【第63講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その41)

今回は、動詞から分かれ出た言葉である「分詞」について学んで行きましょう。
☆分詞とは何か?
 動詞は、「動作」を表す言葉です。そして・・・動作についてその成立条件を考えて
みましょう。

 何故、動作が出来るのか?
 それは・・・「時」があるからです。
 動詞とは、おおまかに言えば、動作とそれを成立させる条件となっている時を表す
言葉です。今回は、この動詞の持っている性質を土台にして・・・接辞化(接頭辞、
接尾辞をつけること)することで動詞から別の品詞(形容詞と副詞)を作り出すことを
します。
 そもそも、「詞」も「辞」も日本語では「ことば」と読んでいますが、「詞」は、
文の中で単独で使ってもOKなのです。が・・・「辞」の方はそうではありません。
「辞」とは、「詞」にくっ付くことで初めて「辞」の意味が理解されるのです。
 例えば・・・詞の頭に(左側に)付くのを接頭辞と言います。
 英語なら”re-“(再~)、”in-“(不~・非~)などの接頭辞はよく知られていま
す。(ex. reconstruction = re- + construction。スペイン語reconstruccion= re- +
construccion →再 + 建築=再建)
 また、詞の後ろに(右側に)付くのを接尾辞と言います。
 英語なら、「動詞の原形」に”-er”を付けると「~スル人」という名詞を作り出し
ました。(ex. killer = kill + -er → 殺す + ~スル人 =殺す人。スペイン語
では、√語根に-ar動詞なら-ador、-er動詞なら-edor、-ir動詞なら-idorをつけます。
例:matador = matar 殺す→√語根mat- + -ador=殺す人。闘牛のマタドール、ここか
ら垂直離陸機ハリアーのスペイン海軍仕様の呼び方にも使われています)
 「辞」の方は、文の中で自立性がありません。「もう一回やるで」の意味で英語を
話す人の前で”Re”と言ってみたり、「これをする人やねん」の意味で”Er”と言っ
てみても何も通じません。詞と組み合わさって初めて”味”が出てくるのです。
 辞・・・見ているとコバンザメのようですね。
 (組織には、コバンザメのような人も中にはいます。どんな組織にもケモノタイプ=
強い者には弱く、弱い者には強いというような腐った輩の二、三はいるものですが、
「お前、コバンザメみたいに頭に吸盤がついとんねんやろ~」とか言われる所以です
ね。)
 この辞を付けて単語を増やして行くことを「派生(derivacion)」と言います。
 今回は、動詞の語根から接尾辞を付けて、形容詞、副詞を派生させることを学びま
す。この派生させた形容詞、副詞を「分詞」と呼びます。形容詞の方は、「過去分
詞」、副詞の方は、「現在分詞」と言います。
☆分詞の種類と考え方
 分詞(participio)とは・・・ラテン語の動詞”participere”「分け前にあずかる」に
由来している言葉です。作りかたは規則的です。要するに動詞にそれぞれの分詞の語尾
を付けて派生させるだけであるからです。
 分詞(過去分詞にせよ現在分詞にせよ)は、動詞の持っている基本的な意味に「過去
分詞=完了」、「現在分詞=不完了」という相(アスペクト→時の中に表現される間を
述べること)の概念がプラスされています。
 先ずは、過去分詞から始めましょう。
☆過去分詞(participio pasado)の作り方
 大きく分けると次の二種類しかありません。
1)-AR動詞 →         √語根 + -ado
2)-ER動詞と-IR動詞 →   √語根 + -ido
ex.  hablar √habl- + -ado hablado
    comer √com- + -ido comido
    vivir √viv- + -ido vivido
3)不規則変化は次のようなものがあります
escribir(書く):escrito
abrir(開く):abierto
cubrir(覆う):cubierto
morir(死ぬ):muerto
volver(戻る):vuelto
romper(壊す):roto
ver(見る):visto
poner(置く):puesto
suponer(仮定する):supuesto
hacer(する):hecho
decir(言う):dicho
☆過去分詞の用法
1)語尾変化させる場合
 動詞から派生させた形容詞であり、故に名詞を修飾します。その際、”-o”で終わる
形容詞と同じく性・数の語尾一致をします)。
ex.
 los cadaveres enterrados 埋められしまった死体(複数)→埋葬済遺体
 los cadavers icinerados 火葬されてしまった死体(複数)→火葬済遺体
 la semana pasada  過ぎてしまったその週→先週
 el mes pasado 過ぎてしまったその月→先月
2)語尾変化させない場合
 動詞haberを助動詞として組み合わせ、現在・過去・未来の各時制において、現在完
了、過去完了、未来完了等の「完了」の表現をします。(現在完了の例文を下にあげて
おきますが、本格的に習うのはもう少しあとです・・・)
ex.
Yo he comprado un machete.
