日の丸父さん(20)「新隊員の教育」 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

今回は「スキー競技大会」を舞台に、新隊員、つまり新兵の話です。本や映画などでは、旧軍の新兵教育はいじめや非人間的扱いなどが強調されてマイナスのイメージが強いのですが、自衛隊の新隊員教育は違います。
教官や先輩が手を挙げることはありませんし、悩みがあれば課業外でも相談にのります。部隊に配置されてからも仕事以外の健康面や生活面の細かい指導をしたり、再就職の面倒をみたりと手厚いサポートをします。まさに社会に出る前の準備教育といった感じです。
これらのことは高校や大学、また会社に入ってからもやっているよと言う人もいるでしょう。しかし自衛隊の場合、これにプラス安全保障や国防の意義について教育する時間があります。これは今の日本の教育に欠けている大切な部分であり、自衛隊がそれを補完しているような気がしてなりません。
自分も新隊員の教育を担当しながらこれが高校や大学の教育に組み込まれていたらといつも思っていました。
石原ヒロアキ「まんが館」を立ち上げました。 現役時代に頼まれて描いた4コマ漫画もアップしています。
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新隊員の教育

自衛隊を階級で大きく分けると、幹部、曹、士の3つになります。幹部と曹は定年が決まっていて、いわゆる正規雇用のようなものです。
士の場合は、陸が2年、海空が3年の任期制で、いわゆる契約社員みたいなものです。退職金もちゃんとでます。続けて自衛隊で働きたい場合は、希望によりさらに2〜3任期を基準として継続勤務が可能です。陸曹になりたいものは選抜試験を受けることになりますが、競争率は約10倍で狭き門です。試験は筆記試験のほか、面接や体力検定などがあります。
今は、採用試験に合格すると自衛官候補生になり、約3か月の基本教育を受けます。その後自衛官となり2士で部隊に配置になります。新隊員を受け取った連隊などは臨時に教育隊などを編成してさらに職種専門の教育を受けさせ、最終的に受け入れる中隊などの部隊に配置します。
昔はすぐに2士の階級が付き、新隊員前期教育、後期教育と呼んでいました。彼らは約半年間の教育を受けて部隊に入るわけですが、理想と現実の間で悩む者も少なくありません。教育期間中は時間がなく、スケジュールをこなすのに精いっぱいですが、部隊では単調な仕事が多く、いろいろ考えることが多いのでしょう。
私もかつて新隊員の教育を担当したことがあります。後期教育でしたが、途中、約半数が自衛隊をやめたいと言い出しました。理由は様々で、外出制限や規律に耐えられないとか、体力的についていけないとか、職場の雰囲気になじめないとかでした。
私は「もう少し頑張れ、一般の社会人だって同じだぞ、途中でやめたらどこにいっても中途半端なままで終わるぞ」と彼らを叱咤激励しながら全員を部隊に送り出した思い出があります。
不思議なもので、教育中一番元気がよく、成績も優秀だったものが中途退職してしまい、地味で成績も目立たなかったものが部隊で重宝され、任期満了まで自衛隊にいました。
新隊員にとっての本当の悩みは、やはり将来に対する不安ではないかと思います。任期満了後継続しても、いつまでもいられません。選抜試験も厳しく、再就職も自分に合った職が見つかるかどうかわかりません。自衛官の売りは規律正しさ、忍耐力・体力などがありますが、景気の動向に左右されがちです。
しかし自衛隊は就職援護にかなり力を入れていて、任期満了前にいろいろな資格を取らせたり、就職援護者も積極的に業者を回ったりしており、最近は自衛隊に対する理解ある業者も増えて、職がないということはまずありえないでしょう。
最近の新隊員は高学歴の者が多く、指導する側も大変です。職種によって差はありますが、本来高卒者を対象としているのに、半分が大卒で、なかには大学院卒がいる場合があります。
そもそも陸士は兵卒であり、職務のほとんどが単純作業です。明らかに能力が高くて、ほかに向いた職もあるだろうにという者がいます。私の後輩に旧帝大を卒業して、職がないからと新隊員で自衛隊に入った者がいます。さすがに上司から「きみは一般幹部候補生の試験を受けなさい」と指導され、幹部になり、今はCGSまで卒業して高級幹部になろうとしています。
このように新隊員の指導は難しいものがありますが、部隊では競技会というものがあり、単純作業の多い陸士でも、目標とかやりがいを見いだす者がいます。駆け足、銃剣道、スキーなど、部隊では様々な競技会があります。そのほか通信とか射撃とか戦技の競技会もあり、自分の得意な分野で活躍する陸士も大勢います。
自衛隊は幹部や曹だけでは動きません。士がどうしても必要です。これから若者人口が少なくなるなかで、士の確保はますます難しくなるでしょう。最近女性自衛官の職域が広くなったことが話題になりましたが、今後は士の在り方も合わせて考えていく必要があるのではないでしょうか。
(いしはら・ひろあき)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
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