【本の紹介】『現代戦略論─大国間競争時代の安全保障─』 著:高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)

クラウゼヴィッツ以降で最高の戦略書として定評ある
米海軍・ワイリー提督の『戦略論の原点』を初めて
手にしたとき、そのボリュームの少なさに驚いた記
憶があります。

本著を読了したとき、あの時と同じ感慨を持ちました。

このボリュームで、
これだけ内容が濃く、わかりやすく読め、
読者にもたらす意味価値が実に高い。

まぎれもない傑作です。

『現代戦略論─大国間競争時代の安全保障─』
著:高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)
出版社:並木書房 (2022/12/28)
発売日:2022/12/28
言語:日本語
単行本:四六判236ページ
寸法:1.6 x 13 x 18.8 cm
定価:1600円+税
https://amzn.to/3uXze0e

こんにちは、エンリケです。

先日、戦略3文書が閣議決定され、わが安保政策はよ
うやく大きく前進することになりました。

そんなベストタイミングに出版された本書は、「戦
略とは?」という基本からスタートし、わが国が置
かれている実に厳しい国際環境を解説。そのうえで
わが防衛戦略を種々の手法で解き明かして提言する
ものです。

<本戦略は、「優先順位の芸術」であり、日本が持つ
比較優位を活かすかたちで傾斜的にリソースを配分
していく指針でなければならない。日本の大戦略上
の目的はあくまで現状維持であり、防衛力はそのた
めの手段として用いられる。本書では、「大国間競
争の時代」においてなお現状維持を実現するための
防衛戦略として、ネットアセスメントや将来戦に関
するシナリオプランニングを踏まえ、「統合海洋縦
深防衛戦略」を提唱した。宇宙・サイバー・電磁波
能力と陸・海・空の対艦攻撃能力を統合的に整備し
、中国の海上制圧を阻止することで、現状維持を達
成しようとするものである。〈「おわりに」より〉>

戦略論や防衛論、軍事論はあまた世に出ておりますが、
本著が何よりユニークなところは、

「現在の我が国の実情」に沿った「戦略論」

という点です。

この点をクリアした戦略書は

本著しか存在しない、

のが実際のところです。

◆高橋杉雄さん

著者の高橋さんは、いま最も注目されている戦略家。
マスメディアに頻繁に出演されているので、ご存じ
の方も多いと思います。

高橋杉雄(たかはし すぎお)
防衛研究所防衛政策研究室長。1997年早稲田大
学大学院政治学研究科修士課程修了。2006年ジ
ョージワシントン大学大学院修士課程修了。199
7年より防衛研究所。防衛省防衛政策局防衛政策課
戦略企画室兼務などを経て、2020年より現職。
核抑止論、日本の防衛政策を中心に研究。主な著書
に『「核の忘却」の終わり:核兵器復権の時代」』
(共著、勁草書房、2019年)、『新たなミサイ
ル軍拡競争と日本の安全』(編著、並木書房、20
20年)『ウクライナ戦争と激変する国際秩序』
(共著、並木書房、2022年)

私が敬愛する識者が
「日本の安保分野だけは他分野と違い、雨後のタケ
ノコのように才能が生まれてくる」
と言ってましたが、高橋さんはその代表格ですね。

またある識者は
「高橋さんは江畑謙介さんの後継者」
とも言っています。

◆根本的に転換した国際環境

さてこの本ですが、

露によるウクライナ侵略を通じて起きた
「国際環境の根本的転換」を正確に把握し、
我が国がとるべき戦略は何か?

