第25戦闘団冬季訓練検閲(8)

2師団以外の検閲では、白熱した戦闘中に黄色い旗を持った
審判が状況を止めるというシーンを目にすることがあります。
たとえば彼我の戦車がやり合っている際、どちらかの戦車が
多目的誘導弾に撃破されていたにも関わらず、双方それに
気づかず状況が進んでしまうといった時です。
何時から何時までどこに撃ったと言っても実際には落ちて
いないわけですから、砲弾が落ちたことをリアルタイムに審判
が伝えない限り、このような事態が起こります。
こういう場合は審判が統裁部に状況を送り、「戦死何名」とか
「負傷者何名」といった判断をあおいでから状況再開となります。
状況が止まる効率の悪さ、その場にみなぎっていた緊張感が
ぷつりと途切れる様子は、はたから見ていても好ましい状況と
は思えません。隊員にしても状況が盛り上がっていたところで、
自分がすでに戦死していたと告げられればあ然とするでしょう。
けれどバトラーを装着して演習を行う今の2師団では、そういう
シーンを目にすることはありません。
ちなみに中隊長は、デジタル化が進むほど自分の部下が戦死
したり負傷するのを瞬時に知ることになるので、部下を失うという
感覚がかなり生々しいそうです。ほかの部隊なら富士訓練セン
ターでしか経験できないことが、2師団では日常として行われてい
るわけです。
統裁部にはいくつもの部署があるので、それぞれの役割をご紹介
します。
「企画統制部」は、検閲と実行動のバランスを調整する、検閲の
心臓部ともいえるところ。各地から上がってくる情報を管理し、最
新の全体情報を24時間体制で把握しています。
「補助官部」は指揮官や部隊の精強さをチェックする部署で、
統裁官が受閲部隊を評価するための情報を収集します。
「審判部」は判定係で、現場の審判は戦車がどの車種に向けて
撃ったか、対戦車誘導弾はどの戦車に向かって撃ったのかなど
確認してから、その情報を審判本部に送ります。すると本部で
「撃破」「何名負傷」といった判断が下されるので、現場ではその
通報を受け、部隊に伝えるというのが通常の検閲での役割です。
デジタル化された2師団においても、審判の仕事がなくなったわけ
ではありません。なぜ撃破できたか、あるいはできなかったかを隊
員レベルや指揮官レベルで把握し、今後、どのような訓練が必要
なのかなど示唆するためにも、現場に立ち合う審判の役割は重要
なのです。
演習場内で危険になりそうな部分の兆候を見つけ、注意喚起をし
て安全を確保するのは「安全部」の役割。もっとも注意しなければ
いけないのは、戦車が活動する時だそう。視界が狭いうえにさま
ざまな隘路も走るため、周囲も危険に巻き込まれやすいのです。
自分たちのために検閲を受けている受閲部隊と違い、統裁部は
彼らのために日陰仕事に徹します。なかなかしんどいものがあり
ますが、自分たちも訓練なのだという意識を持ってモチベーション
を維持するようにするそうです。
次回は演習予行のお話です。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)1月8日配信)