統合幕僚監部(2)

新たな体制、統合運用で変わったこと

従来の運用体制と統合幕僚監部新設による
新たな運用体制では、どのような点が異なる
のでしょう。
前述した通り、かつては陸海空自衛隊の幕僚長が、
各自衛隊の運用に関し個別に長官を補佐していました。
各々の軍事専門的観点から長官を補佐すると、
同一の事案に対しても各幕僚長が異なる見解を示す
ということもあったでしょう。
一方、長官も幕僚長ごとに命令を出していました。
遭難した船を海自の艦艇が救助するにあたり、
空自の航空機が先行し船を見つけ位置情報を知らせる
といった任務の場合も、長官は海自と空自の別々に
命令を出していたのです。一般企業でこんなに
効率の悪いことをしていたら、あっという間に倒産しそうです。
統合運用体制になってからは、統幕長が陸海空自衛隊
を含めた統一的な運用プランを立案し、防衛大臣を補佐
(防衛庁は平成19年1月に防衛省へ移行しました)。
大臣の指揮は統幕長を通じて行いますから、今なら船を
救助する場合は、大臣が統幕長に一度命令を出すだけで
済みます。大臣の補佐についても、各幕僚長の意見を
統幕長が取りまとめて一括して行うことで、より的確かつ
適切なアシストが可能となりました。
統幕長のもとには陸自の各方面総監、海自の自衛艦隊
司令官、空自の航空総隊司令官、そして任務によって
編成される統合任務部部隊指揮官等がいて、部隊運用
の責任を司っています。いわば部隊を使う側、フォースユーザーです。
一方、各幕僚長や各幕僚監部等は部隊を提供する
フォースプロバイダーであり、人事、教育、訓練、防衛力
整備といった部隊運用以外を担っています。
統合運用以前はフォースプロバイダーの仕組みしかなく、
隊員の養成や訓練から装備品の選定と購入、維持整備、
それを実際に運用するという一連の仕事を、各幕僚長が
ひとりで抱える体制でした。現在では各幕僚長が運用に
供するような部隊や装備品等を準備、統幕長はそれらを
任務に応じて適切に取捨選択し、命令を出すという流れ
ができあがっています。
もちろん統合運用体制になったからといって、各自衛隊
だけでの運用がなくなったわけではありません。小規模
の災害派遣では陸自だけで動くことも多いし、単一自衛隊
で実施する国際平和協力活動等もあります。現在の
自衛隊の運用には、統合運用と単一部隊の運用という
2つの形態があるということです。
さらに統合運用は、単独の指揮官を置いた統合任務部隊
による運用と、複数の指揮官のもと協同による運用という
ケースに分けられます。前者は弾道ミサイル防衛や島しょ防衛、
大規模震災対処で、派遣された各部隊の指揮官の中の一人
が統合任務部隊の指揮官としてすべての部隊を指揮します。
後者は、共通の目的であっても活動範囲が明確に分かれて
いる国際緊急援助活動などで適用されます。
次回は統合運用による自衛隊の具体的な活動を、いくつかご紹介します。
(わたなべ・ようこ)
(平成26年(2014年)8月28日配信)