という問いに応える

「統合海洋縦深防衛戦略」

を初めて明かしたものです。

「統合海洋縦深防衛戦略」は、
ネットアセスメント分析とシナリオプランニングの
手法を用いて導き出されたもので、本著で初めて明
らかになりました。

2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵
略により、冷戦後の協調的な国際環境は消滅。大国
間の競争が復活しました。

このポイントを見誤っている人がわが国には多いで
す。

「なんとなくそういう感じがする」というべき、言
葉にならない庶民の肌感覚だけが正鵠を射ている感
を持ちます。

わが国が対峙する最大の相手は「支那の中共」です
が、「現状変更」を図る中共の大戦略に対するわが
大戦略は、「現状維持」となります。
両者の戦略目的の非対称性に日本の勝機がある、と
高橋さんは言います。

仮に抑止に失敗して戦争になっても、海上で状況を
膠着化できれば、世界中に展開する米軍の来援が期
待でき、有利なかたちで戦争を終結できる、という
ことです。

高橋さんはいいます

●戦略とは「優先順位の芸術」である

●戦略そのものよりも「戦略立案のプロセス」の方が重要

●戦略は具体性がなければいけない

・・・

『現代戦略論─大国間競争時代の安全保障─』
著:高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)
出版社:並木書房 (2022/12/28)
発売日:2022/12/28
言語:日本語
単行本:四六判236ページ
寸法:1.6 x 13 x 18.8 cm
定価:1600円+税
https://amzn.to/3uXze0e

いかがでしょうか?

それでは、我が国で初めて生まれたといってよい
「戦略書」の中身を見ていきましょう。

——————————–

目 次

はじめに 1

第1章 戦略はなぜ必要か? 17

 戦略とは何か? 18
戦略は目的・方法・手段の組み合わせ/戦略の複層
構造/戦略とは「優先順位の芸術」である

 戦略論の中の安全保障戦略 27
経営戦略と安全保障戦略/安全保障における大戦略
の必要性/ロシア・ウクライナ戦争に見られる現代
安全保障戦略の特徴

 戦略立案プロセスの重要性 39
戦略文書の限界/「全体最適」と「部分最適」のせ
めぎあい/「負け組」にも当事者意識を/戦略立案
プロセスの大きな役割

第2章 戦略はなぜ失敗するか? 52

 戦略を成功させるための五つの課題 53
戦略の複層性──上位戦略と下位戦略/明確な戦略
目的──何が成功で何が失敗かを定義する/戦略の
実行における二つの論点/競争相手の存在──「ネ
ットアセスメント」という手法/新たな環境への適
応──戦略を修正していくことの難しさ

第3章 「大国間競争」時代の戦略上の課題 77

 日本の戦略上の課題:パワーバランスの変化 82
失敗した米国の対中戦略/民主主義のオルタナティ
ブモデルとしての中国

 社会システムをめぐる競争 91
民主主義と権威主義の競争/デジタル・トランスフ
ォーメーション(DX)をめぐる競争/新たな「パ
ワーセンター」をめぐる争い

 地政戦略面での競争 99
「一帯一路」構想の地政戦略的意味/古典的な地政
学から見た「一帯一路」構想/「ログローリング」
のリスク/地域レベルでの現状をめぐる競争:東
シナ海、南シナ海、台湾

第4章 大国間競争時代の「日本の大戦略」113

 大国間競争における日本の「立ち位置」114
日本はパワーセンターとしての地位を維持できる
か?/米中対立と日中対立の違い/二つの競争にお
ける日本の「目的」

 日本の「能力」は地政戦略的な競争を支えられる
か? 121
防衛計画の大綱/基盤的防衛力構想からの脱却へ/
統合運用を踏まえた能力評価の実施/兵力構成に残
る基盤的防衛力構想/軍事バランス──日米中の比
較/防衛費──半減した日本のシェア/日米同盟─
─失われた米軍事力の圧倒的優位/安全保障法制─
─集団的自衛権の限定的な行使容認

 日本のリソースからみた戦略上の選択肢 145
ネットアセスメント──軍事バランスを相対的に評
価/日米中の比較優位・比較劣位の分析/日本の比
較優位を活かした戦略の組み立て

第5章 将来の戦争をイメージする 157

  技術の発達の「先取り」の難しさ 158
戦争の様相は絶えず変化する/「変化の先取り」の
失敗

 将来戦の予測はなぜ外れるのか? 163
将来戦予測が困難な三つの理由/試行錯誤の重要性

 シナリオプランニングで将来戦像に迫る 167
「ドライビングフォース」を二つ選定する/ドライ
ビングフォース1「紛争の形態はどうなるか?」/
ドライビングフォース2「戦場の霧は残るか・消え
るか?」

