与那国駐屯地と沿岸監視隊(4)

今週も与那国駐屯地と沿岸監視隊の紹介です。
与那国島内では実射訓練が行なえないため、駐屯地内にはジックス訓練場と呼ばれる光線銃を使った訓練施設があります。
この訓練所に設置されている戦闘射撃訓練シミュレーターは、隊員各自の射撃訓練もちろん、テロや武力攻撃事態といった有事の際、部隊として組織的な射撃訓練ができるように設定されています。訓練できる火器は小銃、機関銃、84mm無反動砲、個人携帯対戦車弾。特に小銃、機関銃については実弾射撃を模してつくられており、射撃の際は反動があります。ステージでは一度に最大10名まで訓練することができます。
全長126mの生活隊舎には幹部以外の約100名の隊員が暮らし、1階には医務室があります。自衛隊員が受ける一般的な健康診断も行なえますが手術は行なわず、肺炎患者が出た際も石垣島の病院に入院しました。
娯楽室は一見したところトレーニング室のようですが、これは本来体育館に置くべきマシンを、体育館完成までここに設置しているため。ちなみに一般的な娯楽室にはテレビとアイロン台があり、隊員たちが自由時間にテレビを見ながらアイロンがけをします。しかしここでは隊員から「運動したい」という要望もありこのようにしたところ、なかなか好評だそう。
風呂場は2か所、循環式で24時間入浴可能なため、下番した後も入浴可能です。
隊員の居住する部屋は2~3名1室が基準で、ほかの駐屯地の隊舎との違いは、窓の大きさとベランダがあること。ベランダというのは本来、隊舎には不要なものです。窓が大きくなるほど窓ガラスの費用もかかります。それでもあえてそのような設計になっているのは、与那国島の駐屯地という特性を踏まえ、隊員にストレスのかからないようにする配慮だそう。確かに景色がよくリフレッシュ効果がありそうです。
さて、沿岸監視隊が新編したことで、与那国島にはどのような変化があったのでしょう。そして現在、島民と部隊の関係はどうなっているのでしょうか。
与那国防衛協会によれば、賛成派と反対派で島が分離していた状態だったときは、島内のあちこちに賛成・反対双方の横断幕や幟があり、一種異様な雰囲気だったといいます。反対派は「自衛隊が来たらすぐに戦争が起きる」と本気で言い、一方で賛成派も「島で災害が起きた時に自衛隊がいれば助けてくれる」と、南西防衛という視点はなく災害派遣のみで語る人が多勢でした。
住民投票後は反対派の活動が縮小、そして明らかに空気が変わったのは平成27年3月、先遣隊の20名が島にやって来てからです。
官舎がまだないため島内の借家やアパートで暮らし始めた隊員たちは、あからさまに無視する相手に対してもあいさつを続けました。家の前の道路掃除を欠かさない隊員もいました。休日にはボランティアにも参加しました。
島の人々に溶け込もうと努力するその姿に、次第に無視していた反対派もあいさつを返すようになっていったといいます。そして町の主要行事にも招待されるまでになったところで、与那国駐屯地が開庁しました。
官舎がなかったことがむしろ功を奏し、島民と生活の場面で近しい関係になれたのが大きかったのです。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)3月30日配信)