防空識別圏(ADIZ)とは?
わが国のADIZ 防空識別圏(ADIZ)とは?
防空識別圏というのは、領空の定義とは異なり、侵入した彼我不明機などが領空に入ってくる前に識別、要撃する必要があるため設けられているものです。当該機に早めに対応するため、要撃機が警戒のためスクランブルで上がって見張るということを行なっています。領空に入られてからアラート発進したところで間に合うはずもないからです。
空からの奇襲攻撃に備えるため、各国は独自の基準を設けて防空識別圏を設定しており、一般的な定義では、各国は領土の外側約4~500キロの範囲を設定しているといわれています。(我が国近辺のADIZについては次項をご参照ください)
ADIZは、本質的に敵機が自国領空に至る前に対処するため各国の都合で設けるものですから、この中に勝手に入られても本来は不法行動ではありません。ただ、侵入するすべての航空機は当該国家に飛行情報を通報する必要があります。事前に飛行情報がなければ、「彼我不明機」とされ、スクランブルの対象となります。
排他的経済水域と異なり、各国の了承を得るような内容のものではありません。また、得る必要もありませんし、調整する必要もありません。したがって、当然他国とカブってしまうエリアも存在し得ます。
なお、ADIZと良く似たものに“FIR”「飛行情報区」というものがあります。これは航空交通管制のために世界中の空を世界各国が分担して管理しているもので、本来は軍用機能ではありませんが、防空識別情報とは密接に絡んでいます。
我が国のADIZと周辺国との関係
現在の我が国近辺のADIZは、米軍がWW2後の冷戦が始まった際に作ったものを「ほぼ」そのまま使っています。(北鮮、中共、ロシア、韓国、台灣)
なぜ「ほぼ」かといえば、日中国交回復時に中国に遠慮し、東シナ海の上海付近?にあたる南北の線を少し東に後退させたこと。また、これは正確かどうか不明ですが、樺太や北方領土方面も当初より少し後退させたかも知れないこと、によります。その結果、我が国ADIZと韓国ADIZ、台湾ADIZとの間では、さながら空域を作業分担しているように全く重複がありません。
ただひとつ、わが国固有の領土である竹島が韓国ADIZに、与那国島の西半分が台湾ADIZに含まれてしまったという問題点があります。この背景には、占領地である旧大日本帝国領の空域を、ソ連の侵攻に備えて、防空に都合の良いように米軍が適当に分割したことがあります。そのため、北鮮の南部も韓国ADIZに含まれています。いわゆる「竹島問題」はこれが発端になっています。竹島が自国ADIZに入っているため、李承晩大統領がそれをよいことにして、李承晩ラインを引く際に自国の国防圏とばかりに竹島を含ませてしまったのです。
なお、ある元幹部の方によれば「我が国と韓国や台湾とはADIZをシェアしていることでわかるように、(以前は)相互の飛行情報の交換が(米軍をかすがいとして)ありましたので、敵味方不明機には該当しませんでした。(その意味では友軍扱いですね。今は知りません。)」とのことです。
ADIZの監視・運用とスクランブルの実際
ADIZの監視は、我が国では空自の警戒管制部隊が24時間365日体制で行なっています。
運用面からいえば、お互いが目に見えない線を引いてその線を基準に作戦する、という「領空」とは全く異なる性質のものがADIZと言えます。なぜなら、防空識別圏の設定はその国の迎撃能力を暴露することを意味するからです。対応次第によっては、レーダーレンジや最大レンジでの解析率、スクランブルの所要時間などがバレバレになってしまいます。
元自衛官の方によると「中国軍やソ連軍機が電波の最大到達可能域をジグザグに飛行し、こちらの探知可能な距離を探索していました。こちらもバカではありませんから、知らぬふりをしたり、侵入してきてからアラートで脅かしたり、まるで狐と狸の化かし合いでした」とのことです。
