地方協力本部の仕事(3)

人口が多い分、募集もしやすいと思える東京地本。実際、全国約1040万人の適齢者人口のうち、東京だけで10.5%を占めています。
人口密集地域であり募集対象者が集中、潜在的な価値が大きいのは確かですが、競合企業も多く認知度、関心が低いといった課題もあます。また少子化に伴う適齢者人口の減少も著しく、ここ数年の間に都内の適齢者は約10%、何と12万人も減少しました。これは全国の適齢者人口減少分の約1割に当たります。
進学率が高く、高校生の市場が狭いのも東京の特色です。就職者比率は全国が高校生:大学生=1:2であるのに対し、東京都はなんと1:17という驚くべき比率。それゆえに東京都の募集は大学生の就活への対応が不可欠となります。
東京に限らず、少子化、高学歴化は全国地本が抱える難題です。約20年前の全国の男子適齢者人口約900万人に対し、近年は約600万人と3分の1も減少しつつ、採用数は例年ほとんど変わりません。
高学歴化についても、ある面から見れば喜ばしいことかもしれませんが、地本側からすれば自衛官募集のメインターゲットである高校生から曹士を、大学生から幹部を生むという従来の常識が通用しなくなってしまいました。現在では自衛官候補生採用者の2割以上が大卒者なのです。
また、景気の動向と志願者数が逆相関関係にあるのも自衛官募集の大きな特色といえます。
景気がいいと民間企業の雇用が拡大するため、適齢者がそちらへ流れてしまいます。逆に不景気の場合は手堅い職業である自衛隊に人気が集中します。
ライバルは民間企業だけではなく、むしろ自衛隊にとって最大のライバルは、同じ公務員である消防と警察です。この中で最も人気なのは消防です。地方公務員なので転勤がないというのが人気で、次に警察、最後が自衛隊という順だそう。
自衛隊は、任期制自衛官の場合は公務員でありながら安定しない、幹部自衛官の場合は転勤が多いことが敬遠されるのだとか。
「自衛官になる」のではなく「公務員になる」のが目的の人にとっては、自衛隊は消防や警察より条件の悪い職場なのでしょう。なにせ入隊時に「事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め」と、要は「時と場合によっては国と国民のために死にます」と誓わされるのですから、「定年まで安泰だから公務員?」という考えの人が選ぶわけがありません。
しかも現在の自衛隊は冷戦時代のそれとは大きく様変わりしています。海外派遣もあり、災害派遣は絶えず、尖閣諸島への領海侵入といったわが国の主権を脅かす脅威への対処も日々講じなければなりません。公務員という言葉だけで気軽になれる職業ではないですね。数十年前ならば「衣食住ついて2年ごとに退職金がもらえるなら」と士長のままねばれるだけ在籍する自衛官も存在したかもしれませんが、今やそんな考えの自衛官は1任期でお払い箱でしょう。
ところで志願者の意識についてですが、東京地本が担当した全職種の志願者アンケートによると、志願のきっかけは2010年度に4分の1以下だった自主志願が、2012年度は約4割にまで増加しました。災害派遣の視認効果により、明確な意思を持った志願者が増加しているということでしょう。しかし志願者数自体は、東日本大震災後における災害派遣を契機に大きく増加したということはなく、顕著な変化は見られません。ただしこれは東京地本についての話で、他地域では震災後に志願者が激増した地域もあるそうです。
その反面、自衛隊の災害派遣活動をテレビで目にした親が「うちの子にあんなきつい仕事をさせたくない」と言うケースもあるとか。幹部自衛官になると転勤が多いことについても、本人ではなく親が「子どもが遠くに行くのは嫌」と言うことも少なくないそう。それぞれの家庭に事情はあるのでしょうが、本人の人生は本人に決定権があって欲しいものです。
このように、自衛隊の役割が増大しその活動がますます注目される陰で、全国の地本は厳しい募集環境への対応を強いられているのが現状です。
より確固たる募集体制を構築するためには、退職した自衛官の再就職について法令等を整備するなど、国が保障する仕組みが不可欠でしょう。自衛官は精強性を維持するため若年定年制や任期制といった制度下にあるせいで、とりわけ任期制士の募集は一般的な公務員と比較して不利となっているからです。自衛官候補生として入隊した場合、そこから選抜されて曹になれるのはせいぜい1割程度。任期満了で退職する残り9割へのフォローがなければ、採用辞退者の減少は望めません。
地本に対する厳しい声もあります。全国にこれほど多くの事務所を構える必要があるのか、募集は民間企業に委託すればいいではないか、というのです。しかし自衛官という特殊な職業を語るのに自衛官が最適であるように、自衛隊の役目や使命感を学生達に伝えるのに、自衛官達からなる地本以上に適した組織があるはずもありません。現在、自衛隊を支える隊員達の多くにとっても、地本が自衛隊へ通じる入口だったのですから。
最後にひとつ。いくつかの地本はホームページで自衛隊を紹介する漫画を掲載しているのですが、おすすめなのが岡山地本の『ジエイのお仕事』。ここまで笑わせながら自衛隊を紹介できるのは、地方ならではの強みかもしれません。読み物としても相当楽しめるので、ぜひご一読を。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)4月26日配信)