【本の紹介】『中国の航空エンジン開発史 中国は戦闘機用エンジンを国内開発できるか?』榊純一 著

おはようございます、エンリケです。

ご存じですか?

機体とエンジンの双方を自国で開発し、量産化でき
た国は米英仏露の四か国しかないことを。

ロケットやミサイルの独自開発ができる国は多いで
すが、航空エンジンを自国開発できる国は限られて
いるのです。

機体のみを開発できる国は前述4か国より増えます
が、エンジンの自国開発、ライセンス製造ができる
か否かはその国の航空産業の技術レベルを計るバロ
メータとなります。
イスラエルの「ラビ」が開発中止に追い込まれたり、
わが「F-2」が日米共同開発になった理由は「エン
ジンを用意できなかったから」です。

なぜそうなのか?
ひとことでいえば「航空エンジンに求められる「作
動時間の長さに必要な耐久性」の要求がきわめて厳
しいものだから」です。

ちなみにわが国は、2016年4月に、機体、エンジン
とも国内開発した「X-2」(先進技術実証機:
Advanced Technological Demonstrator-X= ATD-X)
の初飛行に成功してますが、これはあくまでも試作
機で現時点で量産の計画はありません。

この本は、
中共におけるエンジン開発はいかなる形で行われて
きたか?を、IHI(石川島播磨重工)でエンジニア
としてエンジン開発に携わった著者が記した基礎資
料です。

榊 純一(さかき・じゅんいち)
1954年生まれ。東北大学大学院工学研究科修了。
80年石川島播磨重工業(現IHI)入社。航空エンジ
ンや車両用過給機(ターボチャージャー)の事業に
従事。同社常務執行役員を経て、2021年退職。共著
書に『中国空軍』、『中国の核ミサイル・宇宙戦力』、
『中国軍事用語辞典』、『中国の軍事力-2020年の
将来予測-』など

『中国の航空エンジン開発史 中国は戦闘機用エン
ジンを国内開発できるか?』
榊純一 著
四六判160ページ 
定価1800円+税
発行日 :2022.04
本体価格 ¥1800
発行:並木書房
https://amzn.to/3uRcnTm

中共の軍事科学技術発展史として見ても意義大きい
内容、といって差し支えありません。

中共のエンジン自主開発能力はいかなるレベルにあ
るのか?
をつかむうえで必須の資料といえ、エンジン技術の
キモとなる部分を理解できる手引書にもなっていま
す。

まずは
中共軍事研究の第一人者。
元陸将補・拓大名誉教授、茅原郁生先生の
推薦のことばをご覧ください。

—————————
推薦の辞

・・・中国空軍機はロシア航空技術の系統にあるが、
その独自開発能力には限界や課題を抱えている。
特に戦闘機エンジンの開発では後れをとっている。
・・・本書は、石川島播磨重工業(現IHI)でジェッ
トエンジン開発の陣頭に立ってこられた専門技術者
である榊純一氏が、長年観察されてきた「中国のジ
ェットエンジン開発」の歴史をまとめたものである。
本書は、単に中国の脅威をあおるのではなく、中国
エンジン開発の実態を客観的に分析している点でほ
かに類書がない。

(拓殖大学名誉教授 茅原郁生)

—————————

専門家はもちろん、
一般人で、わが脅威に対抗できる安保国防を成し遂
げたい思いを持つ日本人に読んでほしい内容です

何よりうれしいのは、高度な専門性とクオリティの
高さを兼ね備えたインテリジェンス資料であるにも
かかわらず、片手でつかんで持ち運べるコンパクト
なところ。

なんとページ数はたった160頁!! です。

これだけの内容をこれだけコンパクトに作り上げた
版元の力にわが国の知的活力の基盤を感じています。

それではこの、インテリジェンスブックの内容を見
ていきましょう。

——————————–

目 次

推薦の辞(茅原郁生)1
はじめに(榊 純一)3

第1章 国産エンジン開発に苦しむ中国 15
 ボーイングB707を手本に国産旅客機開発 15
  開発計画は挫折の連続 18
  中国独自のARJ21計画 20
  中国の軍用機開発 23
  まとめ 25

第2章 各国のジェットエンジン開発 27
  ジェットエンジンの基礎知識 27
  ドイツのジェットエンジン開発 30
  イギリスのジェットエンジン開発 32
  アメリカのジェットエンジン開発 35
  日本のジェットエンジン開発 36

第3章 ジェットエンジンが中国に渡るまで 39
  第2次世界大戦前後の英ソ関係 39
  ソ連におけるジェットエンジン開発 42

第4章 中国ジェットエンジン開発の始まり 44
  建国当時のガスタービンの研究事情 44
  中国空軍の創設と戦力整備 46
  ゼロから始まったジェット機開発 48

第5章 呉大観─中国航空エンジン開発の先駆者 52
  新中国の建国まで(1916~49年)53
  新中国の誕生と航空工業の確立(1949~61年)55
  文化大革命と不遇の時期(1961~75年)58
  イギリス製エンジンの国産化(1976年以降)61
  党員および教育者としての呉大観 64
  研究・開発に対する呉大観のアプローチ 65

