【本の紹介】 『現代語で読む 林子平の海國兵談』 家村和幸(著)

2023年2月23日

石原ヒロアキさんの

『漫画 マハンと海軍戦略』

の冒頭に登場するのが、
幕末の『海国兵談』で有名な、
六無斎 林子平(はやし・しへい)です。

幕末の日本の目覚めを生み出した、といって
過言ではない大先達です。

まさかマハンの漫画で出会えるとは
思いませんでした。

石原さんの、

林子平がマハンに影響を与えたのでは?

というアイデアは実にユニークで面白いです。

もちろん石原さんオリジナルの想像の産物ですが、
、、
今世界を動かす「シーパワー」という考え方が、
林子平に端を発し、マハンを通して歴史に
残ったのではないか?と想像すると、誠に新鮮で、
実は的を射ているのでは?と感じ、ワクワクしま
すw

さて今日ご紹介する本は、
そんな林子平の代表作『海国兵談』の全文現代語訳
です。

海国日本に不可欠な海防を考えるうえで必須の古典
であり、
幕末の奇才はいかなる時代背景で生まれ,、生き、
そして死んでいったのか?
がよく見える古典の復刻です。

▼「解題」 より一部抜粋

<江戸時代中期の兵学者にして経世家である林子平
は、近世日本の国防史上における偉大なる先覚者で
あり、「海國兵談』は、この林子平という人物の生
涯をそのまま体現した書である。子平が生きた時代
には、ロシアの南進により北方への危機感が高まり
つつあると同時に、蝦夷地への関心が一挙に深まっ
た。そうした時代にあって、生涯を通じて北は松前
から南は長崎まで全国を行脚するとともに、長崎や
江戸で多くのことがらを学んだ。そして、ロシア、
唐山や欧米列強に対する危機感を人一倍強く抱くよ
うになった子平は、蝦夷地、琉球、朝鮮等の先制確
保を説いた 『三国通覧図説』と、外敵から日本の
国土を防衛するための兵学・兵術の入門書『海國兵
談』とを著したのであった。
(中略)
林子平が死去してから約六十年後の嘉永四(一八五
一)年、子平が遺した五冊の『海國兵談』 のいず
れかを原本として松下淳校正の『精校海國兵談 十
巻十冊 木活字本』が、そして安政三(一八五六)
年には「準精校海國兵談 十巻五冊』が刊行された
。これら増刷された『海國兵談』は幕府の要人や尊
王攘夷の志士たちに読まれることになる。時まさに
嘉永六(一八五三)年、 米国からペリーが黒船艦
隊を率いて浦賀に来航し、ロシアのプチャーチンが
長崎に来航する前後の風雲急を告げる頃のことであ
った。子平が『海國兵談』で述べていた「異国船を
模倣した大砲を数多く製造し、これらを陸地に設置
する」という発想は、翌嘉永七(一八五四)年一月
中旬のベリー再来航に先んじて、先ずは〝品川台場
"として実現した。また、子平が提示した敵艦に打
ち勝つための数々の方策を知ることになった攘夷志
士たちは、「黒船恐れるに足らず」との自信を抱く
ようになり、これが彼らの大胆不敵な行動の原動力
となった。
このように幕末にペリーが来航するに及んで、江戸
幕府もようやく海防についての重要性を認識するよ
うになったが、さらに明治新政府は、外敵から国土
を防衛するための様々な政策を推進してゆく。先ず
は諸藩兵を基盤とした徴兵制軍隊を編成して「鎮台
制」を整え、明治十(一八七七)年の西南戦争後は
総兵力を倍増するとともに、海峡部などの重要地点
に砲台を建設した。明治十三(一八八〇)年には東
京湾口の砲台建設に着手し、さらに明治二十(一八
八七)年には対馬・下関海峡に同二十二(一八八九
)年には紀淡海峡にそれぞれ砲台建設を開始すると
ともに要塞砲兵部隊を逐次に編成した。一方海防に
関しては、明治十六(一八八三)年から海軍艦艇の
計画的な建造を開始して外洋艦隊と海防艦隊を整備
するとともに、横須賀、呉、佐世保に三つの鎮守府
を設置し、これらで全国の沿海防備を担当した。
各鎮守府には沿岸要地を守るための水雷隊が置かれ
、さらに重要港湾等の防備のために機雷の購入・開
発も進められた。
こうして、林子平が我が身の危険を顧みず 『海國
兵談』 で提唱した「海国に肝要な武備」が、明治
時代前半の“開国された日本”で、ようやく実現し
たのであった>

