警戒航空隊(5)

ある日の0700、約30名が集まった一室でブリーフィングが
始まりました。衛星写真や天気図を用いての気象報告や
AWACSの整備状況、そして本日の飛行計画などがそれ
ぞれの担当者から説明されます。
ブリーフィングが終わり外へ出てみると、ちょうどAWACSが
エプロンに運ばれてくるところでした。これから給油やPRと
呼ばれる飛行前点検が約1時間かけて行われます。
整備が終わる頃、AWACSに搭乗するミッションクルーが整然
とやってきました。こういう何気ない動きがきっちり決まって絵に
なります。
その中でひとり、重そうな荷物を抱えてタラップを上がっていく
隊員がいます。彼が持っていたのは長時間フライトの必需品、
ポットに入った暖かいコーヒーでした。ちなみにAWACSの一番
後ろには民間機と同じギャレーがあって、フライトが長いときは
そこで食事を解凍したりします。
2006年に統合運用がスタートして以来、AWACSは陸・海・空
統合運用の象徴と言われてきました。
たとえば、不審船に対処するという事例で考えてみると、船舶
に対しては海上自衛隊の艦艇が、武装した工作員などの上陸
には陸上自衛隊が備えます。そして航空自衛隊は、このAWACS
で不審船周辺の航空機情報などを収集する、といった具合です。
BMD(弾道ミサイル防衛)についても、AWACSは警戒監視や
指揮・通信の統合運用でカギとなる存在です。このように、いつ、
どこにおいても共同で作戦を遂行する立場にあります。
それは隊員の士気の高揚につながる一方で、どんなミスも許さ
れない厳しい環境下に置かれていることを意味しています。しかも
上空を長時間監視するというのは、集中力を維持することが難しい
単調な作業です。しかし、実際には一度として同じ日などありません。
警戒航空隊員としての誇りをどんなときに感じるかという話に
なったとき、ある隊員が「国民の知らないところで日本を守って
いること」と言いました。少し古い話になりますが、2002年の
日韓ワールドカップ開催時、AWACSは警戒のために日本の
上空を常時飛んでいたのだそうです。隊員はその時のミッション
クルーでした。青色のユニフォームを着たサポーターたちは、
上空にいるAWACSの存在など知る由もないけれど、われわれ
は人に知られることなく寡黙に上空を警戒して回っている。
それが誇りなのだと言うのです。自衛官はこういう人が本当に多いです。
きっと2020年の東京五輪でもAWACSは上空で警戒管制を行う
はずです。勝手な想像ですが、五輪の開会式会場上空をブルー
インパルスが飛ぶ可能性は高く、その華やかな飛行に多くの人
が歓声を上げることでしょう。でも、そのもっともっと上空に、間違い
なくAWACSもいるのです。
次回は空飛ぶレーダーサイト、E-2Cについてご紹介します。
(わたなべ・ようこ)
(平成26年(西暦2014年 皇紀2674年)10月16日配信)