【本の紹介】『ブランデンブルク隊員の手記』ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼン著/大木毅監訳/並木均訳

おはようございます。エンリケです。

WW2時のドイツ軍には「ブランデンブルク」とい
う名の特殊部隊がありました。

具体的に何をしていたか?
についてこれまでほとんど知られてません。

ちなみに特殊部隊とは、戦略拠点の確保、破壊、要
人暗殺や拉致、、、といった戦略レベルの特殊任務
を遂行する部隊のことで、いわゆる「精鋭部隊」と
は違う次元の言葉です。

この本は、「ブランデンブルク」元隊員の手になる、
当事者の目から見た活き活きした独ソ戦回想録です。
戦時中の日記などを基に活写されています

WW2に参加した人たちの高齢化が進み、
おそらくいまが、当事者から話を聞き取りうる最後
の機会でしょう。

監訳者の大木毅さんもおっしゃる通り、その意味で
本著は歴史的に見て貴重な史料であり、読む価値の
ある戦史記録と感じます。

個人的に興味深かったのは、本著の後半部を構成する
「ソ連強制収容所の話」です。
収容前後の様子が詳細に記されています。

著者は収容後しばらくして脱走を試みて失敗したの
ですが。強制という割には想像以上にザルで、抜け
たところ多いロシア人たちの姿に、なんとなく笑み
が浮かびました。

大東亜戦争後、南方等の強制収容所で、陰湿で残虐
な扱いを受け、非業の死を遂げたまま歴史から抹殺
された、多くの名もなきわが先人たちを思うと複雑
な思いがします。



『ブランデンブルク隊員の手記─出征・戦争・捕虜
生活─』
ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼン著/大木毅
監訳/並木均訳
四六判244ページ(上製)定価2400円+税
発行日 :2022.3
定価 ¥2400+税
発行:並木書房
https://amzn.to/3NQ1Xwa

注目点は、

・ブランデンブルク部隊の特性がわかる
・独ソ戦での対パルチザン活動の実像
・不快極まる湿地帯での作戦行動

・イタリア山岳地帯での活動
・ブランデンブルク隊員であったことから
「戦犯」として一〇年の長きにわたってソ連に抑
留された記録。

・ソ連の労働収容所や刑務所での過酷な体験
・父親との再会と別れ
・収容所からの脱走の試み

などなど、当事者の得難い証言をまとめており、
きわめて貴重な史料といって差し支えないところです。

著者、監訳者、訳者は以下の通りです。

◆著者 

Hinrich-Boy Christiansen
(ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼン)
1924年ドイツ/キール生まれ。1942年に「ブランデ
ンブルク」特殊部隊に入隊、ソ連およびイタリアに
て特殊作戦に従事。敗戦後は捕虜および「戦犯」と
してソ連に抑留され、その間に脱走を試みるも、19
55年まで労働収容所や刑務所で服役。
帰国後は大学教育を経て国家公務員として西ドイツ
政府に奉職。1992年および1998年にロシア連邦政府
により名誉を回復。2014年リューベックにて没。

◆監訳者

大木 毅(おおき・たけし)
現代史家。1961年東京生まれ。立教大学大学院博士
後期課程単位取得退学。DAAD(ドイツ学術交流会)
奨学生としてボン大学に留学。千葉大学その他の非
常勤講師、防衛省防衛研究所講師、国立昭和館運営
専門委員等を経て、著述業。『独ソ戦』(岩波新書)
で新書大賞2020大賞を受賞。主な著書に『「砂漠の
狐」ロンメル』『戦車将軍グデーリアン』『「太平
洋の巨鷲」山本五十六』『日独伊三国同盟』(以上、
角川新書)、『ドイツ軍事史』(作品社)、訳書に
『戦車に注目せよ』『「砂漠の狐」回想録』『マン
シュタイン元帥自伝』『ドイツ国防軍冬季戦必携教
本』(以上、作品社)など多数。

◆訳者

並木 均(なみき・ひとし)
1963年新潟県生まれ。中央大学法学部卒。訳書
に『大西洋の脅威U99』『Uボート、西へ!』
(以上、潮書房光人新社)、『Uボート戦士列伝』
(早川書房)、『Uボート部隊の全貌』(学研パブ
リッシング)、『戦略インテリジェンス論』(共訳・
原書房)、『情報と戦争』『ナチスが恐れた義足の
女スパイ』(以上、中央公論新社)、『始まりと終
わり』『急降下爆撃』(以上、ホビージャパン)な
ど多数。

ここで、
監訳者・大木毅さんの言葉をご紹介します。

なぜか?

