【本の紹介】『鷲の翼 F-15戦闘機─歴代イーグルドライバーの証言』 小峯隆生著(柿谷哲也・撮影)


『鷲の翼 F-15戦闘機─歴代イーグルドライバーの証言』
小峯隆生著(柿谷哲也・撮影)
四六判372ページ 
発行日 :2020.6
発行:並木書房
https://amzn.to/3JB9Ram

『蘇る翼 F-2戦闘機』『永遠の翼 F-4戦闘
機』に続く「翼」シリーズの第3弾です。

F‐15Jイーグルは、1980年代初頭から空自
に導入され、わが主力戦闘機として40年近くわが国
の空を守ってきました。航空防衛力のまさに一翼を
担ってきたといって差し支えない存在です。

基本設計の優秀さと電子機器や搭載装備の近代化に
より、いまもトップクラスの実力を保有しています。

わが空を守って40年。
F‐35が増強され主力の座につくまでは、これから
も”荒鷲”F‐15の時代がまだまだ続くのです!

そんなF-15の物語を、著者の小峯さんが、新田原基
地の飛行教育隊をはじめ第305飛行隊、小松基地
のウェポンスクール、アグレッサー部隊まで、現役
の「イーグルドライバー」への現地取材をとおして
まとめあげたのがこの作品。

空自F‐15の軌跡と、ステルス時代の空戦の実相に
迫っています。

それだけではありません。
〝鷲神〟と呼ばれる空中戦の達人らの証言も収録さ
れているんです!

著者の小峯さんはこうおっしゃいます。

———————————-
本書では「イーグルドライバー」と呼ばれる現役の
パイロット、退官した元パイロットたちへのインタ
ビューや談話、F‐15を運用する飛行隊の姿をと
おして、日本の空を守るF‐15戦闘機の軌跡、現
在、そして将来の展望を解き明かしていきたい。
  そこで、F‐15の導入から戦力化に至る過程
で大きな役割を果たし、その後もF‐15によって
切り開かれた新しい空中戦のパイオニアとして活躍
した二人の戦闘機パイロットの話から始めよう。
  その二人とは、森垣英佐元1等空佐(75歳、
取材時。以下同じ)と西垣義治元1等空佐(72歳
)である。彼らはその強烈な個性と秀でた能力によ
って、空自のF‐15運用の歴史に大きな足跡を残
している。彼らを知るイーグルドライバーたちの中
では真の戦闘機操縦者の範として畏敬の念を込めて
〝鷲神〟と呼ぶ者もいる。
  二人がなぜ〝神〟たり得たのか? それはとり
もなおさず空中戦での圧倒的な強さだった。
(本文より)
———————————–

読んでよくわかるのは、真のエリート中のエリート
しか登場しないこと、そういう人にしかできないこ
とが取り上げられていることです。

雲の上の出来事、話ばかりです。

真似できる一般人はいませんし、読んで日常生活に
活かせることもありません。

でもまあ、
空軍戦闘機、戦闘機パイロットというのは基本的に
一般人が「見上げる」しかできない存在ですね。

一般の方は、

人にここまでできるのか!
日本にもこういう人がいるんだ!

という驚きを味わえ、

航空ファンや空軍ファンは、

空中戦、トレーニング、整備、指揮統制、
航空機技術、わが防空の理解に資するところ大きい
でしょう。

とくに、戦闘機パイロット志望の若者には必読の書
です。

それではF-15ストーリーの内容を見ていきまし
ょう。

—————————
◆はじめに(一部)

