【第74講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その52)

今回は、日本人が印欧語系の外国語の学習を進める中で、少し”長文”になると解釈
するのがしんどくなってくる、また、作文の際、ああでもない、こうでもない、と単語
を組み立てるのにしんどい思いをする”文法のアイテム”の最高峰・・・と思われて
いる(そう思う/思わない・・・は、個人の自由というのが本当なのですが)
「関係詞」の基礎について学んで行きましょう。

☆関係詞(relativo)とは?
よく耳にするのに、”関係代名詞(pronombre relativo)”・・・続いて”関係副詞
(adverbio relativo)”、そして”関係形容詞(adjetivo relativo)”というのがあり
ました。が、それらは全て「関係詞」の”下位分類”になっています。
習った時など”何と関係する”のか分らないけれど、何かに関係するから関係詞なの
だ、細かいことは気にしない、これでいいのだ・・・とか、直ちに該当する日本語が
見当たらない品詞・・・とか、何故そこに書かれてあるのか、何故使われるのか、
もう一つしっくり来ない品詞(名詞や動詞と比べて)でもあった・・・
しかし・・・
関係詞というのは、実は、名詞と関係しているもので、その名詞の情報量を
増やす・・・これが関係詞の正体なのです。関係詞は、冠詞(定/不定)などと同じ
く、日本語文法では見当たらない”アイテム”(品詞)の一つなので取り付きにくい
だけです。
関係詞は、英語では、”長文問題”になると毎度理解度を試される馴染みのものです。
いつも頭がこんがらがることが多かったと思います。
その理由は、日本人は、英語やスペイン語などの印欧系の外国語を解釈する際、
高校あたりの国語で「古典」に含まれていた”漢文”と同じ風にして、「きちんと読み
下す」ことに努力を払い、そうしないと何となく「きちんと外国語をやっていると
意識」しないからなのです。
漢文(昔の日本人の外国語の代表)を読む際に「返り点」と「送り仮名」を付けました
が、そもそも語順の異なる英語やスペイン語を日本語に直す際に、無意識にも漢文と
同じ作業を当てはめている・・・だから、自分が訳す日本語の語順が最初から、あるい
は途中から、ややこしくなって来る・・・のです!
何故、漢文の読み下しのようなことをするのか?それは、”試験”のための外国語を
教育する側にとっては、その方が”しっくり来る(受験英語の教育のために)”から
なのでありましょう。
あなたは、先ずは、ここはあせらないで、また、分からなくなると恥ずかしいとかいう
ようなプライドのようなものを一切捨て去って、ここはスペイン語という外国語なので
すから・・・外国語の語順で順番に、並んで居る単語を意味不明でも左から右へと読ん
で行くこと(あるいは時間と正比例して聞こえてくる順番に聴くこと)・・・即ち、
漢文で言うならば、「素読」形式で、外国語と接することが重要でなのです。
孫子塾の提唱する『孫子』の学び方と同じ方法でよいのです。こちらの方が年齢に関係
なく脳の発達に効き目(知恵の出し方)もあるものです。
※ http://sonshi.jp/sub10.html
☆関係代名詞とは?
では、関係詞の中から、一番、お目にかかることが多い、「関係代名詞」から始め
ましょう。
「関係」の次に「代名詞」という言葉が見られます。
先ずは、「代名詞」とは?
人称代名詞、指示代名詞と今までに習いました。要するに、名詞に代わる言葉・・・
というのが「代名詞」でしたね。だから、名詞と”同類”のものなのです。即ち、名詞
のカテゴリー(性・数・格)を常に考慮しなければならないということです。
よって、「関係代名詞」も同じことが言えます。
普通は、関係代名詞というと、それが名詞に関係するところまでは分かるけれども、
意外とややこしくなって来るのは、名詞のカテゴリーを忘却してしまって、目先にある
日本語の訳がどうなのか?それに飛びつこうとするからなのです!
☆関係代名詞の働きについて
では、ここから、具体的に関係代名詞について学んで行きますが、次の例文を
「自動車」に関する”情報量”の増加とその表現方法(”形容”の仕方)に注目して、
(1)から順番に見て行ってください:
例)
(1) El coche 「その自動車」→何もなし
(2) El coche negro 「その黒い自動車」 →形容詞で形容
(3) El coche de fabricacion alemana
   「そのドイツ製の自動車」 → 形容詞句(前置詞+名詞で形容詞の働きをさせ
    る)で形容
(4) El coche que Isabel compra 「イサベルが購入する自動車」 →形容詞節(主
    語と動詞で形容詞の働きをさせる)で形容
ここで”語順”の注意ですが、スペイン語(英語も同じ!)は、先に名詞を言ってか
ら、後から付けたして説明を展開して行きます。ここが一番大きな違いです。
一般に、訳の際に手間が掛かるのは、関係代名詞から後ろ(形容詞節の部分)を一旦
訳して、そして、前の名詞・・・「先行詞」と呼ばれます・・・に”とろろ汁どんぶ
り”のように”ぶっかけよう”とするから・・・文が長くなると形容詞節がどこから
どこまでなのか?分からなくなって頭がこんがらがって来るのです。
☆関係詞の”出自”とは?
