朝鮮戦争における「情報の失敗」 ~1950年11月、国連軍の敗北~(5)
(C)Department of Defence April 15, 1953. M. Sgt. Eugene C. Knauft. (Marine Corps)■はじめに ~前回までのあらすじ~
こんにちは。長南です。
東京は、二十四節季の蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)を迎え、急に春めいてきました。昼夜の寒暖の差が激しい季節ですのでお風邪など召されませんようにご自愛くださいませ。
さて、前回の連載では、CIAは、朝鮮戦争参戦に関する中国の意図と能力をどのように分析していたのであろうか、ということについて、CIAが出した2つの報告書(1950年9月8日付、10月12日付)を中心に考察した。
CIA報告書は中国の能力と意図を正確に見抜いていたが、CIA報告書はある問題点を抱えていた。すなわち、中国が朝鮮戦争に参戦する可能性を低く見積もった結論を出したことである。そしてCIA報告書がこのような結論を出した理由は、CIAの分析官が中国側の視点からではなく西欧民主主義世界での価値観によって、戦争により生じる人的・経済的損害の中国国内に対する影響力を評価したこと、換言するならば、ミラー・イメージの罠に陥っていたという点にあることを指摘した。
しかし、ウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部(G2:情報部)の予測分析内容と類似していたCIAの予測分析と極東軍司令部参謀第二部のそれとの間に亀裂が生じる時期がやってくる。
▼使いまわされた報告
情報収集の分野で発生しやすい失敗に、「使いまわされた報告(circular reporting:定訳が無いので意訳した)」がある。使いまわされた報告とは、ある情報が複数の情報源から獲得されたように見えるが、現実には1つの情報源からしか得られていない状態を意味する。つまり、ある情報が複数の情報源から得られたもので、それだけ信頼度が高いような外見を有しながら、実は1つの情報源に由来する情報であるため信頼度も低いということである。
韓国半島情勢に関するCIAの分析は。まぎれもなく使いまわされた報告の典型例であった。
CIAは、中国共産党が決定的に行動するチャンスを逃してしまったというウィロビーの報告をオウム返しに繰り返して、「軍事的観点からすれば朝鮮半島に介入するための最も良い時期は過ぎ去った」と報告書の中で述べたのである。
この見解は、国連軍が釜山橋頭堡の中で最も苦戦し弱体化していた時期か、国連軍が仁川上陸作戦直後で海岸堡を内陸に拡大していない脆弱な時が、中国が介入する最良の機会であり、中国は介入に最良の時期をみすみす見逃してしまった、というウィロビーの評価を反映したものであった。
確かにCIAの報告書はウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部の名前を出典として引用していないが、ウィロビーが書いた報告書から強い影響を受けた可能性――より強調するなら、孫引きした可能性――が高い。
つまり、10月12日付のCIA報告書の中で述べられた、中国共産党が朝鮮戦争に介入する可能性についての評価は、極東軍司令部参謀第二部の分析に完全に依存することで、ミラー・イメージと使いまわされた報告の二重の犠牲になってしまったのである。
10月12日付のCIA報告書は、CIAが9月8日付の報告書で確認した満州における飛行場建設の強化などの徴候に基づいて正しい結論を導き出すことに失敗したのである。
10月12日付のCIA報告書の最終分析は、以下のように述べている。中国共産党による朝鮮戦争への「介入は北朝鮮に対する秘密支援に限定される可能性が高い」。この結論は致命的な失敗であった。
中国の意図と能力に関して極東軍司令部参謀第二部とは異なる独立した情報源を持たなかったことで、ワシントンにいる政策決定者や戦略立案者はマッカーサーの楽観的な予測に挑戦できないことにつながったのである。