第6章 中国のジェットエンジン開発史 68
  ターボジェットエンジン(1)渦噴5 68
  ターボジェットエンジン(2)渦噴6 70
  ターボジェットエンジン(3)渦噴7(マッハ2の
  戦闘機用エンジン開発)74
  ターボジェットエンジン(4)渦噴8(大推力エン
   ジンの開発)76
  ターボジェットエンジン(5)渦噴11 78
  ターボジェットエンジン(6)渦噴13 78
  ターボファンエンジン(1)渦扇5 81
  ターボファンエンジン(2)渦扇6 82
  ターボファンエンジン(3)渦扇8 84
  ターボファンエンジン(4)渦扇9 85
  ターボファンエンジン(5)渦扇10 87
  ターボファンエンジン(6)渦扇11 88
  ターボファンエンジン(7)渦扇13 89
  その他のターボファンエンジン開発計画 90
  ターボプロップエンジン(1)渦しょう(將の下に
  木)5 91
  ターボプロップエンジン(2)渦しょう(將の下に
  木)6 92
  ターボプロップエンジン(3)渦しょう(將の下に
  木)9 93
  ターボシャフトエンジン(1)渦軸5 94
  ターボシャフトエンジン(2)渦軸6 94
  ターボシャフトエンジン(3)渦軸8 95
  渦扇10甲ターボファンエンジンに見る技術レベル 96
  中国の技術獲得とアメリカの懸念 99

第7章 中国航空産業の歴史 103
 核・ミサイル開発との対比 103
「四つの近代化」以前 107
「改革・開放」以降 110
  21世紀の近代化計画 114

第8章 ジェットエンジン研究体制の拡充 116
  研究開発の概要 116
  近代化のための研究開発体制と製造設備の状況 118
  ジェットエンジンに関係する主要な研究機関 122
  ジェットエンジンの開発体制 125
  ジェットエンジン開発体制の再編 126

第9章 ジェットエンジンの技術レベルと今後の展望 129
 ジェットエンジンの技術レベル 129
「中国製造2025」に見る航空エンジンの位置付け 134
「中国製造2025」に対する米国の反応 136
  技術導入(1)ヨーロッパ 138
  技術導入(2)ウクライナとロシア 140
  技術導入(3)イスラエルほか 142
  技術導入(4)軍民転換 143
  リバース・エンジニアリングとアメリカの禁輸
  措置の影響 147
  リバース・エンジニアリングの“ハードル”148
  総括──中国の前に立ちはだかる“壁”151

参考文献 154
おわりに 157

——————————–

個人的に思ったのは、本著レベルまでテーマを絞っ
た、同じくらいのサイズのコンパクトな啓蒙書を、
シリーズもので刊行してほしいなあ、ということ。

「中国のエンジン開発史」「ソ連の軍艦開発史」
「朝鮮のミサイル開発史」「インドの核武装史」
「昭和20年代の中国インテリジェンス」「ロシア
の軍用車輛開発史」などなど

イメージとしては、オスプレイ社のシリーズもの。
わが周辺に限った細切れのテーマごとに、本書レベ
ルの薄くて小さな本をたくさん出してほしいです。
それほど本書のサイズに惚れています。

本書は、
エンジニアや専門家、研究者はもちろん、航空ファ
ンやインテリジェンスファンにも必携のインテリジ
ェンスブックといえます。

とくに、1956年にはじめてジェットエンジンを
国内で組み立てて以降、約60年にわたる中共の航
空エンジン開発の歴史を振り返った内容は、他に類
書がありません。

わが安保国防にとってきわめて大きな価値を持つも
のと感じます。

心からおススメします。

『中国の航空エンジン開発史 中国は戦闘機用エン
ジンを国内開発できるか?』
榊純一 著
四六判160ページ 
定価1800円+税
発行日 :2022.04
本体価格 ¥1800
発行:並木書房
https://amzn.to/3uRcnTm

エンリケ

追伸

航空宇宙における中国の発展は目覚ましいといって
いいでしょう。

宇宙関連では米ロに次いで有人宇宙船を打ち上げ、
航空関連でも第4、第5世代の新鋭戦闘機を多数
保有するアジア最大の空軍に成長しました。

しかし、機体もエンジンも大半はロシア製をコピー
あるいはライセンス生産したもの。国産開発した民
間旅客機のエンジンも欧米製で、中国にとって航空
エンジンの開発は唯一の弱点といえます。

国内で初めてエンジンを組み立てた1956年以降
、現在に至るまで、公開資料をもとに約60年に及ぶ
ジェットエンジン開発の歴史を明らかにした本であ
る本著。心からおススメします。

『中国の航空エンジン開発史 中国は戦闘機用エン
ジンを国内開発できるか?』
榊純一 著
四六判160ページ 
定価1800円+税
発行日 :2022.04
本体価格 ¥1800
発行:並木書房
https://amzn.to/3uRcnTm