 将来戦に関する四つのシナリオ 173
二つの軸から描く将来戦のイメージ

第6章 これからの日本の防衛戦略 181

 日本の防衛戦略の五つの前提条件 182
達成すべき目的と「失敗の定義」

 シナリオプランニングから見える将来戦像 186
現状維持側が有利なシナリオと不利なシナリオ/
「戦場の霧」をめぐる攻防/短期戦を阻止できれば
日米が有利

「願望」と「能力」のバランスをとる 195
膠着状態に持ち込み、米国の戦力集中の時間を稼ぐ/
「攻者三倍の法則」──中国の三分の一程度の防衛
費を維持する

第7章 統合海洋縦深防衛戦略 200

 中国の「セオリー・オブ・ビクトリー」201
困難をともなう「渡洋上陸作戦」/弾道・巡航ミサ
イルで航空優勢を獲得

 日本の「セオリー・オブ・ビクトリー」209
中国の航空優勢獲得を阻止する/海上制圧と上陸作
戦の阻止

 新たな「統合海洋縦深防衛戦略」214
前提となる三つの戦略的分析/海洋防衛能力の強化
──対艦ミサイルによる飽和攻撃/対艦ミサイル部
隊の残存性を高める

 統合海洋縦深防衛戦略を実現するためのリソース
配分 220
宇宙・サイバー・電磁波能力の強化/対艦ミサイル
攻撃能力の強化/航空相殺攻撃能力の強化/宇宙・
サイバー・電磁波戦能力の強化

おわりに 230

———————————–

いかがでしょうか?

わが国が位置する東アジアエリアは、
世界で最も危険な地域のひとつです。

そのような危機的状況下にあってわが国はいかなる
防衛戦略をもって難局に臨めばよいのでしょうか?