▼CIA覚書「朝鮮半島における中国共産党の介入」
11月1日、CIAはトルーマン大統領に対し「朝鮮半島における中国共産党の介入」と題する覚書を提出したが、その覚書はその当時におけるウィロビーの分析を反映したものであった。
覚書は、1万5千から2万の中国人部隊が朝鮮半島内に展開していると述べている。同じ11月1日付の陸軍省(国防総省内で陸軍を所管する機関)第二部に提出されたウィロビーの報告書は、1万6千5百人の中国人部隊が朝鮮半島内に所在していると分析していた。
また、満州の安東や北朝鮮領内の新義州で運用されているソ連製ジェット戦闘機の存在が確認されたことは、ソ連が中朝国境地域で防空作戦を実施している可能性があることを示唆していた。
しかしながら、毛沢東が国連軍による満州への侵略の潜在的可能性を懸念していたことを正確に認識していたにもかかわらず、CIAの覚書は中国の意図について次のような評価を下していた。「現時点における彼らの動機は、鴨緑江の南側に限定された緩衝地帯を確立することにあるように思われる」。
そして、CIAの覚書は、人民解放軍が鴨緑江へ向け進撃するマッカーサー率いる国連軍に対する大規模反攻作戦を実施する能力については分析していないが、中国は死活的に重要な満州の産業施設に電力を供給している鴨緑江沿いの水力発電施設および北朝鮮との国境を防衛するために国連軍と交戦する意思があると結論づけていた。
▼ウィロビーの予測分析を否定したCIAの「国家情報評価」
朝鮮戦争当時から現在に至るまで、米国の情報機関は、情報コミュニティーが収集した情報に基づき大統領に短期的な情報評価を提供している。この短期的評価を「国家情報評価(NIE:National Intelligence Estimates)」という(なお、1979年以降から現在まで、NIEを大統領に提出するのは「国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)」の役割である)。
CIAが11月8日の国連軍と人民義勇軍との最初の交戦の後に提出した最初のNIEは中国軍の意図と能力についての評価を修正する内容であった。
さらにNIEは「中国共産党が、朝鮮戦争の2つの危機的な段階――国連軍が釜山橋頭堡で不安定な足がかりしか保持していなかった時期と国連軍が仁川に上陸した直後――で部隊を投入することを差し控えた」だけで「中国が朝鮮戦争に介入する最良の機会を逃したから介入しないのではない」と分析し、「中国は介入に最良の時期をみすみす見逃してしまった」と結論づけたウィロビーによる予測分析の内容を否定した。
CIAが出したNIEはCIAの分析とウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部の情報分析との間に溝が生じつつあることを示していた。
さらに、中国共産党の意図についてウィロビーの評価と決別したCIAのNIEは、人民義勇軍が2つの行動方針を実行に移す目的で朝鮮半島内に展開していると結論づけていた。2つの行動方針とは、すなわち、(1)段階的に大部隊を投入することにより国連軍の前進を阻止する、(2)大規模かつ強力な強襲作戦により国連軍をさらに南方へと退却させ防禦態勢へと追い込む、の2つである。
11月8日に出されたNIEは、人民解放軍が朝鮮戦争の性格を決定的に変化させる意図と能力を有していることについて最初に言及した意味で注目すべき見解であり、CIAが11月1日にトルーマン大統領に提出した「朝鮮半島における中国共産党の介入」と題するCIAの覚書からの脱却を意味した。
さらに、このNIEは、予測される人民義勇軍2つの行動方針のうちの(2)が持つ潜在的意味を正しく評価していた。NIEは、もし人民義勇軍の攻勢が成効したならば、満州に集結中の部隊を投入することにより戦果を拡大しようとするであろう、と述べていた。
その上で、NIEは、国共内戦を戦い抜いたベテラン軍人である人民義勇軍兵士は北朝鮮の荒涼たる地形と厳しい冬期の寒さを利用して、朝鮮半島での戦争を「手詰まり」状態にすることが可能であろう、とも分析していた。
