【第56講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その34)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
今回は、前回(主格、所有格)の続篇になります。
特に、今回のヤマ場は、対格人称代名詞であり、名詞の性と数に従って置き換える
言葉(=それニ、それヲ)を習います。
今回、あなたにとって少し難しい点は・・・特に、対格人称代名詞の第三人称・単数
に三種類出てくるところでありましょう・・・日本語では、”それ”という言葉が相当
するものです。

日本語では、指示代名詞であり、話す相手(第二人称)のところのものを指し示す
言葉である「それ」を用いています。一方、英語では、名詞の性は消失しているので、
スペイン語のように男性名詞も女性名詞も気にすること無く単純に”it”(複数
“them”)を用います。
英語の方の”it”は、すっかりお馴染みとなっている言葉”he”(第三人称単数・主
格)とは語源的に関連があり(語頭の”h-“の脱落)、元々・・・特定のものごとを
指し示す言葉に由来しています。
スペイン語でも・・・やはり特定のものごとを指し示す言葉が起源になっています。
日本語も英語もスペイン語も・・・第三人称というのは、指示詞から由来しているの
か・・・と考えてください。そうすれば、指し示す名詞の性や数を明確に指定して相手
に分からせるために種類が多いことが納得できます。
では、いよいよ”与格”から観察して行きましょう。
3)与格人称代名詞
与格とは、日本語の格助詞で「~ニ」に相当しています。英文法やフランス語文法
では、「間接目的格」というような名称でおなじみです。
※よって・・・スペイン語文を読み進める際には、yoなら「私ハ」、meなら「私ニ」
(または「私ヲ」)と日本語の”格助詞”を付けて解読して行くと混乱しなくなって
きます。(特に文中の名詞については日本語の”格助詞”なら何が相当するのか?
漢文のようにメモで”送り仮名”を振っておくと便利ですよ。
第一人称・単数 me
第二人称・単数 te
第三人称・単数 le
第一人称・複数 nos
第二人称・複数 os
第三人称・複数 les
(第一人称・単数など英語と語形も意味も同じですね)
☆置かれる位置=語順について
ア)「定形」(活用している動詞)の直前。
ex.
Yo le doy. 私ハ 彼ニ 与えます。(直訳)   (dar 与える)
(和訳:私は、彼にあげる。)
El me da. 彼ハ 私ニ 与えます。(直訳)
(和訳:彼は、くれる)
Le enseno la estrategia. 私ハ 彼ニ 戦略ヲ 教えています。(直訳)
(和訳:彼に戦略を教えてあげる)      (ensenar 教える)
※与格の出て来る文を「和訳」する際、”私ニ”、”我々ニ”(第一人称・単数/複
数)なら、「~してくれる」、「~してもらう」第一人称以外なら、「~してあげる」
と訳すと自然な日本語に訳せますので注意しておきましょう。
イ)「不定形」の直後に分離せずつなげる。
ex.
a) Puedo darle. 私ハ 彼ニ 与えることを出来る。
和訳→彼(彼女に)あげることができる。(あげれる)
b) ?Piensa usted regalarme un coche?
あなたハ 私ニ 一台の自動車をプレゼントするつもりですか。(直訳)
和訳→車を一台プレゼントしてくれるつもりですか。  (regalar プレゼントする)
※イ)の場合では、「口語」で定形の前に置くことも出来ます.
ex.
a) Le puedo dar.
b) ?Me piensa usted regalar un coche?
4)対格人称代名詞
対格とは、日本語の格助詞で「~ヲ」に相当しています。英文法やフランス語文法等
では、「直接目的格」と言われています。第一人称・単数/複数、第二人称・単数/複
数共に与格人称代名詞とは同じ語形をしていますので、文中に見た場合には、常に二つ
の格(~ニ、~ヲ)を意識するようにしてください。
第一人称・単数 me
第二人称・単数 te
第三人称・単数 (*) lo le la
(*)
lo : それヲ(男性単数名詞を受けて)、彼ヲ、あなた(男)ヲ
le : 彼ヲ、あなたヲ(スペイン本国のスペイン語で用いられます)
la : それヲ(女性単数名詞を受けて)、彼女ヲ、あなた(女)ヲ
第三人称・男性単数の覚え方:”ローレライ”(lo-le-la イ)
第一人称・複数 nos
第二人称・複数 os
第三人称・複数 (*) los las
(*)los : それらヲ(男性複数名詞を受けて、もしくは男性名詞と女性名詞を総合
     して)
     彼らヲあなたがたヲ(男ばかり、もしくは、男と女の混合集団の場合)
 las : それらヲ(女性複数名詞を受けて)
     彼女らヲ
     あなたがたヲ(女ばかりの場合にのみ)
☆文中での置かれる位置=語順については、与格と同じです。
ア)「定形」動詞の直前。
ex. Yo te amo. 私ハ 君ヲ 愛しています。
Tu la espera. 君ハ 彼女ヲ 待っています。
イ)「不定形」の直後に分離せずつなげる。
ex. Ya no puedo esperarte.     もう君を待てないよ。
Quiero matarte a fuego lento.  貴様をなぶり殺しにしてやりたい。
※matar 殺す→殺す人→ -ar動詞の場合:√語根+”-ador” → ”matador”
“matador”は、闘牛のマタドールとして日本語にも定着。また、テキーラをベースに
したカクテルの名前。スペイン海軍の空母搭載垂直離陸機の名称でもあります
(実は、ハリアーです)。米軍の巡航ミサイルの名称にもなっています。
※”a fuego lento”:直訳→ゆっくりとした火で→とろ火で→とろ火で殺す→
和訳:なぶり殺しにする・・・となります。
☆与格と対格の並列使用(語順とその注意)について
結構、最初の間はややこしく感じるので”とろ火で”( a fuego lento )じっくり
肉も骨も溶けるまで・・・しっかりと反復練習をする必要のある項目です!