本著にはその問いへの答えがあります。

最後に高橋さんはこう言います。

———————————–

おわりに

 冷戦の終結とともに、核戦争による人類絶滅の恐
怖は去った。それからの30年ほどの時代は、グロ
ーバリゼーションによる経済的繁栄と合わせて、世
界が平和を感じることができた時代だった。この時
代の最大の脅威は、9・11同時多発テロに代表さ
れる過激主義テロであり、国家間の大戦争は過去の
ものとなったと広く信じられていた。
  しかし、2022年2月のロシアによるウクラ
イナ侵攻によって、世界は大きく変わった。これか
らしばらくの間、「大国間の競争」が展開していく
なか、世界の人々は戦争の「影」を感じながら生き
ていかなければならなくなるだろう。
  そんな世界の中でも、特に日本は、世界で最も
厳しい安全保障環境に置かれている。中国は、爆発
的な経済成長を背景に、世界最強の軍事大国であっ
た米国を急追するかたちで軍拡を進め、航空戦力や
水上戦闘艦艇において対米7?8割の戦力を構築し
た。北朝鮮は、冷戦終結後一貫して核・ミサイル開
発を進め、日本を射程に収める核ミサイルをすでに
配備しているとみられている。ロシアも、ウクライ
ナ侵攻に続いて、東アジアでも活発な軍事活動を行
なっている。
  こうした厳しい安全保障環境においては、戦略
をきちんと考えていくことが不可欠となる。それを
支えるのは文字通りの「知恵」だが、「知恵」だけ
では足りない。戦略において最も重要なことは、「
願望」と「能力」のバランスだからである。「能力
」が足りなければ、どれほど「知恵」を絞っても「
願望」を実現することはできない。
  アジアにおいて周辺諸国の軍拡が急速に進んだ
以上、日本も「能力」を高めるため、これまで以上
に資源(リソース)を投入しなければならなくなっ
ている。それが2022年12月に決断した防衛費
の増額である。
  日本は長い間、米国に次ぐ世界第二の経済大国
、すなわち東アジア最大の経済大国であった。その
時代であれば、日本が防衛費をGDP比1パーセン
ト弱に設定することには、経済大国の自制として大
きな意味があった。しかしながらいまや日本は東ア
ジア最大の経済大国ではない。リーマンショックの
直後に中国に追い抜かれ、現在ではGDPで3倍強
の差がついてしまっている。結局のところ、日本が
GDP比で防衛費を大幅に増額しなければならなく
なっている理由は、安全保障環境の悪化と同時に、
GDPの成長が頭打ちとなったことが大きい。現在
、日本の防衛費は中国の国防費の四分の一にすぎな
いことを考えれば、「能力」を強化するためのリソ
ースをこれまでよりも多く配分しなければ、「願望
」としての現状維持を達成することは難しい。その
ことが、2022年12月に日本が防衛費の大幅な
増額を決める大きな理由となっている。
  日本の大戦略上の目的が現状維持であり、しか
も海洋による離隔を利用できるとしても、「攻者三
倍の法則」に基づき、中国の三分の一を上回る程度
の防衛費を確保する必要はある。これは日本の防衛
費をGDP比で2パーセント程度にすることを意味
する。しかし、やみくもに防衛費を増額するだけで
は、抑止力を効果的に高めることにはつながらない
。このときに必要なのが、「知恵」を絞って大戦略
と防衛戦略をきちんと構築していくことである。
  戦略は、「優先順位の芸術」であり、日本が持
つ比較優位を活かすかたちで傾斜的にリソースを配
分していく指針でなければならない。日本の大戦略
上の目的はあくまで現状維持であり、防衛力はその
ための手段として用いられる。本書では、「大国間
競争の時代」においてなお現状維持を実現するため
の防衛戦略として、ネットアセスメントや将来戦に
関するシナリオプランニングを踏まえ、「統合海洋
縦深防衛戦略」を提唱した。宇宙・サイバー・電磁
波能力と陸・海・空の対艦攻撃能力を統合的に整備
し、中国の海上制圧を阻止することで、現状維持を
達成しようとするものである。
  これがどの程度、中国に対する抑止力となり、
地域と世界の安定につながるのか、それはいまの時
点ではわからない。しかし、いま、防衛費を増額す
るとともに「知恵」を絞って、有効なかたちで資源
を投入できれば、中国の現状変更的な政策に端を発
する戦争の発生を阻止できる可能性は十分にある。
決まった未来は存在しない。未来の方向を決めてい
くのは、現代を生きる人々の選択である。日本は
「未来を変えられる」のである。

———————————–

<日本は「未来を変えられる」>

しびれませんか?
思わず納得しませんか?

この度増額が決まった防衛費。
本著の戦略に沿って優先順位をつけて配分出来たら
わが安全確保につながるはずです。

これがわが「セオリー・オブ・ビクトリー」につな
がる道ではないでしょうか?

小さいのに大きな価値を持つこの本をこの年末年始に
紐解いてほしい。

心からそう願ってやみません。

最後になりましたが、露によるウクライナ侵攻後テ
レビ等に引っ張りだこで多忙を極める中、寸暇を惜
しんで本著を執筆された高橋先生。

そして、ベストタイミングに刊行するという想像
以上の過酷さを乗り切った編集者さん。

いましかないタイミングで本著を刊行した
各位の機略、心意気とその意義の深さ大きさを心か
ら賞賛します。

年末年始いや21世紀の我が国に必読の一冊です。

日本人すべてに、心からおススメします。

『現代戦略論─大国間競争時代の安全保障─』
著:高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)
出版社:並木書房 (2022/12/28)
発売日:2022/12/28
言語:日本語
単行本:四六判236ページ
寸法:1.6 x 13 x 18.8 cm
定価:1600円+税
https://amzn.to/3uXze0e

エンリケ

追伸

とくに第6章と第7章は必読熟読を要する箇所です。
年末年始のあいだに時間をとってお読みください。

年明けにはわが防衛安保への自信が生まれているこ
とでしょう。

『現代戦略論─大国間競争時代の安全保障─』
著:高橋杉雄(防衛研究所防衛政策研究室長)
出版社:並木書房 (2022/12/28)
発売日:2022/12/28
言語:日本語
単行本:四六判236ページ
寸法:1.6 x 13 x 18.8 cm
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