【桜林美佐の「美佐日記」(207)】「基盤的防衛力構想」は先人の知恵    桜林美佐(防衛問題研究家)

2023年2月28日

きわめて重要な内容なので、広く日本国民に知ってほしいです。
特別に公開します。

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2023年2月27日(月) 8:09

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桜林美佐の「美佐日記」(207)

「基盤的防衛力構想」は先人の知恵

桜林美佐(防衛問題研究家)

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おはようございます。桜林です。「男もすなる日記
といふものを、女もしてみむとてするなり」の『土
佐日記』ならぬ『美佐日記』、207回目となりま
す。

 とうとうロシアによるウクライナへの軍事侵攻が
始まって1年が過ぎました。トルコ・シリアの大地
震で亡くなった人は現時点で4万7000人にまで
増え、コロナ発生以降の世界はどれほどの生命を失
ったのかと考えると暗澹たる気持ちになります。

 すでに他界した私の父親は占いをしていて202
3年をピークに世界人口の多くがいなくなるという
予言?めいたことをよく言っていました。私は全く
聞く耳を持っていませんでしたが、どうも当たって
しまっているようで複雑な心境です。もうこのあた
りで悲しみを止めて下さいと祈るばかりです。

 自分の父親のサイキックパワーにも驚きますが、
もっと驚かされるのは日本のニュースです。

「パンダのシャンシャンが中国に帰国」ということ
で、上野動物園に駆けつけた人たちが涙ながらにイ
ンタビューに応じたり、パンダ模様の服の人たちが
映し出されているではありませんか。

 いえ、これも立派なニュースなので、報じるのは
いいのですが、パンダにまつわる人々の思い出とか
パンダへの思いとか長々と流す必要があるのか?!
と。

 都が中国側に支払う「レンタル料」はパンダ2頭
につき年間1億600万円で、子どもが生まれたら
年間6700万円を支払うのだそうです。言うまで
もなく都民の税金です。

 よく総合火力演習の日は「〇億円の弾薬を使用し
た」などと報じられますが、それならばパンダ様に
消費した税金もちゃんと伝えて欲しいものです。

 日本に初めて中国のパンダ「ランラン」「カンカ
ン」が来たのは1972年のことです。祖父母が上
野動物園にも連れて行ってくれました。

 そしてその4年後の1976年、当時の防衛庁・
自衛隊にもある画期的な出来事がありました。わが
国初の「防衛大綱」が閣議決定されたのです。

 初めてのパンダ、そして初めての防衛大綱、70
年代という時代の特徴がこうした事々に見て取れる
気がします。

その初大綱の中で打ち出されたのが「基盤的防衛力
構想」です。

 改めてご説明しますと「基盤的防衛力」とは、平
時は十分な警戒態勢をとり、限定的かつ小規模な侵
略にも対処することができ、情勢の変化に応じて新
たな態勢に円滑に移行し得る防衛力を意味していま
した。

 三木内閣によるもので、経済成長著しい日本に警
戒感を持つ諸外国に対し、自らが力の真空となって
地域を不安化させないための「必要最小限度」の防
衛力を整備するという方針です。

 最近気になるのは、今回の3文書決定にあたり、
この「基盤的防衛力構想」の悪口?のような評価を
耳にすることが少なからずあったことです。

 もちろん、安全保障環境が劇的に変化している現
実を無視してこれを事実上継続させてしまったこと
は問題があると思いますが、そのうちに自衛隊関係
者にも「こんなもの」といった拙劣な施策であった
かのような言い方をする人が出てきたのは心外です。