文中での置かれる位置は、「定形の場合のルール」、「不定形の場合のルール」と
それぞれが同じなのです。しかし・・・
先ず・・・次の基礎を押さえましょう!
a)与格人称代名詞と対格人称代名詞を同時に使用(~ニ~ヲ...スル)の際、
語順は、必ず与格-対格の順になります。
・定形動詞(活用している動詞)の直前。
ex.
Yo te doy una pistola. 君にピストルをあげるよ。
una pistolaを”それを”という対格人称代名詞に置き換えると・・・
Yo te la doy. 君にそれをあげるよ。
では、次の例を見てみましょう。
Fernando me ensena la historia del tercio.
フェルナンドは、テルシオの歴史を教えてくれている。
この文の名詞の部分を対格人称代名詞に置き換えると・・・historiaは、女性単数名詞
なのでlaになります。
よって:
Fernando me la ensena.
となります。
b)不定形と共に使用する際、不定形の元のアクセントの位置を保持するために、必ず
アクセント符号を”不定形の元のアクセントの位置”(-ar, -er, -irのそれぞれの
母音の上)に付けなければなりません。
ex.
Pienso regalarte una pistola. → Pienso regalartela.
君にピストルをプレゼントするつもりだ。 → 君にそれをプレンゼントするつもりだ。
☆両方ともに第三人称(単数も複数も)で並ぶ際は、「与格の方を”SE”にします」
ので必ず注意してください。
(スペイン人は、Lの音の連続を避けて、語呂を合わせるのです)
例文
      誤                    正
Yo le lo doy. Yo se lo doy.
  Yo les la regalo. Yo se la regalo.
Yo puedeo darlelo. Yo puedo darselo.
   Yo quiero regalarleslos. Yo quiero regalarselos.
■ドリル
1)次のスペイン語文の名詞の部分を与格、対格の人称代名詞に置き換えなさい。
「定形の場合」
1)Nosotros esperamos a Alejandro y Ambrosio.
2) Claudia llama a las hijas.
3) Me dan Fernando e Isabel unos vestidos muy elegantes.
4) Regalamos unos claveles rojos a tu novia.
5) Comprais unas sandalias a vuestra madre.
6) Enseno aleman a los estudiantes de esta universidad.
7) Cristina espera a su marido en el teatro.
8) Presto este diccionario a Juan.
9) Enviamos aquellos libros a los clientes.
10) Escribo la tarjeta de Navidad a mi novia.
「不定形の場合」
11) Quiero escribir unas postales a mis amigos desde Argentina.
12) Pueden Fernando e Isabel dar unas rosas rojas a usted.
13) Deseo regalar una sortija a mi novia.
14) Tenemos que enviar un anillo de aniversario a Juan por correo aereo.
15) Solemos prestar los diccionarios a los estudiantes.
解答)
1) Nosotros los esperamos.
2) Claudia las llama.
3) Me los dan Fernando e Isabel.
4) Se los regalamos.
5) Se las comprais.
6) Se lo enseno.
7) Cristina le espero en el teatro.
8) Se lo presto.
9) Se los enviamos.
10) Se la escribo.
11) Quiero escribirselas desde Argentina.
12) Pueden Fernando e Isabel darselas.
13) Deseo regalarsela.
14) Tenemos que enviarselo por correo aereo
15) Solemos prestarselos.
スペイン語の学習者の間でややこしい・・・という意見が多い与格人称代名詞と
対格人称代名詞ですが・・・スペイン語は、英語と同じく、一つの文の中に同じ名詞を
二度繰り返して使うこと、同じ動詞を二度繰り返して使うこと・・・を嫌います。
これは、日本語とは全く逆である・・・ところなので、繰り返して使わないように、
名詞の場合は、与格人称代名詞、対格人称代名詞に置き換えたり、類語、同義語を
使ったり、動詞の場合には、省略したり、類語や同義語を使ったりしています。
あなたは、とりあえず・・・上記の練習問題を5回くらい反復して、条件反射的に
置き換え練習を重ねておいてください。
ここの二週間あまりの訓練が、今後のスペイン語文の原典講読などにとても活きて
来るからです。
では、また。次回をお楽しみに。
今日はここまで。
Hasta luego.