防衛省の組織改革のこと

石破防衛相が非常に大胆な省内改革案を提案し、防衛省改革会議は中間答申を見
送りました。彼の案によれば陸海空幕を廃止して内局と一本化し、政策、運用、
後方の三つの局にガラガラポンするという大胆な案です。
おそらく彼のイメージには三軍の統合の先に三軍種の合併、単一軍化があったの
ではないでしょうか。否、文官を含めた四種の合体かも知れません。

彼は軍事オタクだとの誹謗もありますが、私はそうは思いません。普通の政治家
や一般国民に比べてはるかに豊富な軍事知識を持っておられると感じています。
しかし、この件に関しては統合の意味と意義の両方を誤解しているか、軽視して
いるのではないか、と危惧しています。
統合の意味は「異なる軍種が単一指揮官の指揮下に、一つの軍事目的に向かって
作戦する」ことですし、その意義は「異なる軍種が自己の得意な分野でそれぞれ
の役割分担を果たす」ことです。
つまり、先の大戦中に陸軍が輸送潜水艦や航空母艦もどきを持ったり、海軍の陸
戦隊が肥大化したりしたような愚を省き、陸海空軍がそれぞれの特性を最大限に
発揮して国家目的の達成に寄与することが求められているわけです。
当然ながら、各軍種相互の理解が十分に進む必要がありますし、用語や情報通信
等の軍事インフラの仕組みも出来るだけ共通化する必要があります。
しかし、それは三軍の一本化ではないのです。陸海空三軍は長い戦争の歴史を経
て血を流して得た経験を積み重ね、その機能が最大発揮できるよう特色のある専
門技術、思考、価値観、伝統、慣習等が独自の発展を遂げて今日に至っています。
そして、それ等の特性を生かすことが戦力の最大発揮に繋がっているのです。
一例を挙げましょう。
陸軍では「最後の五分間」をとても強調します。陸戦の勝敗は「下駄を履くまで
分からない。最後の五分間が最も重要。」ということです。実際に最後の五分間
で形勢が逆転したケースが幾らでもあるからです。
一方海軍では逆に「最初の五分間」を最も重視します。海戦は帆船の時代から現
代まで組織対組織、システム対システムの戦いで、それはダメージを受け易く、
回復には多大の時間と困難を伴います。したがって、早くダメージを受けた側の
戦闘力は激減し、緒戦を制した側はますます有利に戦える、という特性がありま
す。
空軍が更に早い「最初の5秒間」が求められるのも、弾道ミサイル防御で世間に
知られるようになりました。ことほど左様に各軍の特質は大きく異なるのです。
そしてこれらの事情は一局面の戦闘でも長期の軍事作戦でも同様です。
また、作戦の時間的スケールも大きく異なります。
俗に「空軍は秒の」「陸軍は日の」「海軍は年の」戦いをする、とか言われます。
このようにそれぞれの軍種には大きく異なる特質があり、それが活かされてこそ
精強な統合作戦が可能になります。
各幕僚監部は「いざ鎌倉」に備えて、教育、訓練、整備、造修をとおして人や物
をベストに準備し、必要に応じて統合部隊に提供することが役目です。
ゆめゆめ、各軍の特色を潰してアブハチ取らずにするようなことがあってはなり
ません。
「一度潰れた軍の再建には百年かかる」と言われており、旧軍以来の先輩達は自
衛隊の再建にたいへんな苦労をしました。陸海空自衛隊の実戦軍としての再建は
まだ緒に就いたばかりです。
改めるものと残すべきものの選択を誤ってはなりません。
以上、ヨーソロの管見でした。
(ヨーソロ)
【080225配信 メールマガジン「軍事情報」(最新軍事情報)より】