正規軍とは?

2019年2月6日

【質問】
『「正規軍」についてなのですが、我が自衛隊もジュネーブ条約の対象となる正規軍か危なそうなのですけれど、隣の国の「人民解放軍」なるものも共産党の「私兵」とすれば、かなり怪しい位置づけの組織では無いかと思うのですが。まだ、一党独裁などと言っている間は良いのかも知れませんが、形だけでも複数政党制などに移行すれば尚更と思うのは素人考えなのでしょうかね?』
(FromAさま)
【回答】
軍事に関わる概念は、法律や思想ができるずっと以前から存在する「当然の常識」を前提にしていることが多く、知識や理論ですっきりと説明できない面が多々あるものです。今回の「正規軍」もそれに該当するといえるでしょう、
常識的にいいますと、わが自衛隊は正規軍として扱われています。「ジュネーブ条約の交戦者の資格云々は満たしているでしょう。」(陸自関係者)問題は、「武器使用の準拠が「お巡りさん」のそれとほぼ同じ。(武力行使を「武器使用」でしばっている)」(陸自関係者)ことです。国家意思の発動たる「武力行使」を、違法行為を取り締まる警察力の手段のひとつ「武器使用」と同レベルで扱っている点がガンのようです。
ヨーソロさまは以下のようなご高見を示されています。
「さて「正規軍」ですが、これが関係するのは主に地上軍関係ですので私よりは陸自関係のなかによりお詳しい方がおられるのではないかと思われますが、常識的なことを書いてみます。
 「正規軍」が関係するのは主にハーグ陸戦条約やジュネーブ条約ですが、締結各国に既に正規の軍隊があることが当然の前提になっており、むしろ正規軍以外で軍人・軍属相当の交戦者と見なす者を定めています。
 「正規軍」という言い方は国際法上に厳格に定義されているわけでなく、単に常備軍があるだけですね。これも定められた制服を着ている云々程度の話で、民兵、義勇兵、ゲリラ兵などに比べて法的に特段の優位があるわけではない、と思います。強いて言えば、捕虜になったときに適切な扱いを受ける可能性が少しは大きいかもしれない、と言う程度です。
 ご質問の「人民解放軍」も我が国の「自衛隊」もそうですが、
(1)部隊の責任者がいて統制がとれており、
(2)遠くから分かる記章を付け、
(3)武器を隠さずに携行し、
(4)戦争関係の諸法規を守って、
戦っている限りは、不幸にも敵の手に落ちた場合にも、(民間人でなく)軍隊、軍人・軍属たる“同業者”として扱われることを敵に要求できます。
軍人・軍属なら義務として戦闘した戦争捕虜で、同じ軍人同士として相手国の軍事法規が適用されますが、民間人なら単なる殺人犯人扱いですからこの差異は大です。
 尤も、捕虜の待遇を要求しても、相手が応じるかどうかは分かりません。前(2)項ひとつ取っても、何を以て「遠くから認識できる」とするか明白な尺度はありません。むしろ正規軍の戦闘服等にこそ迷彩が施されているのが世界の常識です。
 陸自は20年以上前に作業服の階級章を白色から黒色に変えました。これはベトナム戦争で米軍の階級の高い将校が多く狙撃された戦訓から、階級章を遠くからは見え難いように黒色にしたわけです。朝鮮戦争に参戦した人民解放軍の自称は「義勇軍」でしたが、それが正規の中共軍部隊である実態は直ぐに世界中に知れ渡りました。彼等は休戦協定の当事者にもなっています。
 ジュネーブ条約は正規の兵士にIDカードを持たせるよう求めており、そのサンプルも定めていますが、認識票に比べて大きめのカードで、書かれる情報量も多いので、(国際条約等には忠実を旨とする)自衛隊も、私の知る限りでは、未だこれを採用していないと思います。(*自衛隊では数年前に身分証明書の書式が変更になり、今ではジュネーブ条約に則った内容を日本語・英語で記入されるようになりました。海外の軍事基地へも、この新身分証明書で立ち入ることができるそうです)
 ことほど左様に「正規軍」の定義は曖昧です。むしろ一番の問題点は我が国の憲法に「軍隊を持たない」と明示してあることを敵が逆手に取ることです。(海上保安庁法等にも同じ心配があります。)
 捕虜が多数に上ることが最前線の部隊にとって大変な負担になるのは、カチンの森のポーランド軍、スターリングラードで投降したドイツ第6軍、バターン半島で投降の米軍、WW2の終戦後に連合軍に投降したドイツ軍等の将兵の悲惨な話で良く知られています。
 旧ソ連軍のドクトリンには「日本の自衛隊を軍隊として扱う必要なし」と書かれていた、という話も聞いたことがあります。
 自衛官や有志の警防団員が有事に戦意を失うような馬鹿な話は一日も早く解消してほしいものです。
 一般に戦時国際法は牽強付会の世界で、強国の横車のごり押しは常に通る反面、弱小国の些細な違反もどきでもイチャモンや復仇の対象になります。(現在の国連安保理も似たようなものですが・・・)各国軍が「平時に」外交的に享受する特権や礼遇に関して言えば、当然に自国が保有する「正規の軍」であることを前提に置いて、求めているわけです。(中国共産党の軍を自称する「人民解放軍」も全く同様に振る舞っています。)
この場合は、世界中に公表されている記章や軍服を帯び、将校名簿に記載された将校の指揮官の指揮統制に服している部隊であることが当然とされています。武器の携行は必須ではありませんが、礼装時には将校は帯剣が常識です。(ちなみに自衛官の指揮官も普段は丸腰ですが、対外的に必要な場合に限り、儀礼刀-旧海軍の長剣と同じ仕様-を帯びます。)
相手国における特権は「地位協定」などで定められるわけですが、特にそのような定めがない場合でも、最低限、公務中の「部隊自衛権」は有しているものとして振る舞います。これ無くして軍隊とは言えません。
また、礼遇は受入国側の規則に則って行われますが、外交官のプロトコルと同様に永年の歴史と伝統で概ね世界共通の常識の線があります。
これは儀礼ですから暗黙の約束事であって法的なものではありませんが、無視すれば国際紛争の原因にさえなりかねないシビアなものです。(まともに仁義を切らないと直ぐに喧嘩出入りになるヤクザの世界と同じです)
こうしてみると、平時に政府公認で大っぴらに「正規軍」を主張して相手国もそれを認めれば「正規軍」として遇される、という以上の明確な国際法的根拠は無いに等しいと言えるでしょうね。少なくとも外国と関わらなければ、警察「軍」、内務省「軍」、国境警備隊、等々、いくら軍隊もどきでも「正規軍」云々の議論は無意味です。
以上、ヨーソロの管見でした。」