GSOMIAの裏側と韓国人の米軍依存(5)
クラウゼヴィッツは著書『戦争論』の中で、「戦場は霧の中にある」と言っています。これは、昔は敵が実際にどういった配置や状況にあるのかがわからないまま戦争をするのが普通だったからです。
ところが現代の戦争、特にアメリカ軍は、味方はもちろん、敵がどこにいるかも全部把握し、それが表示された画面を見ながら兵を動かします。それを可能にしているのが、コンピューターを駆使したアメリカの「作戦指揮システム」です。そしてこのシステムをアメリカの同盟国はすべて共有しています。
たとえばUKUSA協定、通称ファイブアイズ(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国)やNATO各国が使っている共通のシステムがこれです。
ハワイに所在する米太平洋軍司令官のところへ行くと、司令部要員は外国人だらけです。ナンバー2や3はオーストラリア軍人やイギリス軍人というように、その関係は密接というより一体なのです。オーストラリア軍の司令部に入ると、そこにあるのはこのアメリカの作戦指揮システムだけです。オーストラリア独自の作戦指揮システムが存在していません。NATOになるとインターナショナルというよりはもはやグローバルというもので、各国はアメリカの作戦指揮システムだけを使い、欧州の各国に所在するすべての軍隊を動かします。つまりすでに軍の世界では国境がなく「アメリカ一家」という形態で、軍事組織が成り立っているのです。
韓国もアメリカの作戦指揮システムだけを使っており、韓国独自のものは持っていません。ですからこのシステムがなくなったら自国軍の部隊がどこにいるのか、自国の兵力の組成もわからなくなります。アメリカの作戦指揮システムを撤収されたら韓国軍は目も耳も声も失い、身動きできない状態になってしまうのです。
アメリカの同盟国の中で、アメリカの作戦指揮システムとは別に自国独自の運用システムを使っているのは日本くらいです。
日本はファイブアイズに属しておらず、アメリカとは日米同盟という別枠のつながりです。そのため、米太平洋軍司令部には連絡官がいますが、連絡官がいること自体が「他人」の関係だということです。普段からお互いの活動がわからないのでは都合が悪いから、連絡官を置くことで一定の情報を共有しますが、作戦司令部の要員そのものではない連絡官では、当然見ることや聞くことができる情報は限られています。
さらにアメリカは同じ同盟国間でも差別化をしていて、特に一緒に戦ってくれるか否かという基準によって、共有される情報の質・量を変えています。作戦指揮システムとは別に情報系のシステムがあり、これにはより機密のレベルが高い内容が含まれていますが、これを共有しているのはファイブアイズだけです。それ以外の国が見ているのはまったくの別物と言ってもいいほどなのです。
本来ならば、自衛隊もアメリカのすべてのシステムを使う関係、つまり一体化すべきなのでしょう。そうすればより高い機密に触れられるし、たとえば沖縄問題なども起きません。なぜなら一体化した場合、その司令部の運用幕僚や作戦幕僚に自衛官が配置されれば「そこは飛ばしちゃだめ」と、米軍の航空機を自由にコントロールできるからです。NATOで第二次大戦の同じ敗戦国であるドイツとイタリアで、沖縄のような米軍の基地問題が起きないのは、両国ともNATOの一員として米軍の航空機をすべてコントロールできるからです。
ただし、アメリカのシステムを使うには、一緒に血を流す覚悟が求められます。しかし日本において、それをクリアーするハードルは、今もきわめて高いといわざるを得ないでしょう。アメリカもそれはわかっているので、自衛隊に対する情報の提供は制限されているのです。
第二次大戦後、アメリカは太平洋版NATOを作ろうと考えていました。それができなかったのは、日本を武装解除したため物理的に不可能だったことと、日本を信用していなかったからです。そこで、二国間条約で軍事システムを共有していく形で米太平洋軍の同盟国を育ててきました。その結果、ファイブアイズができ、韓国には米韓合同軍、日本とは日米同盟というそれぞれ違った枠組みで地域の安全を保障しているのです。
(つづく)