日本×統一朝鮮というシナリオ(2)

私は、統幕学校長として渡英した際、この誤解を少しでも解くべくRUSI(英国王立防衛安全保障研究所)で講演をさせてもらい、「みなさん、とんでもない総理が生まれたと思っているかもしれませんが違います。日本人が集団安全保障を知らないだけなんです」と研究者たちに話したことを思い出します。

話を戻しますが、このように現代社会では、武力行使が許される機会はきわめて限られています。アメリカも例外ではなく、基本的に安保理決議がなければ武力行使はできません。北朝鮮が大量のミサイル発射を行なった2017年、アメリカと北朝鮮が戦争するということを言う人がマスコミに登場しましたが、経済制裁決議しかなく、湾岸戦争のときのようにその烈度が上がる様子もありませんでしたから、私は「200%ない」と言っていました。けれどもそれはテレビ受けする発言ではなかったようで、一切マスコミに呼ばれなくなりました(笑)。
「そうは言っても今も戦争はあるじゃないか」と言われるかもしれませんが、現在の中東などの戦争は、すべて内戦から始まっています。民族や宗教の違いで殺し合いが始まり、そこに外部勢力が入り込む、いわば代理戦争です。国連憲章を理解している、特に先進国家が、他国に対して自ら宣戦布告して戦争を仕掛けるなどという愚行は、現代ではありえないのです。

ここで、尖閣諸島をめぐって中国と戦争になるという最初の話に戻します。
中国は尖閣を自分たちの領土と定め、法律に明記しました。国連海洋法条約を勝手に解釈し、1992年自国の領海(領土から12マイル)を定める領海法において、尖閣、台湾、南シナ海の島々を、「すべて中国の領土」と明記しました。
これはつまり、中国共産党は尖閣諸島に対して、治安維持の範疇で武力行使ができると思っているということなのです。彼らからすれば日本の方が領土・領海・領空を侵犯しているという理屈が成り立ち、中国国民もそれに納得してしまう。言ったもの勝ちのようなこの傍若無人なやりかたに対し、当然国際社会は批判しますが、「内政干渉だ」と強弁するでしょう。こういった態度から、アメリカは中国をリビジョニストと非難しているのです。
困ったことに、中国のエリートであればあるほど、この領海法になんの疑問も抱いていません。むしろ優秀な人ほど法律を勉強します。尖閣周辺に配備された「海警」部隊に所属するエリートたちは、なんの違和感も疑問も抱かず、日本などに対して本気で「なぜうちの領土で勝手なことをしているんだ」と思っていることが、さらに厄介なのです。
このような「法律戦」が既にしかけられていて、これこそ戦争につながってしまう危険をはらんでいます。それゆえ、日本が今いちばん戦争に巻き込まれる蓋然性が高いエリアは尖閣諸島なのです。国際社会も「地域の小競り合いでしょ」という態度で関与してこない。かなりまずい状況にあると私は思っています。
同じ理由から、台湾も南シナ海の島々も、いくらでも戦争になる火種があります。中国はアメリカから激しく非難されても、あるいは国際仲裁裁判所で南シナ海の行動は違法と宣告されても、「内政に口を出すな。われわれは法に基づいて動いている法治国家だ」と悪びれることなく言い放ってきたのですから。(つづく)