【Preview】遠藤誉氏:チャイナマネーに買われる香港の民主主義

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マル激トーク・オン・ディマンド 第707回
チャイナマネーに買われる香港の民主主義
遠藤誉氏(東京福祉大学国際交流センター長)
 香港で民主化を求めるデモが続いている。
 今回のデモは8月31日に中国政府が発表した、香港の行政長官選挙の新制度案に反発した市民たちによるもの。現行制度では一部の特定団体に所属する1200人の選挙委員によって行政長官選挙は行われていて、約350万人の有権者には事実上投票権が無い状態が続いてきたが、北京政府は2007年に一人一票の民主的な選挙制度の導入を約束していた。ところが、今回、中国政府が示した新制度案は、投票権こそ全有権者に与えられるものの、候補者は事実上、中国政府の意に沿う者に限られるという、上辺だけの普通選挙に過ぎないものだった。
 香港は1997年に英国から中国に返還されて以来、中国の施政下にあるが、北京政府は返還から50年間は一国二制度を維持し、香港の民主制を守ることを約束していた。しかし、今回の中国政府の対応で、その約束が空約束だったことが明らかになり、反発した学生らが現職行政長官の辞任とともに、民主的な普通選挙の実施を求めて抗議デモが始まった。
 しかし、デモの発生から1ヶ月が過ぎても、香港政府は新制度案は覆すことはできないという立場をとり続けている。
 中国国内情勢に詳しい東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉氏は「中国は50年後の2047年に向けて一国一制度に移行するための準備を着々と進めているに過ぎない」と指摘する。現在の香港は中国の一行政区、日本で言う都道府県のような位置付けにある。いまは資本主義が許されている一行政区を今後33年かけて中国本土の政治体制に移行させようというのが中国側の思惑のようだ。…
 問題はこの問題が香港だけにとどまらない可能性が大きいことだ。チャイナマネーは世界中のあらゆるところに進出しているが、特に台湾が徐々に香港と似たような道を歩み始めている。台湾でも経済界は中国なしには成り立たない状態になりつつあり、中国政府を批判する言論の自主規制が始まっていると遠藤氏はいう。
 しかし、その中国自身も大きな問題を抱えている。指導層や政府高官に蔓延する汚職と、経済成長に伴って拡大している貧富の格差が、もはや危機的状況にあると遠藤氏は言う。ここに来て習近平は汚職の摘発に本腰を入れているが、汚職による公金の横領は50兆円にも及び、毎年2万人が汚職によって逮捕起訴されているという異常な事態を招いている。伝統的に縁故と賄賂によって社会が回ってきた歴史のある中国だが、汚職をこれ以上放置することは国家体制の維持を困難にするほどの重大問題になっていると遠藤氏はいう。
 さらに経済格差の拡大に歯止めがかからないことも国内の不満を高める要因になっている。中国は鄧小平の提唱した富める者から先に富もうという先富政策によってこれまで格差を容認してきたが、今や人口の0.4%の裕福層が国内の約6割の富を独占している状況で、不満を持った貧困層による暴動が中国各地で年間20万件も起きているという。これは毎日500件以上の暴動が中国のどこかで起きているというということだ。
 元々先富政策はいずれはその富を平等に分け合う共富政策に転換することが前提だったが、ここで経済政策を転換し、約3億人の貧困層が豊かさを実感できる状態を作らなければ、現在の共産党一党独裁体制が正当性を維持することは難しいことは中国政府も自覚しているようだ。だからこそ習近平政権は、腐敗撲滅と格差是正を最優先課題に掲げているのだと、遠藤氏は指摘する。
 今回の香港民主化デモとそこから見えてくる中国の動向、そしてその中国とわれわれはどう向き合うべきかなどについて、中国問題の専門家、遠藤誉氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。