個人用防護装備防護マスク(1)

2019年2月、防衛装備庁は陸上自衛隊要求の「18式個人用防護装備防護マスク」(興研)と「18式個人用防護装備防護衣」(東洋紡)を契約しました。
身体を完全に覆い、有毒ガスや液滴及び空気中を浮遊する微粒子状物質から全身を保護するために使用する個人用防護装備は、防護マスクと防護衣などから構成されますが、今回はその中でも防護マスクに着目します。
防護マスクは素早く(陸自では8秒以内で装面できるよう訓練を受けます)、かつ正確に装着することが、機能を発揮するにあたって不可欠なため、各部隊ではその訓練の一環として催涙剤体験などを実施し、隊員たちに対特殊武器防護の重要性を理解させています。また、訓練検閲における隊容検査でも、防護マスクの装面動作はかならずチェックされます。
個人的な話ですが、昔スイスのチューリッヒでメーデーのデモに遭遇した際(正確にはデモが治まった直後)、催涙スプレーか催涙ガスが使われたのでしょうか、近くを歩いただけで涙が止まらなくなってびっくりしました。また、この夏はアクシデントで熊よけスプレーも吸ってしまったのですが、間近にいたわけではないのに数分間咳き込みました。以上、余談でした……
自衛隊の防護マスクは1985年から興研のものが採用されています。
興研は防じんマスクや防毒マスク、環境関連機器・設備などを製造・販売しているメーカーで、昨年春には新型コロナウイルスの感染拡大に際し医療機関向けに生産設備を増設、使い捨て防じんマスク(DS2:国家規格、N95:米国NIOSH規格)をフル生産しました。
2014年9月に発生した御嶽山の噴火の際は、災害派遣で捜索・救助活動に従事する隊員用に、興研の硫化水素と二酸化硫黄を防げる吸収缶付きの防毒マスクが緊急調達されました。吸収缶の詳細は来週ご紹介します。
多くの国民が防護マスクと防護衣に身を包んだ自衛官の姿を目にする機会となったのは、おそらく1995年3月に起きた地下鉄サリン事件における第101化学防護隊(現:中央特殊武器防護隊)による除染作業でしょう。
このときの防護マスクは「4形」と呼ばれるもので、自衛隊が初めて採用した興研の防護マスクでした。
4形の特徴は、これまで自衛隊が採用してきた1~3形が米軍のデッドコピーであったのに対し、初の国産独自設計であることです。
面体は天然ゴムでアイピースは合わせガラス、吸収缶の除毒能力は単独ガスとなっており、1985年に装備化されました。
4形の後継である00式は4形をベースに改良、2000年に装備化されました。
最大の特徴は単独・混合ガスに対応していることで、CBRN(化学、生物、放射性物質)兵器対応仕様となりました。
また、面体は天然ゴムからシリコーン(+特殊コーティング)となり、長時間装面に対応。アイピースもポリカーボネイト(+特殊コーティング)で、広視界が確保されています。さらに、水筒の水を飲めるようにチューブも付属されています。ふたつ折りにして携行できる点は、4形の機能をそのまま踏襲しています。この防護マスクは警察も採用しています。
東日本大震災ではこの00式だけでなく、取り換え式及び使い捨ての防じんマスクなど、用途に応じた興研のマスクが使用されました。
なお、個人用防護装備としては防護マスクのほかマスク用フード、上衣、ベルト付き下衣、ゴム手袋、ゴムブーツ、汗取り手袋、大人用おむつ、補修用シール、簡易検知紙、携帯型除染スプレーなどから構成され、すべてを身につけると8キロ近い重さになります。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)9月30日配信)