【本の紹介】『革命防衛隊に3度拘束された軍事カメラマンが見たイラン』柿谷哲也(著)

ニュースだけでは見えてこないイランがあります。
革命防衛隊に3度拘束されながらも、20回以上イランを歩き続けた軍事フォトジャーナリストが見たのは、「危険な国」という言葉では語り尽くせない、人々の暮らしと歴史、そして国家の姿でした。軍事・外交・インテリジェンスに関心のある方におすすめしたい一冊です。

『軍事カメラマンの見たイラン』柿谷哲也(著)

危険な国という一言で、イランを理解したつもりになっていませんか?

こんにちは、エンリケです。

イランと聞いて、あなたはどんな国を思い浮かべるでしょうか。
「危険な国」
「反米国家」
「核開発」
「革命防衛隊」
「中東の火薬庫」

おそらく、多くの日本人はこうしたイメージを持っていると思います。

もちろん、それらは間違いではありません。
しかし、そのイメージだけでイランという国家を語ってしまうと、本当に大切なものを見落としてしまいます。
今回紹介する『革命防衛隊に3度拘束された軍事カメラマンが見たイラン』は、その先入観を静かに揺さぶってくれる一冊です。

著者は、フォトジャーナリストの柿谷哲也氏。
20回以上イランを訪れ、通算で約200日を現地で過ごし、その取材の中で革命防衛隊に3度拘束された経験を持つ人物です。

タイトルだけを見ると、危険地帯での武勇伝のように感じるかもしれません。
しかし本書の本当の魅力は、そこではありません。
描かれているのは、イランという国家と、そこで生きる人々の姿です。

「危険だから面白い本」ではない

本書には、軍事好きなら身を乗り出したくなる場面が数多く出てきます。
軍事パレード、旧式戦闘機、革命防衛隊、軍事博物館、艦艇、ミサイル艇。
軍事フォトジャーナリストならではの視点で、イランの軍事的側面が描かれます。

著者略歴

柿谷哲也(かきたに・てつや)
1966年横浜市生まれ。1990年から航空機使用事業で航空写真担当。1997年から各国軍を取材するフリーランスの写真記者・航空写真家。撮影飛行時間約3000時間。『蘇る翼 F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4ファントム』『鷲の翼F-15戦闘機』『青の翼ブルーインパルス』『赤い翼空自アグレッサー』『海鷲の翼F-2戦闘機』『我ら海中自衛隊』(小峯隆生著/並木書房)の撮影担当。著書は『知られざる空母の秘密』『知られざる潜水艦の秘密』『イージス艦はなぜ最強の盾といわれるのか』(SBクリエイティブ)ほか多数。日本写真家協会会員。日本航空写真家協会会員。日本航空ジャーナリスト協会会員。

しかし、この本は単なる軍事ルポではありません。
街角で出会う人々、タクシー運転手、商店主、若者、老人、宗教に生きる人々、戦争を経験した世代。
そうした市井の人々の姿が、軍事的な描写と並んで浮かび上がってきます。

つまり本書は、軍事の本であると同時に、「国家を歩いた記録」でもあるのです。

「歴史しか誇れるものはない」という言葉


本書の中で特に印象に残るのが、イラン人の次の言葉です。
「私たちに誇れるものは、歴史しかない。」
一見すると、自嘲のようにも聞こえます。
しかし、その奥には、数千年の文明を受け継いできた民族の誇りがあります。
経済制裁を受けても、国際社会から孤立しても、生活が苦しくても、彼らには歴史がある。
イラン人にとって歴史とは、単なる過去ではありません。
今を生きるための精神的な支柱です。
この感覚には、日本人にも通じるものがあります。
日本もまた、災害、戦乱、敗戦、復興を経験してきました。
困難を乗り越える力は、経済力や軍事力だけではありません。
自分たちはどこから来たのか。
何を受け継いできたのか。
何を失ってはならないのか。
その歴史への意識が、人を支えることもあるのです。

ではこの本の中身を一緒に見ていきましょう。

目次

プロローグ 1

第1章 拒絶されたイラン入国──国外追放から始まった中東取材 11

 憧れのイラン、最初の一歩は入国拒否 11
  国外追放乗客の手順 14
  入国不可が増えたのは「大統領の采配」か 18

第2章 3度の拘束から見えた「革命防衛隊」──監視国家イランの素顔 20

 体制を守る軍隊「革命防衛隊」20
  美しい壁すら旅行者にはトラップ 22
  撮れば犯罪、それでも惹かれる旧式軍用機 24
  若者が叫びながら追いかけてきた! 27
  ホメイニ廟での軍事パレード 30
  革命防衛隊兵士と食べたアイスクリーム 33