 「基盤的防衛力」が生まれた頃はデタント(米ソ
冷戦の緊張緩和)の時代でした。

脅威がないという前提でありながら、防衛力を維持
していくこと、国民の理解を得ることが、どれほど
大変だったか。

「必要最小限」の防衛力にとどめ、必要となればエ
クスパンド(拡大)させるという考え方は当時とし
て最適な答えだったのではないでしょうか。

 そして、過去の関係者たちは将来困らないように、
なんとかギリギリのところで防衛力整備をしてき
たのではないでしょうか。

 こうした時代でありながら、将来に防衛力を強化
できる「余地を残す」という意味では、今以上に知
恵を使い、深く考えられたものだったと思います。

 自衛隊の存在そのものが現在よりはるかに厳しい
環境にあった過去の関係者たちに私たちは本来、足
を向けて寝られないと言っていいのではないでしょ
うか。

 「脅威対抗型」への転換は、プーチンや習近平あ
るいは金正恩がこれを先導してくれたのです。

 そして今一度、上野動物園の映像を見て下さい。
パンダに熱狂する人々の姿は70年代と変わらず、
依然としてデタントのままです。

 私が前回の日記で「国民保護」を陸上自衛隊側か
ら声高に言い出すことに懸念を持ったのは、こうし
た世間との認識ギャップがあるからです。

 前回の話はどうもあまりピンとこない方が多かっ
たかもしれませんし、今の時代そんな消極的なこと
ではいけないとお叱りを受けるかもしれませんが、
これまで誠心誠意、力をふり絞って災害派遣に従事
してきた全ての自衛官の奉仕に報いるためにも「私
たちがあなたたちを守ります」といったある種の
「誤解」を招く表現に危険な響きを感じてしまうの
です。

 国の主権を守る有事対応と災害派遣を同時にこな
してくれるかのような期待感を持たせていいのかど
うか、ということでもあります。

 もう一つ、ついでに言わせて頂くと、よく陸上自
衛隊の部隊などで「精強化する」という言葉を聞き
ますが、存外、世の中の人々はピンときていません。

 これも繰り返しになり申し訳ありませんが、多く
の日本人にとって「陸軍種の力を抑えることは良い
こと」という感覚があります。これはマスコミでは
明らかです。防衛省内でもそうした考え方があると
言っていいかもしれません。

 予算査定でも「陸に勝たせない」状態にしておか
ないと、全てが上手くいかないのです。財務省でも
読売新聞でもそういう人は許されません。陸軍が強
い状態は日本にとっては禁忌です。

それをよく分かっていた人たちが、行間に含ませた
りして兵力を維持してきたからこそ今があるのでは
ないですか? 陸上自衛隊が力を持つ状態は様々な
勢力が潰しにかかります。だからこそ、そうならな
いように、常設統合司令部の設置についてもそうで
すが、細心の注意を払いながら、国を守る努力をし
なくてはならないと思うのです。

 う~ん、こんなことを書いても、分かってもらえ
ますかね・・・・。

 今週も最後まで読んで頂きありがとうございまし
た!皆様にとって素晴らしい1週間となりますよう
に!

<おしらせ>

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に苦労しているYouTube企画『Boei Cafe』慶応大学
教授で元内閣官房参与の谷口智彦さん、元国家安全
保障局次長の兼原信克さんに続き、最新版は松川る
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(さくらばやし・みさ)

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【著者紹介】
桜林美佐(さくらばやし・みさ)
昭和45年、東京生まれ。日本大学芸術学部卒。フ
リーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を
制作。その後、国防問題などを中心に取材・執筆。
著書に『奇跡の船「宗谷」─昭和を走り続けた海の
守り神』『海をひらく─知られざる掃海部隊』『誰
も語らなかった防衛産業[改訂版]』『武器輸出だ
けでは防衛産業は守れない』『防衛産業と自衛隊』
(いずれも並木書房)、『終わらないラブレター─
祖父母たちが語る「もうひとつの戦争体験」』(P
HP研究所)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産
経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸─星になった
小さな自衛隊員』(ワニブックス)。月刊「テーミ
ス」に『自衛隊密着ルポ』を連載中。新刊『誰も語
らなかったニッポンの防衛産業』(産経NF文庫)、
「陸海空 軍人から見たロシアのウクライナ侵攻」
(ワニブックス)

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