第302保安警務中隊(3)

今回は第302保安警務中隊の最終回となります。
訓練の際に活躍するのが「矯正具」です。ものものしい名前がついていますが、実際は白くペイントされただけの木材です。
いたってシンプルな道具ですが、ひとつはつま先の角度調整と休めの際の足幅25cmを測る役目をします。
もうひとつはさらに用途が多く、体が地面に対して垂直になっているか、腕や銃剣の角度などが正しいかを一度に確認することができます。
さらにロープや1cm単位で印の入っている棒を使い、銃剣の位置や姿勢を微妙に直していきます。
彼らが訓練していると(部隊は防衛省内に所在しています)、そばを通り過ぎる防衛省職員や来賓、ほかの部隊の隊員までが一様に目を向けます。人によっては立ち止まってしばらくその動きに見入っているほどです。それほど彼らの動きは機敏で美しく、通常の訓練ですらさすが特別儀仗隊といった風格が漂っています。
派手な装備品があるわけでもない、ただ隊員が単純な動きをしているだけの訓練が絵になるなんて、よく考えたらすごいことですよね。
特別儀仗は1年に平均52回行なわれます。それに伴う事前訓練が3日間あるので、年間200日以上が特別儀仗の任務に費やされている計算になります。
ほか、主任務の司法警察職務、保安業務のため、野外演習や銃剣格闘、逮捕術といった訓練も欠かせません。
柔道、空手、杖道をミックスしてあみ出された逮捕術は、自分が傷つかないように犯人に手錠をかけ逮捕するための、警務科にとって必須の武術です。逮捕術の検定もあるので、自主的に朝錬をする隊員もいます。毎日午後には1時間の走り込みもあります。常日頃から基礎体力をしっかりつけておかないと、警備の任務でも特別儀仗の任務でも苦しむことになるからです。
交通統制の訓練も行なわれます。交差点の中央に立って車を誘導するその背筋は見事なまでに伸びていて、やはり特別儀仗隊員だなと思わせる美しさがあります。一方、腕の動きは流れるように滑らかで、特別儀仗のときの「瞬時に動き瞬時に止まる」といった敏捷な動作とは対照的です。
以前取材した中隊長は、単純で単調な動作の繰り返しである儀仗訓練は忍耐力を必要とされるため、隊員各自のモチベーション維持に留意していると語っていました。また、「特別儀仗隊は自衛隊の中で最初に国賓と接する部隊なのだから、自衛隊がこれだけ精強なのかと可視的に示すためにも、より完璧を目指した儀仗をする必要がある。そういう気持ちをすべての隊員の意識に植え付けることが大切だ」とも。
ある程度まとまった人数がきっちり揃った動作を行うというのは、見ている側にある意味脅威を感じさせる(北朝鮮のマスゲームなどはいい例ですよね)。それはその背後に、徹底した厳しい訓練が行なわれていることを実感させるからで、中隊長の言葉どおり、自衛隊の精強さのひとつの目安になるのでしょう。第302保安警務中隊にとって、特別儀仗は年間50日以上行なわれる「実戦」とも言えるのかもしれません。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)12月14日配信)