桜林美佐:誰も語らなかった防衛産業
「一度製造をやめてしまったら、次に始めたい時には、もう技術者はいない」(三菱重工 鈴木技術部長)(P38)
<このお金(国防費)が「自分たちの安全のために」計上されている予算だということについて、ついぞ忘れがちなのは、世の中が平和だからだろう。
兵器は使われたときに圧倒的な威力を発揮すべく、多額の予算を通じて開発されるが、最後まで「使われない」で天命を全うすることがベストという大きな自己矛盾を孕んでいる。そしてそれは自衛官の存在も同様である。
この頃は、「一生使わないものにお金をかけるのは無駄」という思考、国の安全を経済的観点で計るという発想から、見えないものへの負担は御免こうむるという人も増えているようだ。「抜かない名刀」に価値を見出せるかどうかは、今後の日本人の資質が左右するといえるだろう。
実は、この投資には国家の技術力の進歩・発展や、人的資源の養成、抑止や安心感といった無形のさまざまな「財産」が残されるのだが、それがなかなかわかりにくい。本来、そういう意味で、すべての国民が受益者なのだ。>(P124)
徹底的な取材が生んだ初めての入門書
防衛産業という業界ほど、その意味を理解されず、実態をゆがめて伝えられてきたところも少ないと感じます。
これについて著者は、「断片」でしかこの産業を評価できていないから、と言います。(それにしても題名「誰も語らなかった防衛産業」は秀逸です。このタイトルは、本著のみならず戦後日本の総てを物語っている感を私は持ちました)
そんな現状のなか著者は本著で、これまでにない視点で防衛産業にアプローチしました。「モノ作りの現場の人間」という視点です。
本著は、モノ作りの現場から真剣に国防を考えるという新たなスタイルを提示し、軍と民をつなぐ場でブラックホールと化していた「防衛産業」の姿・意味を描き出した見事なルポルタージュです。しかもそれだけに留まらない、他に類をみない総合性を持つ初心者向け啓蒙書となっています。知る限り、同種の作品を見たことはありません。
本著最大の特徴は、装備や武器・兵器をゼロから作る「国内の防衛産業の現場」という見えない存在に日を当て、防衛産業を支える大企業から小さい町工場まで幅広く取材していることです。大きなことだけでなく、こういう具体的な底辺部分の実態をどこまで了解しているか。忘れがちなこういう視線に本著は気付かせてくれます。
このおかげで、ほとんどの国民がつかめていない
「軍の装備が意味するもの」
「防衛産業の国家における意味合い」
「防衛費削減が防衛産業、ひいてはわが国防に至大なダメージを与えている事実」
といったことを理解できるようになります。
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誰も語らなかった防衛産業