 空中戦で迅速、確実に敵機を撃墜できる戦闘機パ
イロットとは、サッカーにたとえれば、得点を挙げ
るセンターフォワードと、チャンスを作り、同時に
防御もするミッドフィルダーの役割を同時にこなす
ようなものなのだろうか?
「それといっしょです。戦闘機パイロットでサッカ
ーをやっている者は多くいます。空中戦のテクニッ
クにつながる部分がありますからね」
  筆者はこれまでの取材の中で、同じ話を聞いた
ことがある。
  サッカー元日本代表メンバーでイタリアのセリ
エAで活躍した中田英寿選手に取材した時だ。中田
選手はキラーパスで有名だ。ここぞという一点にボ
ールを蹴り出して、得点につなげる。それがどうし
てできるかというと、ゴール前の敵味方の動きと位
置関係を瞬時に見極める。同時に1秒後、2秒後、
3秒後の動きと位置も予測する。そこでゴールを狙
える一点にキラーパスを送るという。
  同じような話は、名著『大空のサムライ』の著
者で太平洋戦争中、零戦のエースパイロットだった
坂井三郎氏にインタビューした時にも聞いた。
「空戦域をさーっと見渡して、敵味方機が入り乱れ
ている。その中で早く撃墜できる敵機の順番を見い
だして、その一点に零戦を突っ込ませる」と坂井氏
は言っていた。サッカーと空中戦は異なるが、その
やり方は中田選手と同じだった。(中略)
  イーグルドライバーから見て〝神〟と呼べるよ
うなパイロットは何がちがうのでしょうか?
「一度でも、いっしょに飛んで動きを見ればわかり
ます。無線を通じて『オイ、なにやってんだ、右、
ちょい、左』とか『こら、遅い』などと、敵機や僚
機を見て、どのように戦闘を展開するか、敵機へど
う対処するか、指示を的確に出すレベルがちがいま
す。質の高いアドバイスが瞬時にできるんです。敵
味方、すべてを見ているからこそできる。大半の者
は見えていても判断ができないから、指示やアドバ
イスが出せない。だから、そのような指導ぶりを見
ると、パイロットならば『むっ、見てる、できる』
と思うわけですよ。これを訓練で何度か経験すると
尊敬するようになります。1回でも指導されたら、
レベルの違いがわかる世界なんです。ところが、新
米のパイロットは、それがすぐにはわからない。2
、3年経ってくると『あっ、あの時、こういう指導
をしていた。見えていたんだ。わかっていたんだ』
となる。すると『あの人は凄かったなー』と実感す
るわけです」
  空中戦とサッカーの共通点に注目したが、こう
なると、1960年代のハリウッドやイタリア製西
部劇映画に登場するような名人のガンマンと新人の
ガンマンの拳銃射撃修行に似ている。イーグルトラ
イバーは、さながら〝空飛ぶガンマン〟といえるか
も知れない。
〝鷲神〟と呼ばれる元イーグルトライバーに会う前
に、現在の新人イーグルドライバーがどう育てられ
ているのか、〝ヒナ鷲〟たちが翼を広げ、大空に羽
ばたこうとしている姿から取材を始めた。
—————————-

◆目次

—————————

はじめに

〝鷲神〟と呼ばれたパイロット/空中戦の様相

第1章 空飛ぶ教室──飛行教育航空隊第23飛行
隊(新田原基地)

F‐15のふるさと/飛行隊の朝/F‐15発進/
指導者の喜び/変えてはいけないもの/戦闘機乗り
に求められる資質/戦闘機操縦者にゴールはない/
パイロット学生の原点/初めての飛行訓練の感動/
空飛ぶ教室/スランプを脱するには?/理想のパイ
ロット像/若きサムライの夢/F‐15のコックピ
ット/太田教官のファミリーヒストリー/その心は?/
諦めない心/柔よく剛を制す/原点回帰/一人ひと
りに合った教育を/ラガーマン/〝父子鷹〟戦闘機
乗り/感謝の気持ちを持って/空中戦とは?

第2章 航空自衛隊とF‐15イーグル

最強戦闘機F‐15の誕生/各国のF‐15戦闘機/
日本のF‐15戦闘機/ストライク・イーグルへ
の発展/F‐15戦闘機の実戦/航空自衛隊へのF
‐15導入の経緯/最強戦闘機を選ばなければなら
ない理由/F‐14対F‐15/1年遅れたF‐1
5戦闘機の配備/最終調達数は213機

第3章 伝説のイーグルドライバー

〝15人の鷲侍〟/米国留学/性能抜群のF‐15/
F‐15の難点/「燃料漏れじゃないからOKだ」/
F‐15臨時飛行隊/第202飛行隊/北の守りの最
前線/F‐15対F‐104/新旧交代/戦闘能力点
検/飛行教導隊、謎の連敗続き/T‐2教導隊の強
さ/飛行教導隊の改革/T‐2からF‐15DJへ/
F‐15で変わった訓練方式/第202飛行隊の伝統/
2番機の人選/多忙な第202飛行隊/第202飛
行隊の教育訓練/空中戦訓練/全主力戦闘機に乗っ
た男/亜音速機から超音速機へ/複座戦闘機/パイ
ロットは新しもの好き/第202飛行隊

第4章 空中戦の極意──真剣勝負を制する

負けず嫌いのイーグルドライバー/〝名刀〟F‐15/
西垣隊長着任/部隊精強化の秘策/「コンバッ
ト・デパーチャー」の実践/硫黄島での実戦想定訓
練/「やるべきことはやる」/「ベリーサイドアタ
ック」/グリッド式エリアコントロール/飛行教導
隊の巡回教導/すでに地上で全機撃墜?/真剣勝負
の空中戦だった/西垣隊長が目指した日本一/戦技
研究チーム/支援戦闘機の護衛任務完遂/ミサイル
のミニマムレンジ実証研究/米海軍F‐14との対
戦/F‐14から再戦の申し込み/FA‐18との
対戦/強敵だった米空軍F‐15C/米海兵隊ハリ
アーとの対戦/最大の難敵はF‐104/空中戦の
極意/次世代の空中戦

