【本の紹介 by上田篤盛】『シリア原子炉を破壊せよ─イスラエル極秘作戦の内幕』

2020年4月18日

(令和二年(2020年)4月16日配信)

おはようございます、エンリケです。

上田篤盛さんによる「本の紹介」をお届けします。

対象の本はこちらです(本日発売)

『シリア原子炉を破壊せよ─イスラエル極秘作戦の内幕』
ヤーコブ カッツ (著), 茂木 作太郎 (翻訳)
単行本(ソフトカバー): 288ページ
出版社: 並木書房
言語: 日本語
ISBN-10: 4890633979
ISBN-13: 978-4890633975
発売日: 2020/4/16
梱包サイズ: 18.6 x 12.8 x 2 cm
https://amzn.to/3cn23rv

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中東情勢の未来予測マニュアルになる良書です。

2007年9月、原子炉らしきシリアの施設に対す
る空爆が行われたことを皆様はご存知だったでしょ
うか。

国際社会は九分九厘イスラエルの仕業だと見ました。
でもイスラエルからは何らの発表はなく、シリア側
も原子炉建設の事実を否定しました。2011年の
IAEA報告書では、この施設が原子炉であった可
能性と北朝鮮からの支援の存在を示唆しましたが、
以来この事件は忘れ去られようとしていました。

ところが2018年になって、当時のオルメルト政
権が空爆を実行したことをイスラエルは発表しまし
た。これは明らかに「事件を思い起こせ、同じよう
な恐怖を類推せよ」という警告です。しかも、シリ
アに復讐する能力がないことを判断した上で、核開
発疑惑が再燃するイランに対する警告です。さらに
は北朝鮮に甘い態度を取る米国への牽制も含まれた
ものといえます。

原書は2019年に5月に米国出版社から刊行され、
たちまちベストセラーなりました。作者はエルサレ
ム在住の日刊英字新聞の編集主幹で、イスラエル政
府の上級政策顧問です。丹念な取材による信頼性の
高い情報です。
邦訳本は、翻訳が熟れていて読みやすいのが魅力です。

現在、中東にはシリアとイランの2つの火薬庫があ
ります。格段に爆発力が大きいのがイラン火薬庫で
あることは言うまでもありません。イランとイスラ
エルの衝突は第三次世界大戦にも繋がるやっかいな
構造を持っています。

それが爆発するかどうかの鍵(ドライバー)はイラ
ン、イスラエルそして米国の未来動向でしょう。そ
して「イスラエルは、イランのどのような行動を核
開発の兆候と判断して攻撃するか?」「米国はいか
なる条件が生じればイスラエルと連携して積極行動
をとるか?」などがキークエスチョンとなりそうで
す。

本作は、中東情勢の未来を占う上での重要な視点を
提示してくれています。あわせて、アジアの火薬庫
でもある北朝鮮問題の未来を占うヒントにもなりま
す。情報分析官の私にとって垂涎の分析マニュアル
になり得ます。

本作を読むためのイスラエル、米国に関わる10の
クエスチョンを上げてみましょう。
(1)イスラエルは、どのような情報源からシリアが
原子炉を建設していると判断したか?
(2)イスラエルはなぜ米国に空爆を行うよう要請し
たか?
(3)米国はなぜイスラエルの要請に応じ得なかった
のか?
(4)イスラエルはシリアのアサド政権による報復が
あると考えたか?報復を回避できる前提、あるいは
報復の動機は何だと考えたか?
(5)シリアが報復することの利点、欠点をイスラ
エルはどのように評価したか?
(6)本空爆の前年2006年から開始されたレバ
ノン侵攻で、オルメルト政権はどのような教訓を得
たか。それが本空爆の意思決定にどのような影響を
及ぼしたのか?
(7)イスラエルが米国以外に空爆をするかもしれな
いことを事前報告した国はどこか?また、なぜその
報告が必要だったのか?
(8)イスラエルが攻撃後に情報を提示して状況説明
する必要を考えていた対象国はどこか?
(9)イスラエルの攻撃時期、攻撃方法を決定する上
での考慮した要因は何だったか?
(10)イスラエルの政権内部ではどのような対立が
生じたか?それはどのように解消されたのか?

以上の質問を念頭に置き、本作を読みつつイラン
の状況を類推することで一つの未来シナリオが描け
ることでしょう。

最後に、イスラエル指導者はほぼ国軍出身者であ
り、命を賭した軍務を経験しています。責任感、愛
国心、自信と信念に満ちた、誇り高い彼らが国防の
ため党利党略を捨て一致協力する姿は感動を覚えま
す。
本作は、コロナウィルスで在宅自粛している多く
の方に政治あるいは政治家とはどうあるべきか、国
家および国民とはどういう存在か、を考える契機と
なる啓蒙書でもあります。

是非、一読されることを推奨します。

(上田篤盛)

『シリア原子炉を破壊せよ─イスラエル極秘作戦の内幕』
ヤーコブ カッツ (著), 茂木 作太郎 (翻訳)
単行本(ソフトカバー): 288ページ
出版社: 並木書房
言語: 日本語
ISBN-10: 4890633979
ISBN-13: 978-4890633975
発売日: 2020/4/16
梱包サイズ: 18.6 x 12.8 x 2 cm
https://amzn.to/3cn23rv

【評者紹介】
上田篤盛(うえだ・あつもり)
1960年広島県生まれ。元防衛省情報分析官。防衛大
学校(国際関係論)卒業後、1984年に陸上自衛隊に
入隊。87年に陸上自衛隊調査学校の語学課程に入校
以降、情報関係職に従事。92年から95年にかけて在
バングラデシュ日本国大使館において警備官として
勤務し、危機管理、邦人安全対策などを担当。帰国
後、調査学校教官をへて戦略情報課程および総合情
報課程を履修。その後、防衛省情報分析官および陸
上自衛隊情報教官などとして勤務。2015年定年退官。

著書に『中国軍事用語事典(共著)』(蒼蒼社、
2006年11月)、『中国の軍事力 2020年の将来予測
(共著)』(蒼蒼社、2008年9月)、『戦略的イン
テリジェンス入門─分析手法の手引き』(並木書房、
2016年1月)、『中国が仕掛けるインテリジェンス戦
争─国家戦略に基づく分析』(並木書房、2016年4月)、
『中国戦略“悪”の教科書─兵法三十六計で読み解
く対日工作』(並木書房、2016年10月)、『情報戦
と女性スパイ─インテリジェンス秘史』(並木書房、
2018年4月)、『武器になる情報分析力─インテリジ
ェンス実践マニュアル』(並木書房、2019年6月)
『未来予測入門 元防衛省情報分析官が編み出した技
法 』(講談社現代新書、2019年10月)など。

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令和二年(2020年)4月16日配信