僕は、マチェーテ(マシェット:南米の蛮刀)を一本買って有るよ。
 動詞は、動き・行為を表すものです。その動き・行為を「完了」してしまったものと
してひとまとまりにして捉えるのが過去分詞の持っている機能です。
☆完了(perfecto)の概念について
 動作が終わって・・・丁度、熱くして溶かしたゼラチンがドロドロの状態から、冷え
て固まっしまった・・・しかし、まだ熱い温度が残っている「今そこにある過去」の状
態を表現します。
“perfecto”の”per-“は、1カラ10マデ通して(英語”through”)・・・の意味。
“-fecto”は、やってしまった・済んだ(英語”done”)の意味。
 よって、行為自体は、「言ったその時点で済んでいること」を意味しています。
 日本語でも「済む」の”済”は「わたる」とも読みます。川をわたる。一線を越えて
向こう岸へ行く=やってしまうこと・・・を表しているのです。
 完了とは、言わば、目の前にあるリンゴがきれいに食べて仕舞われて、今は自分の
胃袋の中にある状態を示しているのです。
☆過去分詞の日本語訳の注意
 他動詞から派生させた過去分詞は、受動的(~サレタ)であり、一方、自動詞から
派生させた過去分詞は、能動的(~シタ)な意味をになっています。また、再帰動詞の
場合には、過去分詞にすると・・・再帰代名詞の方は、省略されてしまいます。
☆受動態での過去分詞(語尾変化あり)
 スペイン語では、形式的に能動態(se +第三人称・単/ 複で無人称表現)をとる:
ex. Se venden las revistas en este quiosco.
(このキオスクでは雑誌が販売されいます。)
 という形があり、対格の名詞に解釈の際、主語のガをつけて、~ガ...サレルとい
う意味の取り方をして、文は、能動形式・・・しかし、意味は、受動を表す口語の受動
表現があります。
 しかし、スペイン語にも英語で学習したような”be+p.p. “の方式による、
“ser+p.p.”の表現方法による受動態の表現があります。
 こちらは、書き言葉・・・「文語的」であり、それ故、「かた苦しい感じ」がするの
で、話言葉=会話体=口語表現ではあまり一般的な表現ではありません。
 この書き言葉的な受動表現ですが、英語と同じく、行為者は、前置詞 “por(by)”に
よって導かれます。
 この時、過去分詞は、既に純然たる形容詞として扱われますので、必ず、性・数の
一致を行わなければなりません。
ex.
 El alcalde es respetado por todos.
 (市長は、みんなに尊敬されている。)
 El castillo fue construido por Toyutomi Hideyoshi en 1597.
(その城は、1597年に豊臣秀吉により建立された。)
 El castillo fue reconstruido por la ciudad de Osaka.
(その城は、大阪市により再建された。)
 La fortaleza fue destruida por los barbaros.
(その要塞は、蛮族により破壊された。)
☆現在完了での過去分詞(語尾変化なし)
 各時制での「~完了」(現在完了・過去完了・未来完了)の表現は、スペイン語が
ラテン語であった時代には、別に独立した「完了」のための活用語尾がありました。
が、今では、ロマンス諸語全体に動詞HABER(持つ)+p.p.の形をはじめとす
るような迂言法が広まり定着してしまいました。
 現在完了は、動詞haberの現在形+p.p.で以て、現在時制の中で現在の時の
中にある間=相(アスペクト)を表現するものです。
 現在完了とは、現在とは関係のない過去のことを言うのではなくて・・・あくまで
「現在という”時”の中にある”間”」が問題なのです。
 その言っていることとは、その現在の発話時点に関係のある「行為」の状態=済んだ
のか?/済んでないのか?という主観的な判断による間のこと=相(アスペクト)のこ
とを表現するものです。
 次にスペイン語の直説法・現在完了の表現を学びましょう。活用は、動詞”haber”
の直説法・現在に過去分詞を足して表現します。発音する時は・・・まとまった概念を
述べる訳ですから、これらの二語を一語のようにして発音します。
では、第一人称単数から列挙すると次のようになります:
ex.
hablar
he hablado
has hablado
ha hablado
hemos hablado
habeis hablado
han hablado
 haberの方は、本来「持つ」という意味です。
 過去分詞の方は、「行為そのものを1カラ10マデやってしまってある・いる」と
いう意味です。
 故に、現在完了の原則とは、時制では現在の今において、1カラ10マデやってし
まっていることを持っている状態・・・を意味するのです。
 現在、やってしまったことを持っているのなら・・・完了(~済み)も言えるし、
経験(~したことがある)も言えるし、結果(~してしまった)も言えるし、継続
(~して来た)も言えることになります。
ex.
 Yo he comido una naranja.( = I have eaten an orange.)
直訳:私は、オレンジを食べてしまったということを今持っているよ
 よって私は今:
ア)完了→私は、オレンジを食べ終えているよ。
イ)経験→私は、オレンジを食べたことがあるよ。
ウ)結果→私は、オレンジを食べてしまったよ。
エ)継続→私は、オレンジを食べて来ているよ。(今から振り返っての習慣)
 という四つの訳パターンに固執することなく・・・一つの現在完了の文を「前後関係
から解釈」して四つの訳パターンに合わせた方が自然な和訳が導き出せることとなりま
す。
 次回は、この相(アスペクト)について掘り下げて観察し学んで行きます。原典講読
などでは大変役に立つ概念です。