陸上総隊構想と方面隊廃止論から日本人が学ぶべきこと

2019年2月6日

100215配信 軍事情報420号より
0907時点で、次のような陸自の構想が新聞を通じて明らかになっています。(*c)
1.東部方面隊を廃止して陸上総隊を新設する。
1.首都防衛を担任する首都防衛集団(一師団を改編)と中央即応集団が総隊直轄部隊となる
1.東部方面隊の警備区は関東甲信越と静岡だが、首都防衛集団創設に伴い、北関東と信越を担任する十二旅団は東北方隷下に移る。
この構想のメリット
1.これまで五人の方面総監に分散していた地上作戦の指揮命令系統が陸上総隊司令官に一元化されることで、わが地上作戦の指揮効率が飛躍的に高まり、現代戦に適した運用ができるようになる
1.統幕長による三軍統合運用の支援機能が強化され、統幕の負担が減る
1.根本的変革であるにもかかわらず最小限のコストで行なえ、組織変化に伴うリスクも極めて低く、指揮運用機能の空白が生まれない
という点にあるようです。(*a)(*d)
方面隊・総監部は不要?
ただ、これに伴い「単なる中間機関となる方面隊・総監部は廃止すべきではないか?」という意見があるようですね。
わが師団、旅団は列国のそれとことなり、強力な独立作戦能力が与えられておらず、最小限のことしかできない編成となっています。そのため非常時には、方面隊が戦況を予測し、状況に応じた各種支援をしなければ作戦単位として機能できません。(*a)
それ以外にも、情報支援、兵站支援、各役所・関係機関との調整・連携・協力、戦力増派、警備、捕虜対応、治安機関との協力・調整、隊員募集、教育訓練、戦傷病者・戦死者の後送や治療、遺族援護、師団や旅団が出動した際に後方で発生するゲリラ攻撃への対処などなど、方面隊・方面総監部が果たす機能はきわめて大きいのです。(*a)(*d)(*g)
海外派遣陸自隊員家族の支援・援護を行なうのも各方面隊です。
方面隊が持つ行政任務
なかでも、方面隊が保有する「行政」任務が見落とされがちとの感を持ちます。
師団・旅団は純作戦部隊で、行政任務を課したら平時の訓練や非常時の作戦に専念できなくなります。また、出動した場合はその師団・旅団管区の警備と行政責任を継承する機関がなくなってしまうので、師団や旅団に行政任務を課すことは不可能なんですね。(*g)
外国でも同じです。(*g)
1.仏・独・伊の場合
陸上最高司令部を設け、軍・軍団を廃止したとされますが、仏・伊は師団・旅団を指揮する作戦司令部や集団司令部を、ドイツは隷下ではないものの3個のユーロ軍団、欧州連合緊急対処軍団、東北多国籍軍団を持っています。
1.韓国の場合
地上作戦司令部を設けていますが、軍・軍団はそのままです。
戦わないから不用。目に見えないから不用。という感覚で軍事や国防を見ることのないよう、お互い十分注意し、研鑚に励みたいものです。
【参考】
(a)森野軍事研究所 洗 堯「方面隊廃止論の愚 -陸上総隊創設は大歓迎だが-」 090819 経済界
(b)Wikipedia
http://tinyurl.com/ycf3nob
http://tinyurl.com/ybyu59x
http://tinyurl.com/ybeo8xv
(c)陸上総隊か方面隊か・・・陸自の新編成は折衷型に(090729 産経)
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090729/plc0907290130001-n1.htm
(d)佐藤正久オフィシャルページ
「統合運用の実効性確保のため改編を推進すべきだ(陸上総隊と方面総監部の併設が望ましい!)」
http://east.tegelog.jp/index.php?blogid=24&archive=2009-7-29
(e)木原稔公式サイト「陸上総隊の検討へ」
http://kiharaminoru.jp/modules/blog/2009/02/26/1360/
(f)田村重信 たむたむの自民党VS民主党
「自民党・防衛政策検討小委員会の提言(その4)」
http://tamtam.livedoor.biz/archives/51169910.html
(g)横地光明(全国防衛協会連合会相談役)「定員削減・配備変更は慎重に」
090401 防衛協会会報第106号 第2面<オピニオン>
http://www.ajda.jp/opinion(FY21-106).html
追伸
ちなみ2012年12月25日現在、陸上総隊構想はお蔵入り状態になっているようです。
「陸自は「災害派遣隊」を目指すのか」(産経 120401)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120401/plc12040112000012-n1.htm
追伸2
2013年5月16日、前年発足した二次安倍政権の下、自民党は新たな防衛計画大綱に関する提言に陸上総隊の新設を盛り込む方針を固めた。同年12月17日に閣議決定。中期防(平成26年度~平成30年度)において、「一部の方面総監部の機能を見直し、陸上総隊を新編する。その際、中央即応集団を廃止し、その隷下部隊を陸上総隊に編入する。」との記述がなされた。
2015年5月15日、3次安倍内閣で防衛省は、2017年度を目処に数百人規模の司令部を朝霞駐屯地に設置することを決定。2017年5月26日、陸上総隊創設などの改正自衛隊法が成立。中央即応集団は廃止。2018年3月27日に設置されることとなった。同年4月4日に隊旗が授与される。初代司令官は中央即応集団司令官の小林陸将【★★★】。
なおこの新編は、帝国陸軍創設以来最大のわが地上軍変革である。