個人用防護装備防護マスク(2)

18式個人用防護装備防護マスク、通称18式は自衛隊にとって6代目の防護マスクです。
隊員のさらなる防護性・安全性の向上ならびに生理的負担の低減を実現するため、初めて呼吸追随システムが搭載されました。これは着用者の呼吸を感知してブロワが回り、息を吸い込むときに吸気のアシスト機能が付いた画期的な機能です。
また、一眼式のアイピースとなり視界がより広くなりました。
さらに吸収缶を左右に分けて装着する仕様にしたことで長時間の行動が可能になるなど、最新技術が搭載されています。
中央特殊武器防護隊のSNSによると、昨年4月と9月に大宮駐屯地にて18式個人用防護装備の戦力化訓練を実施。4月は新型防護装備を装着して催涙剤環境下での有効性や、小銃、防弾チョッキ等を装着して武装走を行ない激動時での状態を確認。9月は埼玉の平均気温が38度を超える酷暑のなか、8月転入者に対する新型防護マスクの教育ならびに中特防隊員全員で武装走を行なったそうです。これらは昨年の情報ですが、今年度ももちろん同じ訓練が行なわれているでしょう。
さて、吸収缶ですが、これは毒性のある気体を吸収する物質を詰めた缶のことで、防毒マスクは面体とこの吸収缶から構成されています。
吸収缶は有毒性に合わせた缶を選択する必要がありますが、興研だと専用タイプがハロゲンガス用、酸性ガス用、有機ガス用、アンモニア用、亜硫酸ガス用、シアン化水素用、硫化水素用、さらに複数のガスに対応するマルチタイプの吸収缶があります。
なお、国家検定規格ではハロゲンガス用、有機ガス用、一酸化炭素用、アンモニア用、亜硫酸ガス用の5種類とそれぞれのろ過材を含めた10種類が、日本工業規格では酸性ガス用、硫化水素用などが規定されています。
また、粉塵、ヒューム、ミストなどが混在している環境では、その有毒性に合わせたフィルターが必要となります。
さらに防毒マスクを選択する条件としては、有毒ガスが発生していること、環境中の酸素濃度が常に18%以上であること、ガス濃度と種類が判明し、かつ低濃度で存在していることが挙げられます。
マスクをかぶる人の命を守るのですから、これほど何種類もの吸収缶があったりフィルターが用意されたりしているのですね。
御嶽山噴火の際、山頂付近に発生した高濃度のガスのため、救助活動はたびたび中断を余儀なくされました。
火山ガス事故の要因である亜硫酸ガス、硫化水素、塩化水素は、人体への許容濃度・致死濃度が低く、きわめて毒性が強い危険なガスです。しかも噴火によって広範囲に火山灰が降り注ぐという悪条件も重なります。火山灰は粒子が細かいため、多量に吸い込むと呼吸器系に影響を及ぼす可能性があります。
このように火山の噴火における救助活動は危険と隣り合わせであり、だからこそ現場の状況に応じた最適な呼吸器用保護具、つまりマスクを選択し、正しく使用することが重要となります。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)10月7日配信)