統合幕僚監部(4)

文化の違いを超えて陸海空が価値観を共有

統幕に勤務する隊員は、普段ほかの制服の隊員と机を
並べて仕事していても違和感はないけれど、何気ない
ときに陸海空それぞれのカラーを目の当たりにすること
があると言っていました。
その最たるものが用語です。自衛隊には自衛隊なら
ではの用語がたくさんありますが、それがさらに陸海空
に分類されているのです。
たとえば、式典などの予行練習のことを陸自と空自では
普通に予行と言いますが、海自では立付(たてつけ)と
言います。通信用語でも海自と空自が「ラジャー、オーバー」
など英語基本なのに対し、陸自は「了解、送れ」です。
言葉も違えば制服も文化も違う、思想や行動まで異なる。
だからこそ統合運用は難しく、統合運用が理想の形
とわかっていても、思うように進んでいない国もあります。
それが自衛隊ではこうして運用が進んでいる背景には、
防衛大学校の存在が大きいという声があります。
他国の士官学校は陸海空すべて分かれていますが、
自衛隊では防大が統合学校です。互いの文化を自然に
知ることになりますし、自分の所属以外の自衛隊に
先輩や同期、後輩がいるというのは仕事を円滑に
進める大きな助けになっているでしょう。
また、高級幹部が統合運用を学ぶ統合幕僚学校という
機関もあります。教育のレベルで統合運用をうまく行う
ための素地がかなりできているといえるのかもしれません。
また、地域ごとに独自の文化や大切に継承されている
伝統はありますが、日本というもう一つ大きな視野で
見れば、日本人は同じ日本の歴史を共有しています。
日本で生まれ育ってきたという根幹の部分が一致して
いることも、円滑な統合運用に多少なりとも影響を
与えているのではないでしょうか。
統合幕僚長の岩﨑茂空将は、統合運用体制に
必要なものは「柔軟な思考とスピード感を持った対応」
としています。そして実際に現場で任務に当たる隊員
には、それを完遂する能力が求められるため、どの部隊
も常日頃から厳しい訓練にいそしんでいます。少々脱線
しますが、昨年の大島への災害派遣で、隊員が土砂の
中から掘り出した位牌に自分の水筒の水をかけ、
泥を洗い流している写真を見ました。強くてやさしいなど、
これほど頼もしい存在はありません。
陸海空自衛隊が価値観を共有し、即応態勢を維持して
いくことで、統合運用体制はさらに確立されていきます。
統幕にかかる期待と役割は、今後ますます大きくなって
いくことでしょう。(了)
(わたなべ・ようこ)
(平成26年(2014年)9月11日配信)