そして、NIEの警告は不気味な色を帯びて次のように続く。
「そのような軍事的な手詰まりは国連軍を朝鮮半島に閉じ込め、彼らを消耗戦に曝すことになるだろう」。
また、NIEは、中国共産党が朝鮮半島におけるその戦闘能力を「非常に大規模な部隊が投入されるまで」増強する可能性が高い、と結論づけていた。
「軍事的な手詰まり」という表現といい、人民義勇軍が「非常に大規模」に増強されるという警告といい、このNIEは朝鮮戦争が将来たどることになる道程を恐ろしいほどまで正確に予言する内容であった。
しかしながら、朝鮮半島の前線にいる国連軍兵士にとって不幸なことに、この報告書は、マッカーサーやウィロビーに対して、わずか2週間後に開始される予定の不幸な攻勢作戦を再考させる影響力を持たなかった。
▼11月8日付のNIEが持った意味 ~CIAと極東軍第二部との間に入った亀裂~
CIAの報告書は11月8日にNIEが出されるまで、中国の意図と能力に関して、ウィロビーの評価ときわめて類似したものであった。
東京にオフィスを置く極東軍司令部参謀第二部も米国のラングレーに所在するCIAも中国人部隊が満州に大規模集結中であることは正確に認識していたが、不充分ながらも中国側の視点に立って中国の戦略目的を考察したのは、前回の連載で言及した10月12日付のCIA報告書が最初のものであった。
さらに、CIAは、10月中旬に潜在的な中国の戦略目的を認識していたにもかかわらず、11月8日にNIEを出すまでウィロビーの予測分析を自らの機関の報告書に反映させ続けた。
そして、NIEによる予測分析とウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部による予測分析とが見解を相違させる大きな分岐点となったのが、満州に展開中の人民義勇軍が採用するであろうと予想される2つの行動方針を分析した11月8日付のNIEであった。
しかしながら、CIAが朝鮮半島において決定的行動に出ることを警告したにもかかわらず、ウィロビーは中国が国連軍の鴨緑江へ向かう攻勢作戦に対し重大な脅威を与えないであろうという認識を持ち続けたため、マッカーサーとその幕僚は大いに狼狽することとなるのである。
(以下次号)
(長南政義)
こんにちは。長南です。
東京は、二十四節季の蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)を迎え、急に春めいてきました。昼夜の寒暖の差が激しい季節ですのでお風邪など召されませんようにご自愛くださいませ。
さて、前回の連載では、CIAは、朝鮮戦争参戦に関する中国の意図と能力をどのように分析していたのであろうか、ということについて、CIAが出した2つの報告書(1950年9月8日付、10月12日付)を中心に考察した。
CIA報告書は中国の能力と意図を正確に見抜いていたが、CIA報告書はある問題点を抱えていた。すなわち、中国が朝鮮戦争に参戦する可能性を低く見積もった結論を出したことである。そしてCIA報告書がこのような結論を出した理由は、CIAの分析官が中国側の視点からではなく西欧民主主義世界での価値観によって、戦争により生じる人的・経済的損害の中国国内に対する影響力を評価したこと、換言するならば、ミラー・イメージの罠に陥っていたという点にあることを指摘した。
しかし、ウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部(G2:情報部)の予測分析内容と類似していたCIAの予測分析と極東軍司令部参謀第二部のそれとの間に亀裂が生じる時期がやってくる。
▼使いまわされた報告
情報収集の分野で発生しやすい失敗に、「使いまわされた報告(circular reporting:定訳が無いので意訳した)」がある。使いまわされた報告とは、ある情報が複数の情報源から獲得されたように見えるが、現実には1つの情報源からしか得られていない状態を意味する。つまり、ある情報が複数の情報源から得られたもので、それだけ信頼度が高いような外見を有しながら、実は1つの情報源に由来する情報であるため信頼度も低いということである。