また、実際の運用では、「防空識別圏に侵入したから総てスクランブルをかける」というわけでもないようです。探知したからすぐスクランブルでは、こちらのレーダーの探知距離とスクランブルの所要時間を相手に教えてしまう、というのがその理由のようですが、さもありなんですね。(^o^) 現場では、今までの動勢や過去の侵入ルート、機数、機種その他様々な情報を分析して対応しているようです。
防空識別圏内のアラート対応については、どの辺で判断するかは防衛秘密に属しますので公表されていません。基本的には1機の不明機に対し2機で対応しており、1機がいつでも攻撃できるポジションにつき、もう1機が撮影や説得を行うようです。なお警戒管制部隊が行なう監視は対航空機だけではなく、船舶やその他についても同様に行なわれているとのことです。
スクランブルの応酬
先ほど、ADIZがかぶる可能性もある。と述べましたが、その結果起こると想定される「スクランブルの応酬」は、日常レベルで行なわれていると見るのが自然でしょうね。
双方の戦闘機が出動するというのは、日本以外の国ではごく当たり前のことのようですが、日本の周囲でも日常的に行なわれているような気がします。
わが国は島国で、この種のことが発生しても陸とは遠くはなれた海上で事態は展開されるでしょうから、国民がその光景を目にする機会はまずないと思うからです。この面で、対処状況が下から丸見えとなる地続きの大陸国とは感覚がちがうといえましょう。
ある元空自の方は、「不安をやたら煽ることは本意ではありませんが、我が国はもっと危機感を持つべきであると感じております。呑気に構えていて、気がついたら国が無かったなどということがないようにしなければなりません。」と常々おっしゃっておられます。
【参考】
・『航空実用事典』 http://www.jal.co.jp/jiten/ (ADIZの図もあります)
※「飛行情報区」についても、上記URLで解説されています。
・コモ辞書 http://www.jfss.gr.jp/komo_top.htm
【Special thanks】
Bigeaglejpさま、侍魂さま、ヨーソロさま、Tak21さま、南の鎮めさま。
防空識別圏というのは、領空の定義とは異なり、侵入した彼我不明機などが領空に入ってくる前に識別、要撃する必要があるため設けられているものです。当該機に早めに対応するため、要撃機が警戒のためスクランブルで上がって見張るということを行なっています。領空に入られてからアラート発進したところで間に合うはずもないからです。
空からの奇襲攻撃に備えるため、各国は独自の基準を設けて防空識別圏を設定しており、一般的な定義では、各国は領土の外側約4~500キロの範囲を設定しているといわれています。(我が国近辺のADIZについては次項をご参照ください)
ADIZは、本質的に敵機が自国領空に至る前に対処するため各国の都合で設けるものですから、この中に勝手に入られても本来は不法行動ではありません。ただ、侵入するすべての航空機は当該国家に飛行情報を通報する必要があります。事前に飛行情報がなければ、「彼我不明機」とされ、スクランブルの対象となります。
排他的経済水域と異なり、各国の了承を得るような内容のものではありません。また、得る必要もありませんし、調整する必要もありません。したがって、当然他国とカブってしまうエリアも存在し得ます。
なお、ADIZと良く似たものに“FIR”「飛行情報区」というものがあります。これは航空交通管制のために世界中の空を世界各国が分担して管理しているもので、本来は軍用機能ではありませんが、防空識別情報とは密接に絡んでいます。
我が国のADIZと周辺国との関係
現在の我が国近辺のADIZは、米軍がWW2後の冷戦が始まった際に作ったものを「ほぼ」そのまま使っています。(北鮮、中共、ロシア、韓国、台灣)
なぜ「ほぼ」かといえば、日中国交回復時に中国に遠慮し、東シナ海の上海付近?にあたる南北の線を少し東に後退させたこと。また、これは正確かどうか不明ですが、樺太や北方領土方面も当初より少し後退させたかも知れないこと、によります。その結果、我が国ADIZと韓国ADIZ、台湾ADIZとの間では、さながら空域を作業分担しているように全く重複がありません。