(「解題」 より一部抜粋)


『現代語で読む 林子平の海國兵談』
家村和幸編著
四六判360ページ
定価2200円+税
発行日 :2022.10
本体価格 ¥2200
発行:並木書房

https://amzn.to/3fwqJor

▼『海國兵談』とは?

今回の本の主人公はつぎのとおりです。

林 子平(はやし しへい)
1738年幕臣岡村良通の次男として江戸で生まれ
る。叔父・林従吾(医師)に預けられる。伊達藩校
「養賢堂」入校。仙台藩内を踏査。建白書『富国建
議』執筆し、藩に提出。1772年蝦夷地探訪、75年長
崎遊学しオランダ商館長ヘイトに出会う。77年唐人
暴動を鎮圧。81年建白書提出。82年長崎で『蘭船図
説』発行。85年『三国通覧図説』著す(48歳)。
91年『海國兵談』全16巻38部刊行(54歳)。92年小
伝馬町牢屋敷に入牢。93年写本4部作成後、仙台で
病死(56歳)。

家村和幸(いえむら かずゆき)
兵法研究家。防衛大学校卒。北海道の普通科や機甲
科部隊にて小銃手、戦車小隊長、情報幹部、運用訓
練幹部として勤務。その後、方面総監部兵站幕僚、
戦車中隊長、陸上幕僚監部教育訓練幕僚、偵察隊長、
幹部学校戦術教官、研究本部員を歴任。第一線の
歩兵・戦車兵から部隊運用、兵站、教育訓練、研究
開発まであらゆる軍務を経験。退官後は日本兵法研
究会会長として、戦略・戦術・戦法、武士道精神、
古代史等を研究しつつ、広く国民に普及する活動を
展開している。

『海國兵談』は、
海国日本、「世界の中の日本」の目覚めをもたらし
た国史上欠かせない古典です。

これだけ重大な書であるにもかかわらず、
わが国では一部の人以外に注目されることがあまり
ありません。
このことが不思議で仕方ありません。

言うまでもないことですが、
書かれている内容が幕末当時の内容なので、
兵器や作戦用兵のことなどが今と違うから参考にな
らない、
という言葉は「先人の言わんとしたこと、なさんと
したことを見抜き、
今に活かす応用能力を持つ力」をまず鍛えてから、
と申し上げておきます、

わが国は海国であるにもかかわらず、
海の武への意識が乏しいですね。
非常に不思議なことですが、海を通じて何かがもた
らされた結果
わが国が形成されたというよりは、全ての始まりが
我が国から
起きているからかもしれません。

しかし、とくに羹に懲りてなますを吹く状態の戦後
日本に生きる
人にとっては「海国日本」への感覚意識がこれまで
の時代以上に重要です。

わが国は海国です。
海からの守りに関わる戦略が
国家には必須不可欠です。

国政政治に投票する主権者としては、
不変で変わらぬ、海の守り、シーパワーの何たるか
に関する核心だけは、きちんとつかんでおきたいで
すよね。

おかしな世論操作や世論誘導に
右往左往されない海の守りへの見識だけは、
素人であろうとも、主権者としてわきまえておき
たいですよね。

それにしても、仙台藩・工藤救卿の「序」を読むと、

「えっ? これいつのはなし?今じゃないよね?」

と声が出るほど、あまりに今の状況と符合しており
ビックリされることでしょう。

ではさっそく、この傑作古典の内容を見ていきまし
ょう。

———————————

海國兵談(現代語訳)

海國兵談序

海國兵談自序

第一巻 水戦(海上における戦闘)