 革命防衛隊による拘束事案〈1〉国軍パレード潜入撮影記 36

 命知らずの相棒と〝アルゴの世界〟へ 36
  オフロードバイクが止まった瞬間 39
  ペルシャ絨毯の上の尋問 43
  逮捕されたらどうなっていたか…… 48

 革命防衛隊による拘束事案〈2〉軍事博物館の裏にて 56

 王朝の遺産と革命体制の矛盾 56
  博物館の裏で銃口を向けられた日 59

 革命防衛隊による拘束事案〈3〉反米イスラエルデモにて 62

 パンデミック前夜、N95とともに旅立つ 62
  イラン前哨戦──ラオス艦艇を追ってミャンマーへ 66
  中国膨張の最前線カンボジア 70
  イマーム広場、祝祭と反米熱狂の朝 75
  革命防衛隊の私服警備網に捕まる 79
  世界遺産と戦場をつなぐ将軍の影 83
〝異教徒〟として捧げた最敬礼 85
  アメリカが読み違えたイラン社会の現実 88

第3章 イラン人が見た日本──『おしん』と出稼ぎが残したもの 91

 日本人はただの珍しい外国人 91
  未知の国の物語『おしん』は、なぜイラン人に受けたのか 95
  政治問題に発展した「おしんラジオ事件」98
  黄金の国「ジパング」へ出稼ぎ 100
  日本で働いたイラン人たちの今 102
  イランでのタクシー「あるある」104
「アメリカに原爆を落とされた」は子供も知っている 106
「早く日本企業に帰ってきてほしい」108

第4章 日本人が知らないイラン──旅の難しさと人々の本音 110

 イラン渡航と「自己責任」110
  訪問81か国中いちばん良かったのは「イラン」112
  旅行者のトラップは「イラン暦」116
  現金枯渇は即ゲームオーバー 117
  イラン人の心の支え「ペルセポリス」121
  イラン人の観光商売 125
  ペルシャ語に言い換えてみよう 128
  外国人からどう見られているか気にしている 130
  ほぼすべての中年男性は戦争に参加した 132
  イランで都はるみの演歌を聴く 134
  メイド・イン・ヤポーンの力 138
  世界遺産級の「日本製」139

第5章 イラン人と宗教──日常に息づくシーア派の世界 143

 ネクタイとケフィエ、そして植毛 143
  シーア派とスンニ派の違いを理解する 148
  イランに住むユダヤ教徒──宗教とシオニズムは別 153
  薔薇とチューリップ 156
  トイレに見るイラン事情 160
  ヒジャブを脱ぎ始めたイランの若い女性 162
  異教徒の壁は越えられない…… 165
  現体制すら容認する世俗の詩人ハーフェズ 168
「フランダースの犬」ネロ少年のジハード 171

第6章 新しい「イランの歩き方」──戦争と革命の記憶をたどる 176

 車窓を飾る殉教者の肖像画 176
  国立イスラム革命・聖戦博物館 178
  再訪した博物館で見た核関連施設の精密模型 182
  ハリボテ作りの「セントウキ職人」にも敬意 184
「イーグル・クロー作戦」の現場に立って 187
  スマホでしか知らないアメリカ文化 192
  アメリカ大使館跡地に飾られる「坂本龍馬」198
「CIAは本気でこんな作戦を考えていたのか」204
  2月28日、イラン大規模空爆の夜 208
  革命防衛隊海軍のミサイル艇は日本製 210
  撃沈直前のイラン艦「デナ」214
  海上自衛隊とイラン海軍 219
  日本だからできる対イラン外交 223

 おわりに 227

いかがでしょうか?

国家と国民は同じではない

イランを語るとき、私たちはどうしても政治体制や国際情勢から見てしまいます。
革命防衛隊、核問題、反米・反イスラエル、宗教規範。
それらは確かにイランの重要な一面です。
しかし、それだけがイランではありません。
本書には、日本製品を愛する人々、日本企業の再進出を願う人々、『おしん』を知る人々、日本の戦後復興に敬意を抱く人々が登場します。
国家と国民は同じではありません。
政治と社会も同じではありません。
体制と人間も同じではありません。
ニュースを見るとき、私たちはこの当たり前のことを忘れてしまいがちです。
本書は、そのことを思い出させてくれます。