追記の一文をぜひ読んでほしかったからです。

———————————————-

〈監訳者のことば〉
  大戦を生き抜いた若者の記録(大木 毅)

 戦略的に重要な地点や施設を急襲、あるいは敵の
重要人物の拉致や暗殺をはかるといった、コマンド
やレンジャーによる特殊作戦は、戦後ながらく、米
英を中心とする西側連合軍の専売特許のように思わ
れてきた。それは日本のみならず、欧米においても
同様であって、そうした特殊部隊のイメージは、ノ
ンフィクションや映画、小説によって、広く流布さ
れたのである。
  しかしながら、少数精鋭の将兵により、敵の急
所に痛打を与え、作戦的・戦略的な効果を上げるこ
とを目的とする特殊部隊は、ドイツ側にも存在して
いた。

  ブランデンブルク部隊だ。

  この部隊の起源や編制については、本書の付録
5ならびに6に詳しく記されているので、ここでは
屋上屋を架すことを避けて、同部隊の歴史のあらま
しだけを述べることにしよう。ブランデンブルク部
隊は、一九三九年九月の対ポーランド戦を見据えて、
国防軍最高司令部外国・防諜局によって創設された。
「ブランデンブルク(Brandenburg)」の秘匿名称
は、基幹要員がブランデンブルク/ハーフェル
(ブランデンブルク・アン・デア・ハーフェル。
ハーフェル河畔のブランデンブルクの意)市に集め
られたことに由来するといわれる。

  私服、さらには対手の軍服を着用、主力に先ん
じて敵地深く潜行し、橋梁やトンネルなど、作戦・
戦術上の要点を押さえるという戦法がポーランド侵
攻で功を奏したことから、ブランデンブルク部隊は、
大隊規模から連隊に拡大され、一九四二年末から
四三年初頭になると、師団規模の兵力を擁するまで
になった。

  けれども、戦勢がドイツにとって不利な方向に
傾き、特殊作戦の余地が少なくなるにつれ、ブラン
デンブルク部隊も通常戦闘を行なう野戦師団となり、
一九四四年には装甲擲弾兵師団に改編された。た
だし、特殊作戦要員およそ八〇〇ないし一〇〇〇名
が、オットー・スコルツェニー親衛隊中佐が統轄す
る「SS遊撃隊(ヤークトフェアベンデ)」(SS
-Jagdverbande)に転属している。また、特殊作戦
の教育訓練要員は「選帝侯(クーアフュルスト)」
連隊にまとめられ、こちらは敗戦まで存続した。

  このような変遷をたどってきたブランデンブル
ク部隊が、いかなる作戦を実施したかについては、
特殊部隊という性格からか、必ずしもあきらかにさ
れてはこなかったが、最初はドイツ、ついで冷戦期
の西側諸国において研究が進んだ。以後、「ドイツ
版コマンド部隊」への冒険小説的興味も手伝って、
ブランデンブルク部隊の歴史や戦例は急速に解明さ
れるに至った。あいにく、そうした文献の多くは日
本には紹介されていなかったが、最近ニュージーラ
ンドのノンフィクション作家によるものが翻訳出版
され、貴重な一書となっている。

(中略)

  ここに訳出された『ブランデンブルク隊員の手
記──出征・戦争・捕虜生活』は、ブランデンブル
ク隊員として、その「前線捜索」をたびたび経験し
たばかりか、敗戦後にはソ連に抑留され、虜囚の辛
酸をなめた著者の回想記である。

  著者ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼンの
生い立ちや経歴については、本書の記述を参照して
いただきたいが、実際にブランデンブルク部隊の特
殊作戦を体験した人物による手記であり、貴重な史
料となっていることは敢えて強調するまでもなかろ
う。加えて、ソ連の収容所や監獄、脱走の試みなど
の描写は、やはり得がたい証言と評価できる。

  さりながら、著者クリスティアンゼンには、自
身の数奇な前半生を世間に公開する気はなく、当初
は家族のために伝え残すという目的で、この手記を
したためたという。それが、軍事史研究に携わり、
多くの元国防軍将兵の手記や回想録を刊行していた
編者ルドルフ・キンツィンガー(元連邦国防軍〔ブ
ンデスヴェーア〕将校で、本職は技師である)の眼
にとまり、オンデマンドの限られたかたちながら、
出版されることになったのである。

  ところが、そうした、いわばマイナーな形態で
公表されたにもかかわらず、二〇一〇年に上梓され
るや、本書は大きな評判となり、軍人や戦史の専門
家のみならず、一般読者にまで注目された。たとえ
ば、ドイツ・アマゾンで本書のページをみると、実
に四一もの評価がついており、そのほとんどが五つ
星を与えている(二〇二一年一二月一九日閲覧)。

  監訳者も数年前に本書の原書を一読、深い感銘
を受けた。単にブランデンブルク隊員による手記で
あるというだけでなく、ナチズムと戦争の時代を生
きた「普通の」若者の率直な心の動きが活写されて
いると思われたからである。