韓国半島情勢に関するCIAの分析は。まぎれもなく使いまわされた報告の典型例であった。
CIAは、中国共産党が決定的に行動するチャンスを逃してしまったというウィロビーの報告をオウム返しに繰り返して、「軍事的観点からすれば朝鮮半島に介入するための最も良い時期は過ぎ去った」と報告書の中で述べたのである。
この見解は、国連軍が釜山橋頭堡の中で最も苦戦し弱体化していた時期か、国連軍が仁川上陸作戦直後で海岸堡を内陸に拡大していない脆弱な時が、中国が介入する最良の機会であり、中国は介入に最良の時期をみすみす見逃してしまった、というウィロビーの評価を反映したものであった。
確かにCIAの報告書はウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部の名前を出典として引用していないが、ウィロビーが書いた報告書から強い影響を受けた可能性――より強調するなら、孫引きした可能性――が高い。
つまり、10月12日付のCIA報告書の中で述べられた、中国共産党が朝鮮戦争に介入する可能性についての評価は、極東軍司令部参謀第二部の分析に完全に依存することで、ミラー・イメージと使いまわされた報告の二重の犠牲になってしまったのである。
10月12日付のCIA報告書は、CIAが9月8日付の報告書で確認した満州における飛行場建設の強化などの徴候に基づいて正しい結論を導き出すことに失敗したのである。
10月12日付のCIA報告書の最終分析は、以下のように述べている。中国共産党による朝鮮戦争への「介入は北朝鮮に対する秘密支援に限定される可能性が高い」。この結論は致命的な失敗であった。
中国の意図と能力に関して極東軍司令部参謀第二部とは異なる独立した情報源を持たなかったことで、ワシントンにいる政策決定者や戦略立案者はマッカーサーの楽観的な予測に挑戦できないことにつながったのである。
▼CIA覚書「朝鮮半島における中国共産党の介入」
11月1日、CIAはトルーマン大統領に対し「朝鮮半島における中国共産党の介入」と題する覚書を提出したが、その覚書はその当時におけるウィロビーの分析を反映したものであった。
覚書は、1万5千から2万の中国人部隊が朝鮮半島内に展開していると述べている。同じ11月1日付の陸軍省(国防総省内で陸軍を所管する機関)第二部に提出されたウィロビーの報告書は、1万6千5百人の中国人部隊が朝鮮半島内に所在していると分析していた。
また、満州の安東や北朝鮮領内の新義州で運用されているソ連製ジェット戦闘機の存在が確認されたことは、ソ連が中朝国境地域で防空作戦を実施している可能性があることを示唆していた。
しかしながら、毛沢東が国連軍による満州への侵略の潜在的可能性を懸念していたことを正確に認識していたにもかかわらず、CIAの覚書は中国の意図について次のような評価を下していた。「現時点における彼らの動機は、鴨緑江の南側に限定された緩衝地帯を確立することにあるように思われる」。
そして、CIAの覚書は、人民解放軍が鴨緑江へ向け進撃するマッカーサー率いる国連軍に対する大規模反攻作戦を実施する能力については分析していないが、中国は死活的に重要な満州の産業施設に電力を供給している鴨緑江沿いの水力発電施設および北朝鮮との国境を防衛するために国連軍と交戦する意思があると結論づけていた。
▼ウィロビーの予測分析を否定したCIAの「国家情報評価」
朝鮮戦争当時から現在に至るまで、米国の情報機関は、情報コミュニティーが収集した情報に基づき大統領に短期的な情報評価を提供している。この短期的評価を「国家情報評価(NIE:National Intelligence Estimates)」という(なお、1979年以降から現在まで、NIEを大統領に提出するのは「国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)」の役割である)。
CIAが11月8日の国連軍と人民義勇軍との最初の交戦の後に提出した最初のNIEは中国軍の意図と能力についての評価を修正する内容であった。
