MCV配備部隊&密着ルポ(1)

今週から2023年8月号の『丸』のMCV特集で掲載された「MCV配備部隊」「MCV密着ルポ」の記事2本をまとめてお届けします。北海道の第2師団隷下第3普通科連隊(名寄)が第3即応機動連隊に改編されるまで、そして改編されてからの訓練は何度も取材し記事にし、そしてこのメルマガでもご紹介してきたので過去の配信記事と重複する部分もあるかもしれませんが、そこはご容赦ください。

最初に、MCVという装備品が生まれましました背景を改めて振り返ってみます。

冷戦時代の自衛隊は「ソ連が侵攻し北海道に着上陸する」ことに備えた体制を取っており、必然的に北海道の部隊には戦車を運用する機甲部隊、火砲を運用する特科部隊などがほかの地域に比べ多く配備されていました。

しかし冷戦終結後は「国vs国」「東vs西」といったシンプルな対立構造では対処できない「対テロ戦争」という時代に突入。自衛隊も海外派遣するようになり、さらには島しょ防衛の重要性が日々増すなど、陸自も日本を取り巻く安全保障の変化に応じて機動的な組織となることが求められました。

現在の日本で、防衛上もっとも脅威にさらされているのは南西方面であることは間違いありません。そのため陸上自衛隊は全国各地から南西方面へ迅速に展開できる機動力を持つ組織へとシフトしました。

そこで従来の師・旅団が高い機動力や警戒監視能力を備え、機動運用を基本とする機動師団、機動旅団に改編されることとなり、抑止力・対処力の強化を図るとしました。

すでに機動師団・機動旅団に改編されているのは、改編順に第8師団(熊本県)・第14旅団(香川県)、第6師団(山形県)、第11旅団(北海道・真駒内)、第2師団(北海道・旭川)、第5旅団(北海道・帯広)です(第12旅団<群馬県>も機動旅団化されましたが、現時点では即応機動連隊に改編された普通科連隊はありません)。

そして、当初はあえて改編せず、現在の運用を継続するとした師・旅団もあります。首都防衛を担う第1師団(東京都)、大都市を擁する第10師団(愛知県)、第3師団(兵庫県)、第4師団(福岡県)のほか、第9師団(青森県)や日本海に面する第13旅団(広島県)、南西防衛の最前線である第15旅団(沖縄県)は、地域の防衛に特化する地域配備部隊として現状の編成のままとしました。また、陸自唯一の機甲師団である第7師団(北海道・東千歳)も90式、10式戦車で3つの連隊を編成できる唯一の師団として現状のまま運用するとしていました。

しかし、安全保障関連3文書では南西方面への備えをさらに強化する方針が示され、防衛力整備計画で沖縄の第15旅団を除くすべての師旅団で「機動運用を基本とする」と明記されました。

そのため、2018年に策定した防衛計画の大綱で機動運用すると掲げたのは8つの師・旅団でしたが、この先は地域配備部隊とされていた師・旅団も機動師団・機動旅団へ改編されることになります。第7師団のような機甲師団がどのように機動力を発揮する師団に改編されるのかは注目に値します。なお、第15旅団は師団に格上げされる予定で、陸自の師団新設はおよそ60年ぶりとなります。

この機動師団・機動旅団隷下に新たに生まれたのが、MCVを装備する即応機動連隊です。(つづく)