新COP建設Part2 ~ミラン発射~ — フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.24

2020年4月21日

From:野田力
件名:新COP建設Part2 ~ミラン発射~
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軍事情報特別連載
 フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.24
陸上自衛官を志すも挫折。自分が立派な兵士になれることを証明するため
渡仏し、外人部隊への入隊を果たした衛生兵が、最前線で体験した
アフガニスタン戦争の実像をお伝えします。
2012年(平成24年)8月20日(月)
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□はじめに
読者様よりコメントをいただきました。ありがとうございます。
N様、
アフガニスタンではフランス軍も英語の略語を使用しています。
「FOB」や「COP」以外にも、仏軍の使用する英語略語には以下の
ようなものがあります。
QRF(Quick Reaction Force)=即応部隊
PRT(Provincial Reconstruction Team)=地方復興チーム
CIMIC(Civil-Military Co-operation)=民軍協力(いわゆる民事支援)
ただ、読み方が一致しない場合があります。
例えばPRTは「ピーアールティー」とは読まず、仏語読みで
「ペーエールテー」となります。
自衛隊さんでもQRFという用語は使っているそうです。
それでは、連載のつづきにまいりましょう。
ミランミサイルはほんとうに発射されるのか?
戦果をあげられるのか?
▼新COP建設Part2 ~ミラン発射~
 ついに中隊長がミランミサイルの発射を許可した。
村の端から約1km離れた地点から、ミラン射手はコンパウンドに
狙いを定める。
ミランの有効射程距離は500~1800mだ。地面に伏せて撃つのか、
VABの上から撃つのか、私からは見えない
 この瞬間のために、彼は苦しい訓練に耐えてきた。
ミラン班の仲間たちと、重いミサイルや発射機をかついで山野を
駆け巡った演習もこの瞬間のためだった。ついに実戦で成果を
発揮するときがきた。
 射手は発射ボタンを押した。
“シュルシュルシュル・・・。”
 ミサイルが標的めがけて飛び出す。
100mくらい飛ぶと、突然ミサイルが地面に落ちた。爆発はしない。
無線でミラン落下が報告される。「よりによってこんなときに!」
といらだちを覚えた。
 射手たちの現場には「なぜ落ちたか」を考えている暇はない。
失敗したなら再度挑戦するだけだ。装填手が次のミランを発射機に
設置する。射手は発射ボタンを押した。
“シュルシュルシュル・・・。”
 2発目は100m地点に落ちているミランを越えて飛びつづける。
その調子でこのままコンパウンドに命中しろ!150m・・・180m・・・
200m。落下!200mくらい飛んだが、また落ちた。あっけない・・・。
 落下の報告が無線で流れたとき、中隊全体で落胆の声があがった
だろう。VABの助手席に座る軍医までもが「ちくしょー」と漏らした。
 私は実弾射撃訓練において、ミランとは別の「ERYX(エリックス)」
という、射程が50~600mの対戦車ミサイルを撃ったことがあるが、
私の前後に撃った射手たちの何人かにミサイルの不調による落下や
不発が起きた。そのため、今回のミラン落下もミサイルが不良品な
のではないかと私は思った。しかし、射手の技能を疑いだす者も
いたことだろう。
 ミラン班は発射機に問題がある可能性を考慮し、発射機を替え
3発目を設置した。射手は交替しない。三度目の正直だ。
 発射!50m・・・100m・・・150m・・・200m・・・。200mを越えて
飛びつづける。やっと正常に作動してくれたか。今度こそいけるだろう。
“シュルシュルシュル・・・ボン、ボン、ボン・・・。”
 なんと!落下・・・。
調子よく飛んでいたのに、300mくらいのところで落下した。
しかも、2回地面をバウンドしたあと、第3小隊の狙撃兵ヴェラメユー伍長
とドルニック一等兵の伏せている地点からそう遠くない地面で止まった
という。2人はスリーピングマットを無造作にたたみ、急いで現場
から離脱しVABに戻った。
 あっけないと言うか、面目ないと言うか、まるでアクション
コメディ映画に出てきそうなギャグが現実に起きた感じだ。
しかし、笑ってはいけない事態だった。
 中隊長に無線が入った。
「ブラック、こちらサファイア。20mm機関砲で標的を撃てます。
射撃許可をお願いします。」
 「サファイア」とは1RHP(第1機甲パラシュート連隊)所属の20mm
機関砲の搭載されたVABのコールサインだ。手動ではなく機械操作で
機関砲や砲塔を動かし、射撃できる。護衛としてCOP建設隊とともに
現場入りし、今度は戦闘中隊の応援に来てくれたのだろう。
「許可する。」
 中隊長が答える。
“ダダダダン・・・ダダダダン・・・。”
 M2機関銃の12.7mm弾の発射音よりもキレのある音が聞こえた。
結局、ミランのかわりに20mm機関砲がコンパウンドを撃った。
コンパウンドがどうなったか見えなかったが、無線で「標的処理
成功」と報告がなされた。なんとか敵を撃破したらしい。
 目標が達成されたのは良いことだが、それが第3中隊によるもの
でなかったので、少し不愉快だった。しかも同じころ、別の地点で
第2中隊のミランが別のコンパウンドに命中し、敵2名を処理した
という情報が後で入ってきた。
 第2中隊のミランは命中し、第3中隊のミランは落ちた。競争では
ないのだが、敗北感を感じ、くやしかった。一番くやしかったのは
落下したミランの射手自身だったに違いない。
 なぜミランは3発連続で落ちたのか?