  昨今の歴史研究では、日記や手紙、手記といっ
た「エゴ・ドキュメント」を活用した分析が脚光を
浴びている。その意味では、本書も重要な「エゴ・
ドキュメント」とみなすことができよう。

  以後、本書を出版できないかと考えていたが、
すでに多数の「筆債」を抱えた身であり、自分で訳
すことは難しい。そこに、並木均氏という訳者を得、
また並木書房編集部の賛同を得て、ようやく刊行に
こぎつけた。

  もしも、本書に接した読者が、監訳者同様の感
銘を覚え、戦争と人間を考える一助としてくださる
のであれば、これ以上の歓びはない。

 追記。二〇二二年二月二四日、ロシアがウクライ
ナに侵攻し、本書の舞台となったキエフ(キーウ)
北方の地は再び戦場と化した。不幸なことではある
が、本書におけるプリピャチ湿地の戦闘やウクライ
ナ人のロシア人に対する感情などの描写はアクチュ
アルな意味を持つことになってしまった。

  本書が一日も早く「歴史書」に戻ることを祈り
つつ、後世のために、この邦訳が刊行された時期の
状況を付記しておく。

————————————-

いかがでしょうか?

それではこの歴史的史料の内容を見ていきましょう。

—————————-

◆目次

〈監訳者のことば〉
大戦を生き抜いた若者の記録(大木 毅)1

はじめに 9
1 運命の決断 11
2 対パルチザン作戦 20
3 ヴィテプスクをめぐる戦い 34
4 泥濘の主陣地の中で 58
5 湿地帯からイタリアへ 82
6 将校選抜課程 92
7 ヴィシャウでの士官教育 96
8 少尉として部隊に復帰 101
9 降伏の混乱 104
10 ソ連の捕虜に 108
11 ソ連の収容所 113
12 矯正労働二五年の有罪判決 131
13 脱走の準備 147
14 脱 走 153
15 再逮捕 161
16 二度目の有罪判決 172
17 ノヴォ=チェルカスクの刑務所へ 187
18 帰 郷 204
編集者による結び 213
付録1 参考・推奨文献 215
付録2 著者履歴 216
付録3 本書に登場する場所について(時系列順)
218
付録4 第90歩兵補充大隊(自動車化)228
付録5 特殊部隊「ブランデンブルク」(1939
年から)「ブランデンブルク」師団(1943年4
月1日から)230
付録6 特殊部隊「ブランデンブルク」装甲擲弾兵
師団 234
付録7 「シル」部隊(遊撃隊)237
訳者あとがき(並木 均)240

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軍事ファンや戦史ファンのあなたなら、
決して外せない一冊だということは、
ここまでご覧になればおわかりと思います。

このGWのお供にぜひおススメしたい一冊です。



『ブランデンブルク隊員の手記─出征・戦争・捕虜
生活─』
ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼン著/大木毅
監訳/並木均訳
四六判244ページ(上製)定価2400円+税
発行日 :2022.3
定価 ¥2400+税
発行:並木書房
https://amzn.to/3NQ1Xwa

エンリケ

追伸

さいごに、並木均さんの手になる「訳者あとがき」を
どうぞ。

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 第二次世界大戦中のドイツ軍人による手記は、本
邦においてもこれまで多数が翻訳出版されてきたが
、本書は具体的な活動がほとんど知られることのな
かった特殊部隊「ブランデンブルク」の元隊員によ
る回想録であり、その意味においても極めて稀有な
ものである。

  本書の構成は二つに大別される。前半はブラン
デンブルク隊員としての記述であり、同部隊の特性
やソ連における対パルチザン活動、不快極まる湿地
帯での作戦行動、イタリア山岳地帯での活動などが
本人の戦時中の日記などを基に活写されている。
  一方、後半においては、ブランデンブルク隊員

であったことから「戦犯」として一〇年の長きにわ
たってソ連各地の労働収容所や刑務所に収監された
体験が記されている。その中には、収容所からの脱
走の試みや「エース」戦闘機パイロットのエーリヒ・
ハルトマンとの交流、収容所で出会った日本人捕虜
についての描写などもあり、実に興味深い。

  戦後もすでに七六年が経過し、当時の兵士たち
の最後の生存者も次々と鬼籍に入る現状からすれば、
彼らの肉声を聞ける機会は今が最後となろうし、本
書がそうした当事者の証言をまとめた貴重な一冊で
あることに間違いはなかろう。

  ちなみに、著者ヒンリヒ=ボーイ・クリスティ
アンゼンは無名の人物だが、晩年にインタビューを
受けた折の映像がYouTubeで視聴可能なので

、ご興味のある方はご覧いただきたい(Hinri
ch-Boy Christiansenで検索のこと)。(以下略)
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『ブランデンブルク隊員の手記─出征・戦争・捕虜
生活─』
ヒンリヒ=ボーイ・クリスティアンゼン著/大木毅
監訳/並木均訳
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発行:並木書房
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