第二巻 陸戦(陸上における戦闘)

第三巻 軍法及び物見(軍の刑法・規則と偵察・斥
候)

第四巻 戦略(作戦戦略・戦術・戦法)

第五巻 夜戦(夜間における戦闘)

第六巻 撰士及び一騎前(士卒の選抜と個人装備品
・各個の戦闘)

第七巻 人数組附人数扱(部隊の編制・編成、部隊
を動かす手段・方法について付記)

第八巻 押前、陣取、備立及び宿陣、野陣(行進、
集結、戦闘展開と宿営、野営)

第九巻 器械及び小荷駄附糧米(兵器・戦闘用資器
材と兵站について付記)

第十巻 地形及び城制(地形の概要と城築城)

第十一巻 城攻め及び攻具(攻城戦と城を攻めるた
めの資器材)

第十二巻 籠城及び守具(籠城戦とを守るための資
器材)

第十三巻 操練(部隊訓練)

第十四巻 武士の本体及び知行割・人数積 附制度
法令の大略 (武士のあるべき姿と土地支給の割当
・出動可能人馬の算定基準、制度・法令の概要を付
記) 20

第十五巻 馬の飼立、仕込様 騎射の事(馬の飼育
、調教法、馬上弓射に関して付記)

第十六巻 略書(総括 文武両全の国家統治、優れ
た将軍の条件、経邦済世の術等の概要)

初巻から第十五巻までは、水陸の戦闘について述べ
たものである。略書は文武相兼ねて国家を経済し、
食料を満たし、兵を充足することの意義を論じるこ
とで、大将の心得とし、兵士の心印とするものであ
る。読者自身の事情を踏まえ、さらなる工夫を加え
よ。(林子平述)

林子平自跋

解題 林子平の生涯と『海國兵談』日本兵法研究会
会長 家村和幸

解題 林子平の生涯と『海國兵談』日本兵法研究会
会長 家村和幸

—————————–

いかがでしょうか?

この兵法書は、国内における大名同士の内戦や、幕
府に対する内乱擾乱といった「国内戦」を想定して
書かれたものではなく、外国からの侵攻に対し、い
かにして日本の国土を守るか
を論旨としている。具体的には国内外の情勢を歴史
的な考察を交えて述べ、第一巻「水戦」で船と砲台
を中心とした各種兵器による海岸防備の重要性・必
要性を説くとともに、異
国船を沈める手段と方法をいくつも提示した。それ
らは独創性に富み、創意工夫に満ちたものばかりで
あった。…これらは皆、「今までの日本の兵法家の
誰も考えたり、言ったりしてこなかったこと」であ
った。〈解題より〉

なのです。

▼武の古典の現代語化事業

家村さんはいま、
「「武の古典」の現代語化」という事業に
取り組んでらっしゃるようです。

個人的にこの意義はとても大きい、と考えています。

家村さんは、防大卒の元幹部自衛官です。
武の古典を現代語化するには、現代の武の言葉をキ
チンとわきまえた家村さんのような人物でなきゃい
けません。武に無知で頓珍漢な訳語しか作れない人
の現代語訳など、何の役にも立ちません。

これまで家村さんは、

「闘戦経」
「孫子」
「大楠公関連古典」

といった武の古典を現代語化されています。

なかでも「孫子」の現代語化
「図解 孫子兵法」
は、孫子注釈書の最高峰とされる
山鹿素行の「武経七書諺義 孫子」を底本として採
用したきわめてレベルが高い内容です。

多くの兵法や武、軍事の専門家、研究者、ファンた
ちが今の世にこの本と巡り合うことができたことは
幸い、とすら思わせる内容です。

わが武の古典再発掘、という家村さんの仕事は永遠
に残ることでしょう。心から敬意を表します。

ちなみにわたしはいまでも、折に触れては
「闘戦経」を紐解いて自らの立ち位置を確認してい
ます。

今回家村さんは、
我が国で最も優れた兵学者のひとりといえる
林子平の「海国兵談」を取り上げました。

孫子の時と同じ、いやそれ以上の意義と価値がある
内容と思いました。

林子平というひとは知る人ぞ知る人というイメージ
で、
一般人で知る人は少ないですが、業界やファンの間
では知らない人はいない
存在です。

海國兵談も同様の扱いです。
そのためか、意義と存在の重さのわりに、
こなれた現代語での解説が出ず、
いまに至っています。

古来からの国語が問題なく使える日本人がいればよ
かったのでしょうか、
戦後日本は過去の日本とつながる言葉の断絶を図り、
戦陣が残した知的遺産を国民皆が軽々と読める状態
をなくしてしまいました。