これはインテリジェンスの本でもある

私は本書を読みながら、「これはインテリジェンスの本でもある」と感じました。
情報とは、秘密文書や衛星写真だけではありません。
現地の人々が何を考え、何を恐れ、何を誇りにしているのか。
それを知ることも、国家を理解するための重要な情報です。
政府発表だけでは分からないことがあります。
SNSだけでは見えないものがあります。
だから現場へ行く。
だから人に会う。
だから何度も通う。
この地道な積み重ねこそ、国家を見る目を鍛える第一歩ではないでしょうか。

日本とイランの意外な距離感

本書を読んで驚かされるのは、イラン人が日本に抱く親近感です。
地理的には遠く、宗教も政治体制も異なる国です。
しかし、イランには日本への不思議な近さがあります。
『おしん』が国民的人気を集めたこと。
日本製品への信頼。
日本で働いたイラン人たちの記憶。
日本の戦後復興への敬意。
「日本企業に戻ってきてほしい」という思い。
ここには、日本だからこそ築ける信頼の可能性があります。
外交とは、政府同士だけが行うものではありません。
相手の文化を知ること。
歴史を知ること。
人々の記憶を知ること。
そこから始まる外交もあるのです。

「敵」を知ることと、「敵視」することは違う

安全保障の世界では、相手を知ることが基本です。
しかし、相手を知ることは、相手を美化することではありません。
警戒を解くことでもありません。
相手を知るとは、現実を多面的に見る努力を続けることです。
革命防衛隊という組織がある。
厳しい宗教規範がある。
反米・反イスラエルを掲げる政治体制がある。
それらは事実です。
しかし、それだけでイランを理解したつもりになってはいけません。
そこには家族を愛する父親がいます。
未来を夢見る若者がいます。
日本を懐かしむ人がいます。
戦争の記憶を背負った世代がいます。
美しい文化に誇りを持つ人々がいます。
その複雑さを乱暴に単純化しないところに、本書の価値があります。

本書の読みどころ

本書の魅力を整理すると、次のようになります。
・「危険な国」という固定観念を見直すきっかけになる
・革命防衛隊や軍事だけでなく、人々の暮らしと歴史が見えてくる
・現場を歩いたジャーナリストだからこその説得力がある
・日本とイランの意外な接点を知ることができる
・軍事、外交、インテリジェンスを立体的に考える視点が養われる
・国家を「見出し」ではなく「人間の営み」として見る大切さに気づかされる
軍事ファンはもちろん、中東情勢、安全保障、外交、インテリジェンスに関心のある方にもおすすめできる一冊です。

一つの国を一言で語る危うさ

読後に残るのは、「イランはこういう国だ」という単純な結論ではありません。
むしろ残るのは、一つの国を一言で語ることの危うさです。
どの国にも、歴史があります。
文化があります。
矛盾があります。
傷があります。
誇りがあります。
そして、その中で懸命に生きる人々がいます。
私たちは、ときに国家をニュースの見出しで判断してしまいます。
しかし、その見出しの向こうには、数え切れないほどの人生があります。
本書は、そのことを静かに、しかし力強く思い出させてくれます。

まとめ

国家を理解したければ、ニュースだけでなく、その国に生きる人々の声にも耳を傾けたい。
現場を歩いた人の言葉には、机上の分析だけでは届かない重みがあります。
『革命防衛隊に3度拘束された軍事カメラマンが見たイラン』は、イランを知るための一冊であると同時に、私たちが世界を見る目を鍛えるための一冊でもあります。
世界地図は、ニュースだけでは完成しません。
現場を歩いた人の一冊が、その余白を埋めてくれます。

『革命防衛隊に3度拘束された軍事カメラマンが見たイラン』
著者:柿谷哲也(フォトジャーナリスト)
発行:並木書房
発行日:2026年7月31日
四六判・240ページ
価格:1,980円(税込)
https://amzn.to/4p8AvwK

(エンリケ)

追伸

ニュースだけでは見えてこないイランがあります。

革命防衛隊に3度拘束されながらも、20回以上イランを歩き続けた軍事フォトジャーナリストが見たのは、「危険な国」という言葉では語り尽くせない、人々の暮らしと歴史、そして国家の姿でした。軍事・外交・インテリジェンスに関心のある方におすすめしたい一冊です。

『革命防衛隊に3度拘束された軍事カメラマンが見たイラン』
著者:柿谷哲也(フォトジャーナリスト)
発行:並木書房
発行日:2026年7月31日
四六判・240ページ
価格:1,980円(税込)
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