コンタクト ~接敵~ Part2 — フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.22
From:野田力
件名:コンタクト ~接敵~ Part2
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軍事情報特別連載
フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.22
陸上自衛官を志すも挫折。自分が立派な兵士になれることを証明するため
渡仏し、外人部隊への入隊を果たした衛生兵が、最前線で体験した
アフガニスタン戦争の実像をお伝えします。
2012年(平成24年)8月6日(月)
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□はじめに
7月31日、私が駐屯していたFOBトラからフランス軍部隊が完全に
撤収しました。もうFOBトラにはフランス国旗は掲げられていません。
そして、今年中に仏軍戦闘部隊は完全に撤退するそうです。時代が
大きく動いている感じがします。
▼コンタクト ~接敵~ Part2
銃撃戦はつづく。しかし、私の位置からは何も見えない。
発砲音を聞き、無線で交信される会話内容から状況を読みとること
しかできない。OMLT、アフガン軍、戦闘小隊、中隊長班は敵弾の
脅威にさらされているのに、私自身は銃弾の飛んでこないワディの
なかでじっとしている。
命の危険を冒している彼らに対し、申し訳ないという思いが
込みあげ、安全を享受している自分に少しイライラしてきた。
冷静になるべきだ。そこで、「今はここで待機するのが自分の役割だ」
と自分に言い聞かせ、落ち着きを取りもどした。もし重傷者が発生
したら、我々医療班は彼らが同情するくらい忙しくなる。
それに、今、最前線にいる仲間のほとんどが、自分たちの置かれた
状況に満足しているだろう。敵と直接対峙する経験は貴重だ。
もし私が、「きみらの立場と私の立場を交換しよう」と提案しても、
彼らは断るだろう。だから彼らに申し訳ないという思いを抱く必要も
ない。ひとつ大口を叩かせてもらえるなら、逆に彼らこそ、陰で暇を
している私に申し訳ないと思うべきだ
“ドゥゥゥン!”
大きな爆発音が聞こえた。
“ドゥゥゥン!”
また聞こえた。二個戦闘小隊のうちの1つ、第3小隊の小隊長が
無線で中隊長に報告するところによると、敵がRPG-7を発射したらしい。
放たれたロケット弾は2発とも外れ、地面に当たり爆発した。
戦闘小隊の同僚にあとで聞いたのだが、ロケット弾が炸裂した
地面には、直径約1.5m、深さ約1mのクレーターができていた。
その同僚曰く、「ここの地中は石だらけで固いのに、こんなに
大きな穴があいた。あんなのがVABに命中したら絶対に助からない。」
“ドゥゥゥン!”
ふたたびRPGの爆発が聞こえた。無線によると、アフガン兵が発射
したものらしい。残念ながら成果はなかった。少しして銃撃もやんだ。
あとで聞いたのだが、この銃撃戦ではOMLTとアフガン軍だけが
応戦していた。戦闘小隊は撃たなかった。小隊長たちが発砲許可を
出さなかったという。実際に直接攻撃を受けたのはOMLTとアフガ
ン軍だけで、彼らは戦闘小隊よりも村に近づいたため、攻撃を
受けたらしい。
「ブラック、こちらサンダー。RPGを持つ敵1名を確認。座標は・・・。」
無線から音声が聞こえた。「サンダー」というコールサインを持つ
35RAPの観測班が、敵のいる地点の地理座標を中隊長に報告している。
離れた観測地点から高性能監視機器で村のなかの敵を捉えたのだ。
「ブラック、こちらソード。敵を視認している。発砲許可を要請する。」
今度は「ソード」、つまりTE(精鋭射手)班から無線が入った。
その敵を狙撃する準備ができたようだ。あとは中隊長が発砲許可を下せばいい。
中隊長が応答する。
「待て・・・。」
「えっ、なんで?」と思った。明らかに敵である人間をたおす
チャンスなんだから、「よし撃て」と言えばいいじゃないか。
少しして、ふたたび無線に中隊長の声が入った。
「撃つな。」
「了解。」
TE班は撃たないことを了解した。命令は命令だ。仕方ない。「待て」
から「撃つな」の命令の間の時間、中隊長は連隊長などの連隊上層部
に許可を申請していたのだろう。しかし却下された。
やがて、観測班が無線で言った。
「RPGを持った敵は建物に入り、見えなくなった。」
しばらくして、アメリカ軍のF15戦闘機が上空を飛び始めた。
ときどき村の真上を低空飛行し、敵を威嚇した。これにより、敵も
村人も皆、屋内に隠れてしまったにちがいない。とりあえず脅威は
去った。
ADU、我々医療班、車両整備班、工兵小隊のVABは移動を始めた。
我々はADU、車両整備班とともに戦闘小隊の後方数百mくらいの荒野
に陣取った。ワディから開けた荒野に出たので、村を眺めることが
できるようになった。工兵小隊はどこか別の場所へ行った。
午後になり、F15がバグラム航空基地へと飛び去り、静かな時間が
やってきた。ますます暇になった。すると、観測班から無線が入った。
「村のなかを約40名の非武装の人々が北に向かい歩いている。さらに
約20名が南に向かい歩いている。」
すごい人数だ。戦闘が始まり、どこかに隠れていた現地民が動き
だしたのだ。彼らにだって、今日中にやらなければならない農作業
などがあるはずだ。足止めをくらって、今ごろ文句を言っているに
ちがいない。
我々と敵との戦闘は、彼らにとっては、台風や洪水のような災害
みたいな感覚なのかもしれない。戦闘が台風のように過ぎ去れば、
普段の農作業を始める。この村に天気予報が存在するなら、
「今日の天気は、晴れのち戦闘、そののち晴れ」のような予報が
報道されるのかもしれない。
静かな時間が長くつづき、退屈の度合いがピークに達してきた。
運転席に座りっぱなしで尻が痛い。VAB後部のオアロ上級曹長と
ミッサニ伍長は、後部扉を開け、外に出て、立ち小便をしたり、
携帯コンロで湯を沸かし、コーヒーを入れ始めた。
とうとう私も運転席上部のハッチを開け、座席に立ち、胸から
上を外に出した。背伸びをし、上体を左右にひねり、コリをほぐす。
広がる荒野や遠くに見える雪山の山脈を眺めた。自然は美しい。
“パパパパパパン!”