 あとで聞いたのだが、それらのミサイルは製造されてから10年以上
が経過しており、古かった。そんなに古いミサイルは誤作動の可能性
が高く、実弾射撃訓練に用いるのが普通だ。
 2008年2月に私が参加したエリックスの実弾射撃訓練では、
アフリカの紛争地に数年間配備されていたミサイルをフランスに
戻したものを使用したのだが、射手6人のうち4人に誤作動が起きた。
ミサイルが全く飛んでいかなかったり、すぐ目の前に落ちたり、
途中まで順調に飛んでいたのに急に落ちたり・・・。
 実際のところ、第3中隊の備品管理責任者の上級軍曹がFOBトラの
弾薬支給担当者に「ミランが古い」とクレームをつけて、新しいもの
と交換を申し出ていたが拒否されていた。そしてこの有り様だ。
そもそも古くなったミサイルがアフガニスタンに搬入されている
こと自体おかしい。
 新しいミサイルが足りないのだろうか。外人部隊においても、
正規軍においても、「装備が足りない」「装備が古い」「装備が
ボロい」と誰かが言うと、どこからともなく次のような答えが
返ってくるのを聞くことがある。
「あたりまえだ。フランス軍なんだから。」
 物資の豊かな米軍がうらやましい。
 なお、私はミサイルに問題があったと思っているが、別のミラン
射手のなかには射手のミスだという者もいた。「自分なら当てられた」
と言う者もいたが、私はミランの教育を受けていないので何とも
言えない。少なくとも、落下したミランの射手個人を非難するべき
ではない。彼は不真面目に撃っていたのではない。真剣だったのだから。
 その日の夕方、FOBトラから後方支援部隊のVABが来て、新しい
ミランミサイルを届けてくれた。次回は命中してほしい。
 それにしても、実際の戦闘というものは思いのほか、うまくいかない
ものだ。今回はそのことをつくづく思い知らされた。
 ミランの一件が落ち着いたあと、我々は帰還することなく、
そのまま荒野のVABの中で一夜を過ごした。車内とは言え、夜は
寒かった。昼は暑いくせに。VABには暖房機能があるが、ほとんど
効き目がない。
 私はヘルメットを脱ぎ、ニットキャップをかぶった。アーマーは
暖かいので着たままだ。そのうえにダウンジャケットを布団のように、
前面からかぶり、袖に腕を通した。上半身は大丈夫だったが、脚が
寒く、膝とつま先は痛いほどだった。我慢するしかない。
ADU(中隊最先任下士官)のVAB、車両整備班のVAB、そして我々医療班
のVABの乗員9名のうち、ADUを除いた8名で交替しながら、それら3台
のVABの周りを警戒した。警戒以外のときは座ったまま眠った。
ADUであるウィルソン上級曹長は車内の無線のそばで休んでいた。
 こんな夜が6夜つづく。
この任務では、まるまる6日間をVABで過ごすことになる。
負傷したりして後送されなければの話だが。
(つづく)
(野田 力)
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● 著者略歴
野田力(のだ りき)
1979年9月 近畿地方生まれ。
阪神大震災における自衛隊の活躍を描いた書籍を読み、陸上自衛官を志すも挫折。
自分が立派な兵士になれることを証明するため渡仏し、外人部隊への入隊を果たす。
2005年3月 基本訓練ののち、希望していた第2外人パラシュート連隊に配属され、コル
シカ島に駐屯。
2005年4月 パラシュート課程修了。
2005年5月 第3中隊(水路潜入専門)第3小隊配属。歩兵訓練修了。ミニミ軽機関銃射
手を担当。
2005年10月 対戦車ミサイルERYX(エリックス)課程修了。同ミサイル射手を担当。
2005年12月 水路潜入課程レベル1修了。
2006年2月~6月 アフリカ・コートジボワールに派遣され、治安維持作戦に従事。
2006年12月 衛生兵課程修了。小隊の衛生兵となる。
2007年3月 水路潜入課程レベル2修了。
2007年4月 装甲車VAB(ヴァブ)免許取得。
2007年6月~10月 アフリカ・ジブチに派遣され、砂漠訓練等を受ける。
2008年2月 伍長昇進。
2008年9月~2009年1月 アフリカ・ガボンに派遣され、ジャングル訓練等を受ける。
2009年7月14日(フランス革命記念日) パリのシャンゼリゼ大通りの軍事パレードに参
加。
2009年12月 上級伍長昇進。
2010年1月~7月 アフガニスタン派遣。国際治安支援部隊活動。
2011年4月 除隊。
2011年6月 帰国。2012年春から看護学校に入学。経験・特技を活かし、国際医療・災
害医療の看護師を目指す。
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広く皆様のお知恵をあつめたいものと念じております。>
(兵頭二十八さん)
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発行:おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
著者:野田力
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