空飛ぶ船を操る第71航空隊(6)

先週に続き、捜索訓練の様子を追いつつクルーを紹介します。
ひとりの海曹が遭難者役となり、海上にプカリと浮かびました。機上救助員2名がボートに乗り込み、迅速に船外機を取り付けます。彼らの動きを見ていると苦もなく一連の作業をこなしているように見えますが、実際はプロペラの風圧で水しぶきはすごいし、ボートは吹き飛ばされんばかりの勢いで揺れているし、少しでも波に流されればUS-2のプロペラに接触してしまいそうだしと、見ているこちらがハラハラするほど危険な作業です。
ボートに乗り込んだひとり、ベテランの海曹長は、そんな状況は珍しくもなんともないという様子です。
「機上救助員は遭難している人を助けに行くのが仕事。自分たちは着水してからが本領発揮です」
もうひとり、ボートに乗り込んだ2曹は「急病人搬送であったり船舶の火事であったりと、状況は千差万別。しかも事前に情報を得ていても、現場に行って初めて分かることも多いです」と話していました。
要救助者はパニックを起こしている人よりもぐったりしている人のほうが圧倒的に多いそうですが、訓練では遭難者役がわざと暴れたり機上救助員にしがみついたりと、あらゆるケースを想定して行ないます。
隊司令の言っていた「訓練でやった以上のことは実動ではできない。だから訓練で泣き実動で笑え」という言葉を思い出しました。
要救助者を無事US-2まで引き上げたら、今度は機上救護員の出番です。
准看護士の資格も持つ彼らは、洋上で体力を消耗した人を看護したり、急患輸送で医官が同乗している場合は、その補佐を務めたりします。
船の遭難や船舶火災などでは一度に複数の負傷者が乗ってくるので、あらかじめ機上救護員も増員して出ていくのだそうです。
救護だけでなく、現場に到達するまでの見張り、現場付近での捜索、要救助者のいる地点に印をつけるスモークやマーカーを落とすタイミングを判断し、号令をかけるのも機上救護員の仕事です。また、漁船などにけが人がいるなどという場合は、機上救助員と一緒にボートで船まで行ってその後の処置を判断することもあります。
機上救護員の3曹は、医療に関わる職種なので、通常の訓練だけでは技術の向上には十分でないと言っていました。
「今の医学は日進月歩なので、常に新しい知識を身につけようという努力をしないと。受け身ではなく、自分から学びに行く姿勢も大事だと思います」
パイロットのすぐ後ろには、2人の機上整備員が座っています。
彼らの主な仕事は計器監視と燃料管制。往復の距離や天候などから燃料を考慮し、現地でどれくらいの時間捜索活動ができるか時間を計算するのも機上整備員の役割です。
機上整備員の関わる部分は、US-1AとUS-2で相当大きく改造されたところのひとつ。飛行隊長によれば、US-1Aで欠けていたり不足していた部分がUS-2には取り込まれているから、US-2は万人が操縦しやすい、扱いやすい機種なのだそうです。US-2に乗って、初めて今まで扱っていたUS-1Aの難しさに気づいたようなところがあると。
それは機上整備員にも当てはまるのでしょうか。
US-1AからUS-2に機種転換した1曹は、「一言で言えばアナログからデジタルへ」とその変化を説明してくれました。
「US-1Aのときは針の位置を見ればどういう状態が一目瞭然でしたが、US-2ではそれはかないません。システム機にどうやって機上整備員が入り込み、システムよりも早く不具合を発見できるかが、今の面白みであり難しさでありますね。2機種のどちらが扱いやすく、どちらが扱いにくいという比較ができないほど、整備員にとってUS-1AとUS-2は別物なんです」
昨年12月にUS-1Aは全機退役したので、両機種を知るクルーは貴重な存在と言えるかもしれません。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成30年(西暦2018年)2月8日配信)