第5章 防空の最前線──第305飛行隊(第5航
空団・新田原基地)

飛行隊始動/第305飛行隊発進/飛行隊の伝統/
タックネームは「009」/爽快感と緊張感/空中
戦で勝つには?/飛行隊長の役割/ミッション・ブ
リーフィング/パイロットへの道/ウイングマーク/
戦闘機操縦課程/第305飛行隊に着任/戦闘機
乗りの条件/さらなる目標/戦闘機パイロットにし
かできない仕事/継承される伝統/ウェポンスクー
ル/パイロットと兵器管制官/第305飛行隊に緊
張走る!/RF‐4飛来/中国艦隊の出現

第6章 ウェポンスクール──第306飛行隊(第
6航空団・小松基地)

小松基地/タックネーム「備前」の由来/第306
飛行隊/ウェポンスクール教官に聞く/空中戦訓練
の方法/空中戦の極意/最新装備がもたらすもの/
ウェポンスクールVS飛行教導群/本来の訓練目的/
第306飛行隊長室/航空優勢

第7章 アグレッサー飛行隊──航空戦術教導団
(小松基地)

飛行教導群/赤い星/ファントムライダー出身/教
導資格/F‐15を活かすには?/父子二代の「ア
グレッサー」/教育効果の重視/空中戦に白旗なし/
未来の空戦とは?/戦闘機との出会い/部隊統率/
巡回教導/F‐15と将来の航空戦/強さの源泉/
F‐15の役割

おわりに──明日のパイロットたちへ 

教訓を学ぶ/パイロットを目指す若者へ

—————————-

◆著者略歴
小峯隆生(こみね・たかお)
1959年神戸市生まれ。2001年9月から週刊「プレイ
ボーイ」の軍事班記者として活動。軍事技術、軍事
史に精通し、各国特殊部隊の徹底的な研究をしてい
る。著書は『新軍事学入門』(飛鳥新社)『蘇る翼
F-2B─津波被災からの復活』『永遠の翼F-4フ
ァントム』(並木書房)ほか多数。日本映画監督協
会会員。日本推理作家協会会員。筑波大学非常勤講
師、同志社大学嘱託講師。

◆カメラマン略歴
柿谷哲也(かきたに・てつや)
1966年横浜市生まれ。1990年から航空機使用事業で
航空写真担当。1997年から各国軍を取材するフリー
ランスの写真記者・航空写真家。撮影飛行時間約30
00時間。著書は『知られざる空母の秘密』(SBクリ
エイティブ)ほか多数。日本航空写真家協会会員。
日本航空ジャーナリスト協会会員。

本の役目の1つに、

「時空を超えて記録を伝えること」

があると考えます。

特に今の我が国(戦後日本)で出版される
「誠実な」軍事系書籍は非常に重要ではないでしょ
うか?

後世に生きる後輩たちが、国防や安保に関心を持っ
た時、今わたしたちが生きているこの時代の安保国
防軍事を振り返るよすがになる「素材」になるから
です。

あの時代の戦闘機はどんな感じだったのか?
あの時代の一般人は、戦闘機にどんなレベルの関心
と理解を持っていたのだろうか?・・・

後世に生きる後輩たちにこそ、
この本を残したい。

そんな意義を持つ本でもある、と感じました。

三冊目となる「翼」。
わが戦闘機の歴史理解に厚みを加えてくれるシリーズですね。
これからも継続してほしいです。

おススメです。

今回ご紹介したのは、


『鷲の翼 F-15戦闘機─歴代イーグルドライバーの証言』
小峯隆生著(柿谷哲也・撮影)
四六判372ページ 
発行日 :2020.6
発行:並木書房
https://amzn.to/3JB9Ram

でした。

エンリケ

追伸

とくにいまは、F-Xが動き始める端緒点にあります。
その意味からも、わが現有航空戦力に対する深い理解を
主権者として持つ必要があると思いますね。

小峯さんの「翼」シリーズ残り2冊
『蘇る翼 F-2B』
『永遠の翼 F-4ファントム』

と、

先日ご紹介した
『次期戦闘機開発をいかに成功させるか』
森本敏 (著), 岩崎茂 (著)

もあわせ読んだら、
わが航空戦力理解は立体的に深まるでしょうね。


『鷲の翼 F-15戦闘機─歴代イーグルドライバーの証言』
小峯隆生著(柿谷哲也・撮影)
四六判372ページ 
発行日 :2020.6
発行:並木書房
https://amzn.to/3JB9Ram