリザベス」は初来航とあり、ニュースでも大きく取り上げられました。入港に前後して英海軍とともに来日した仏、蘭、独艦などとの共同訓練も行なわれ、そこに「いせ」も参加しました。

「いせ」はまず、8月24日には沖縄南方海域で米主催の共同統合戦闘訓練「大規模広域訓練2021(LSGE21)」に参加。翌25~26日は沖縄南方で日英米蘭共同訓練「パシフィック・クラウン21-1」、27~28日には沖縄東方から東シナ海で「パシフィック・クラウン21-2」、9月2~7日には東シナ海から4国南方を経て関東南方に至る海空域で英海軍、米海軍、オランダ海軍およびカナダ海軍と共同訓練「パシフィック・クラウン21-3」を実施。加フリゲート艦「ウィニペグ」や英艦載機F-35B、米F艦載機-35B、米海軍P-8A哨戒機も加わり、5カ国共同で戦術技量を向上させるとともにインド太平洋地域でのプレゼンスを示しました。
さらに8~9日にかけて護衛艦「いずも」やMCH-101掃海・輸送機とともに日英米蘭加共同訓練「パシフィック・クラウン21-4」を行ない、戦術運動、通信訓練、発着艦訓練、PHOTEXなどを実施しました。
10月2~3日にも沖縄南西で護衛艦「きりしま」「やまぎり」とともに日米英蘭加新共同訓練を実施、ニュージーランド海軍のリゲート艦「テ・カハ」も加わり対抗戦、防空戦、対潜戦、戦術運動、通信訓練などを行なっています。これら一連の多国間共同訓練を重ねて新たな防衛協力体制を示したことは、中国への牽制にもなったことでしょう。
その後、11月には東シナ海で護衛艦「はるさめ」「あさひ」、ミサイル艇「おおたか」、掃海艇「ひらしま」「やくしま」「たかしま」とともに米海軍強襲揚陸艦「アメリカ」と日米共同訓練を実施、各種戦術訓練を行ないました。訓練につぐ訓練、息つく暇もありません!

ひとつの訓練が終わるとすぐさまほかの訓練と、母港の佐世保にはいつ帰れるのかというほど共同訓練が続く「いせ」。ただ、恒常的に多国と共同訓練を行なうことがどれほど「いせ」、しいては海上自衛隊のみならず自衛隊、日本の防衛にとって有意義なことであるかは、読者のみなさまならおわかりいただけるかと思います。いざというとき「はじめまして」より、「あいつのやり方はわかっている」と思えることがどれほど心強く頼もしく、そして確かな結果に結びつくか。

なお、「いせ」は2023年3月に空母「ニミッツ」、駆逐艦「ディケイター」「ウェインE・メイヤー」との日米共同訓練を実施。9月には木更津駐屯地に所在する陸自第1ヘリコプター団のV-22、オスプレイが「いせ」で発着艦訓練を行ないました。
このように、「ひゅうが」型は多数のヘリコプターを運用する航空機運用機能のほか、中枢指揮機能や医療機能といった多様性を活かし、警戒監視任務とともに災害派遣、自治体と連携した防災訓練、日米共同訓練などに従事しています。

(「ひゅうが」型護衛艦運用史  おわり)