“ドドドドドドン!”
突如、村から銃声が響き、OMLTやアフガン軍が応戦した。
5.56mm、7.62mm、12.7mmの発射音が混ざる。
我々の位置からは遠かったので、当たらないだろうと、私は隠れ
なかった。すると、近くの空中で“ヒュン”と音がした。流れ弾が
1発、そこを通ったのだ。自分から約20mくらいの距離に感じた。
若干、離れているうえに、私を狙って撃った弾ではなかったので、
恐怖は感じなかった。しかし、次に来る弾丸が当たると嫌なので、
私は素直に運転席に入った。後部の2人も車内後部に入り、そこで
コーヒーを飲んだ。緊張感のかけらもない。
銃声はすぐにやんだ。無線で観測班の報告が聞こえる。
「負傷した敵が4名見える。」
やった!戦果が出た。負傷した敵は他の敵たちによって、どこか
へと運ばれていった。無線では、負傷の種類や箇所など、詳しいこと
はわからなかった。しかし、少なくとも敵にダメージを与えることが
できた。私の手によるものではないが、嬉しかった。
その後は何も起きないまま、夜になった。OMLTとアフガン軍はCOP
フォンチーに帰還した。我々は、ADU班、医療班、車両整備班の乗員
で、交替で見張りにつき、夜を過ごした。
見張りは、小さな円陣を組んだ3台のVABの周囲をグルグルと
巡回するだけだった。暗視装置で時々周囲を見渡し、近づいてくる
者がいないか、見張った。
結局、なにも起きず、翌朝4時半ころ、暗闇のなかを暗視装置を
使い、我々は皆、離脱した。グリーンゾーンからじゅうぶん離れると、
暗視装置からヘッドライトに切り替え、FOBトラに帰還した。全員
無事で、第3中隊の車両には弾痕は一切なかった。OMLTやアフガン軍
の車両についてはわからない。
今回の任務は、戦闘があったにもかかわらず、全体としては退屈
だった。しかし、本当の戦争ではそういう時間のほうがはるかに
多いのではないだろうか。アクション映画ではいつも派手だ。
イメージと現実は違う。
とりあえず、敵が本当に潜んでいるということを実感することが
できた。しかも惜しみなく撃ってくる。何とか民間人に被害を出さず
に敵を排除できるといい。
(つづく)
(野田 力)
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● 著者略歴
野田力(のだ りき)
1979年9月 近畿地方生まれ。
阪神大震災における自衛隊の活躍を描いた書籍を読み、陸上自衛官を志すも挫折。
自分が立派な兵士になれることを証明するため渡仏し、外人部隊への入隊を果たす。
2005年3月 基本訓練ののち、希望していた第2外人パラシュート連隊に配属され、コル
シカ島に駐屯。
2005年4月 パラシュート課程修了。
2005年5月 第3中隊(水路潜入専門)第3小隊配属。歩兵訓練修了。ミニミ軽機関銃射
手を担当。
2005年10月 対戦車ミサイルERYX(エリックス)課程修了。同ミサイル射手を担当。
2005年12月 水路潜入課程レベル1修了。
2006年2月~6月 アフリカ・コートジボワールに派遣され、治安維持作戦に従事。
2006年12月 衛生兵課程修了。小隊の衛生兵となる。
2007年3月 水路潜入課程レベル2修了。
2007年4月 装甲車VAB(ヴァブ)免許取得。
2007年6月~10月 アフリカ・ジブチに派遣され、砂漠訓練等を受ける。
2008年2月 伍長昇進。
2008年9月~2009年1月 アフリカ・ガボンに派遣され、ジャングル訓練等を受ける。
2009年7月14日(フランス革命記念日) パリのシャンゼリゼ大通りの軍事パレードに参
加。
2009年12月 上級伍長昇進。
2010年1月~7月 アフガニスタン派遣。国際治安支援部隊活動。
2011年4月 除隊。
2011年6月 帰国。2012年春から看護学校に入学。経験・特技を活かし、国際医療・災
害医療の看護師を目指す。
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広く皆様のお知恵をあつめたいものと念じております。>
(兵頭二十八さん)
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発行:おきらく軍事研究会(代表・エンリケ航海王子)
著者:野田力
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