ただひとつ、わが国固有の領土である竹島が韓国ADIZに、与那国島の西半分が台湾ADIZに含まれてしまったという問題点があります。この背景には、占領地である旧大日本帝国領の空域を、ソ連の侵攻に備えて、防空に都合の良いように米軍が適当に分割したことがあります。そのため、北鮮の南部も韓国ADIZに含まれています。いわゆる「竹島問題」はこれが発端になっています。竹島が自国ADIZに入っているため、李承晩大統領がそれをよいことにして、李承晩ラインを引く際に自国の国防圏とばかりに竹島を含ませてしまったのです。
なお、ある元幹部の方によれば「我が国と韓国や台湾とはADIZをシェアしていることでわかるように、(以前は)相互の飛行情報の交換が(米軍をかすがいとして)ありましたので、敵味方不明機には該当しませんでした。(その意味では友軍扱いですね。今は知りません。)」とのことです。
ADIZの監視・運用とスクランブルの実際
ADIZの監視は、我が国では空自の警戒管制部隊が24時間365日体制で行なっています。
運用面からいえば、お互いが目に見えない線を引いてその線を基準に作戦する、という「領空」とは全く異なる性質のものがADIZと言えます。なぜなら、防空識別圏の設定はその国の迎撃能力を暴露することを意味するからです。対応次第によっては、レーダーレンジや最大レンジでの解析率、スクランブルの所要時間などがバレバレになってしまいます。
元自衛官の方によると「中国軍やソ連軍機が電波の最大到達可能域をジグザグに飛行し、こちらの探知可能な距離を探索していました。こちらもバカではありませんから、知らぬふりをしたり、侵入してきてからアラートで脅かしたり、まるで狐と狸の化かし合いでした」とのことです。
また、実際の運用では、「防空識別圏に侵入したから総てスクランブルをかける」というわけでもないようです。探知したからすぐスクランブルでは、こちらのレーダーの探知距離とスクランブルの所要時間を相手に教えてしまう、というのがその理由のようですが、さもありなんですね。(^o^) 現場では、今までの動勢や過去の侵入ルート、機数、機種その他様々な情報を分析して対応しているようです。
防空識別圏内のアラート対応については、どの辺で判断するかは防衛秘密に属しますので公表されていません。基本的には1機の不明機に対し2機で対応しており、1機がいつでも攻撃できるポジションにつき、もう1機が撮影や説得を行うようです。なお警戒管制部隊が行なう監視は対航空機だけではなく、船舶やその他についても同様に行なわれているとのことです。
スクランブルの応酬
先ほど、ADIZがかぶる可能性もある。と述べましたが、その結果起こると想定される「スクランブルの応酬」は、日常レベルで行なわれていると見るのが自然でしょうね。
双方の戦闘機が出動するというのは、日本以外の国ではごく当たり前のことのようですが、日本の周囲でも日常的に行なわれているような気がします。
わが国は島国で、この種のことが発生しても陸とは遠くはなれた海上で事態は展開されるでしょうから、国民がその光景を目にする機会はまずないと思うからです。この面で、対処状況が下から丸見えとなる地続きの大陸国とは感覚がちがうといえましょう。
ある元空自の方は、「不安をやたら煽ることは本意ではありませんが、我が国はもっと危機感を持つべきであると感じております。呑気に構えていて、気がついたら国が無かったなどということがないようにしなければなりません。」と常々おっしゃっておられます。
【参考】
・『航空実用事典』 http://www.jal.co.jp/jiten/ (ADIZの図もあります)
※「飛行情報区」についても、上記URLで解説されています。
・コモ辞書 http://www.jfss.gr.jp/komo_top.htm
【Special thanks】
Bigeaglejpさま、侍魂さま、ヨーソロさま、Tak21さま、南の鎮めさま。