さらにNIEは「中国共産党が、朝鮮戦争の2つの危機的な段階――国連軍が釜山橋頭堡で不安定な足がかりしか保持していなかった時期と国連軍が仁川に上陸した直後――で部隊を投入することを差し控えた」だけで「中国が朝鮮戦争に介入する最良の機会を逃したから介入しないのではない」と分析し、「中国は介入に最良の時期をみすみす見逃してしまった」と結論づけたウィロビーによる予測分析の内容を否定した。
CIAが出したNIEはCIAの分析とウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部の情報分析との間に溝が生じつつあることを示していた。
さらに、中国共産党の意図についてウィロビーの評価と決別したCIAのNIEは、人民義勇軍が2つの行動方針を実行に移す目的で朝鮮半島内に展開していると結論づけていた。2つの行動方針とは、すなわち、(1)段階的に大部隊を投入することにより国連軍の前進を阻止する、(2)大規模かつ強力な強襲作戦により国連軍をさらに南方へと退却させ防禦態勢へと追い込む、の2つである。
11月8日に出されたNIEは、人民解放軍が朝鮮戦争の性格を決定的に変化させる意図と能力を有していることについて最初に言及した意味で注目すべき見解であり、CIAが11月1日にトルーマン大統領に提出した「朝鮮半島における中国共産党の介入」と題するCIAの覚書からの脱却を意味した。
さらに、このNIEは、予測される人民義勇軍2つの行動方針のうちの(2)が持つ潜在的意味を正しく評価していた。NIEは、もし人民義勇軍の攻勢が成効したならば、満州に集結中の部隊を投入することにより戦果を拡大しようとするであろう、と述べていた。
その上で、NIEは、国共内戦を戦い抜いたベテラン軍人である人民義勇軍兵士は北朝鮮の荒涼たる地形と厳しい冬期の寒さを利用して、朝鮮半島での戦争を「手詰まり」状態にすることが可能であろう、とも分析していた。
そして、NIEの警告は不気味な色を帯びて次のように続く。
「そのような軍事的な手詰まりは国連軍を朝鮮半島に閉じ込め、彼らを消耗戦に曝すことになるだろう」。
また、NIEは、中国共産党が朝鮮半島におけるその戦闘能力を「非常に大規模な部隊が投入されるまで」増強する可能性が高い、と結論づけていた。
「軍事的な手詰まり」という表現といい、人民義勇軍が「非常に大規模」に増強されるという警告といい、このNIEは朝鮮戦争が将来たどることになる道程を恐ろしいほどまで正確に予言する内容であった。
しかしながら、朝鮮半島の前線にいる国連軍兵士にとって不幸なことに、この報告書は、マッカーサーやウィロビーに対して、わずか2週間後に開始される予定の不幸な攻勢作戦を再考させる影響力を持たなかった。
▼11月8日付のNIEが持った意味 ~CIAと極東軍第二部との間に入った亀裂~
CIAの報告書は11月8日にNIEが出されるまで、中国の意図と能力に関して、ウィロビーの評価ときわめて類似したものであった。
東京にオフィスを置く極東軍司令部参謀第二部も米国のラングレーに所在するCIAも中国人部隊が満州に大規模集結中であることは正確に認識していたが、不充分ながらも中国側の視点に立って中国の戦略目的を考察したのは、前回の連載で言及した10月12日付のCIA報告書が最初のものであった。
さらに、CIAは、10月中旬に潜在的な中国の戦略目的を認識していたにもかかわらず、11月8日にNIEを出すまでウィロビーの予測分析を自らの機関の報告書に反映させ続けた。
そして、NIEによる予測分析とウィロビー率いる極東軍司令部参謀第二部による予測分析とが見解を相違させる大きな分岐点となったのが、満州に展開中の人民義勇軍が採用するであろうと予想される2つの行動方針を分析した11月8日付のNIEであった。
しかしながら、CIAが朝鮮半島において決定的行動に出ることを警告したにもかかわらず、ウィロビーは中国が国連軍の鴨緑江へ向かう攻勢作戦に対し重大な脅威を与えないであろうという認識を持ち続けたため、マッカーサーとその幕僚は大いに狼狽することとなるのである。
(以下次号)
(長南政義)