その結果、世界唯一といってよい
「温故知新を現実に実践できる知的遺産を持つ国」
なのに、その術を失っています。

いま日本人がすべきことは
「縦線を辿って今に活かす」
ことと考える私にとって、家村さんの事業は心から
の賞賛を捧げるに値するものです。


『現代語で読む 林子平の海國兵談』
家村和幸編著
四六判360ページ
定価2200円+税
発行日 :2022.10
本体価格 ¥2200
発行:並木書房

https://amzn.to/3fwqJor

▼時代の先覚者・林子平

時代の先覚者は常に天才で、
どちらかといえば不遇な生涯を送ります。

寛政の三奇人といわれた

高山彦九郎
蒲生君平
林子平

はいずれも不遇な生涯を送りました。

しかし不屈の魂で生き抜いた彼らの志、魂、主張、
生きざまは次代を生きた維新の志士たちに受け継が
れ、明治維新という形で見事に花開きました。

日本が日本であった時代のはなしです。


『現代語で読む 林子平の海國兵談』
家村和幸編著
四六判360ページ
定価2200円+税
発行日 :2022.10
本体価格 ¥2200
発行:並木書房

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▼あなたは何をつかみ取るでしょうか?

良書や古典を読書する意義は、
自らの知性を啓き、感性を発することにあります。

いくら素晴らしい所を読んでも、
自らの中に問いがなければ、その意義を達成するこ
とはできないでしょう。

あなたが本書を読む目的は何でしょうか?
どういう目標をもって本書を読むでしょうか?
本書を読むことを通じていったい何を得たいのでしょうか?

素晴らしい古典の復刻を受け、あらためて「時間軸を飛び越える書物の価値」を感じています。
今年の秋は、本書といっしょに読者の喜びと醍醐味をとことん味わいましょう。

あなたは、何をつかみ取り、その後の人生に活かすのでしょうか?
とても楽しみです。

最後にあえて言いましょう。

林子平が日本のマハンなのではなく、
マハンが米国の林子平だったのだ、と。

わが「海の地政学」
わが「シーパワー」

のなんたるかをつかみたい日本人は必須必読です。

心からおススメします。


『現代語で読む 林子平の海國兵談』
家村和幸編著
四六判360ページ
定価2200円+税
発行日 :2022.10
本体価格 ¥2200
発行:並木書房

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エンリケ

追伸

「日本橋から唐、オランダまで境なしの水路なり」

江戸時代中期、ロシア船の来航に危機感を抱いた
兵学者・林子平(はやししへい)は、外敵から日本
を守る戦略・戦術・戦法の入門書『海國兵談(かい
こくへいだん)』を著し、大砲と軍艦の配備を訴え
た。それから60余年、ペリー率いる黒船艦隊の再
来航を前に「大砲を数多く製造し、これらを陸地に
設置する」という林子平の発想が品川台場として実
現。さらに外国船に打ち勝つ方策を学んだ攘夷の志
士たちは「黒船恐れるに足らず」との自信を持ち、
それが維新の原動力となっていく。太平の世に警鐘
を鳴らした先覚者・林子平の『海國兵談』全文を現
代語訳です!

ある方が、子平のことを「兵頭二十八さんのような
人でしょうね」と称しました。

時代の先覚者、天才という意味で全く同感です。
あなたはどう思いますか?


『現代語で読む 林子平の海國兵談』
家村和幸編著
四六判360ページ
定価2200円+税
発行日 :2022.10
本体価格 ¥2200
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