英語では、関係詞で有名なのは、thatというのが出て来ました。そして、他の英語の
関係詞は、疑問詞と形が全く同じものでした。スペイン語の関係詞は、どうなのでしょ
うか?それは・・・全てラテン語の疑問詞から発達して来たのです。よって、スペイン
語の場合は、疑問詞と語形が同じです。
スペイン語では疑問詞にはアクセント符号が付けられ(そして、文の前後に疑問符号が
つけられ)ますが、関係詞の場合は、語形は同じでもアクセント符号がありませんし、
その関係詞の前の位置には大体、冠詞のついている名詞、あるいは、前置詞(形容詞節
の動詞と熟語ペアのものが大半)+定冠詞(先行詞の性・数に一致)のコンビネーショ
ンが置かれます。
故に、考える際にも元の疑問詞の意味を踏まえて考えると関係詞の正体も分かるように
なって来ます。
例)
El coche que Isabel compra…(イサベルが購入するところの自動車)
以下に分解します:
El coche その自動車
que その自動車が何・どんななのか?(疑問詞queを思い出して)と言ったのならば→
  それ(自動車)は、男性・単数で、イサベルがその自動車ヲ買うから、”対格”
  であることが分かる・・・要するに、この場合の関係代名詞は、男性・単数・対格
  と”性・数・格”のカテゴリーを認識しておく
Isabel compra イサベルが(ソレヲ)購入します(購入する→他動詞→対格の名詞が
        必要ですね。その対格の名詞を・・・関係代名詞が役割を果たしてい
        ます)
上の例文を直訳するのならば:
その自動車、何か・どんなのか?と言ったら、”それ”(男性・単数・対格)を、イサ
ベルが購入します
何となく・・・「その車、それなにゆ~たら、それ、イサベル買うアルヨ」というよう
な”協和語(大東亜語)”で言ってみると面白おかしく解読ができるようになります。
(故に・・・原典講読の際には、実際に頭の中で、外国語の語順の通りに、わざと協和
語で訳してみると”飽きが来ない”し、自分で笑いながら進めることが可能です!)
ちなみに英語なら、The car that Elizabeth buys…となり、「その車、それ、エリザ
ベス買うアルヨ」(イサベルは、英語風ではエリザベスになります)と言ったところ
です。
興味深いところですが、英語やドイツ語等のゲルマン語は、関係詞と言うと、先ずは、
ゲルマン語の特徴として指摘されるのですが、指示詞から由来しているもの、次に、
疑問詞から由来しているものの二本立てになっています。(英語の場合など、歴史的に
フランス語との関係を洗い直すと興味深いことでありましょう。)
スペイン語の場合・・・関係代名詞の重要な点とは、名詞や代名詞とおなじく性・数、
それに「格」を意識することが非常に重要な役割を果していることです。
スペイン語にせよ、英語にせよ、先に名詞を言ってしまう(El coche・・・、
The car・・・,)、その次に関係代名詞を置いて、名詞に関する情報量の増加(要する
に説明してあげる)を行うのがミソ(これは作文においても同じ!)ですね。
この関係詞によって情報量が増やされる、要するに、形容を受ける名詞を「先行詞」と
呼ぶのは、前述した通りです。
要するに上の例文を関西弁で面白く言い直すと、「その車ですねん。その車ゆ~たら、
どんなんかなあ~ゆ~たらやね、それをイサベルのやつが買いよるんですわ~」と
言った感じです。
また、学校の”受験英語”が好きなところですが、関係詞の前にカンマが無ければ
「限定節」といってそのまま先行詞に形容詞節の部分を”とろろ汁をかけるように”か
けて訳しましょう。
そうでない場合には・・・即ち、カンマがあれば・・・「説明節」といい、左から順番
に訳して行きます。が、みなさんは、限定節でも説明節でも、取りあえず、スペイン語
ならスペイン語、英語なら英語の語順に従って・・・協和語っぽく、関西弁風に笑い
ながら、原典の語順に素直に従い、左から右へと訳して見ると解釈が楽になりますよ。
オマケ)ちなみに漢文の返り点を使って説明すると:
ex.
      ナリ     ガ   スルトコロノ (送りがな)
el coche que Isabel compra
      二          一
(queは、漢文で言う黙字です)
というパターンになりますね。
では、次回は、関係詞の”後半”、関係代名詞、関係副詞、関係形容詞と順番に観察し
て行きます。関係代名詞そのものは、前回に学んだスペイン語版『孫子』の「呉越同
舟」のところにも実例がありますので、今回を合わせて”おさらい”されることを
オススメいたします。