防衛装備庁(6)

防衛省装備庁の任務の紹介の続きで、今週は3番目に掲げられている「技術力の強化と運用ニーズの円滑・迅速な反映」についてご紹介します。
技術力強化については、厳しさを増す安全保障環境を踏まえた上での技術的優位を確保することが重要です。その上で、優れた装備品の創製を可能とするために、先進技術動向の把握と、それを踏まえた将来の研究開発の方向性を示す技術戦略の策定、国内外の研究開発関連組織との連携、先進的なデュアルユース技術の積極的な取り込みなどを推進し、研究開発事業を通じた技術力の強化を図ります。
また、プロジェクト管理を通じた装備品取得の一連のプロセスにおいて、運用ニーズを円滑・迅速に反映させます。
ここで注目したいのがデュアルユース技術です。
技本部長時代の渡辺氏は「最近の先端技術というのは軍事と民事の違いが昔ほどなくなっており、特にIT分野ではその傾向が顕著。また、日本は素材の技術が素晴らしいが、それは軍事用と民生用のどちらにも使うことができるデュアルユース技術である。そういった技術をいかに早く取り入れていい装備を作るかというのがわれわれの使命なので、今後ますます大学や研究機関との協同は欠かせないものとなっていく」と述べていました。2016年度に約3億円の予算で安全保障技術研究推進制度がスタート、デュアルユース技術の活用に向けて具体的に動き始めました。
ここで登場した安全保障技術研究推進制度とは、装備品への適用面から着目される大学、独立行政法人の研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し、将来有望な研究を育成するためのファンディング(競争的資金)制度です。
防衛省が掲げた研究テーマに対して広く外部の研究者の方からの技術提案を募り、優れた提案に対して研究を委託するものです。そして得られた成果については、防衛省が行なう研究開発フェーズで活用することに加え、デュアルユースとして委託先を通じて民生分野で活用されることを期待するというものです。
2015年7月8日から8月12日まで本制度の公募を初めて行なったところ、大学等58件、公的研究機関(独立行政法人、特殊法人又は地方独立行政法人)22件、企業等29件の、計109件の応募がありました。その結果、国立研究開発法人理化学研究所、富士通、神奈川工科大学、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、パナソニック、国立研究開発法人海洋研究開発機構、東京電機大学、豊橋技術科学大学、東京工業大学の課題が採択研究課題に決定。1件あたり1年で最大3000万円ほどの委託金額で、研究期間は1~3年となります。
残念ながらデュアルユースを拒む大学は少なくありません。東京大学もそのひとつです。軍事産業の片割れになりたくない、軍事に応用される研究に協力したくない、学生の教育テーマに軍事が関わるのはふさわしくないなど、ノーと言っている大学の言い分は似ています。一方、優秀な学生がいても限られた予算では思うような研究ができないというもどかしさを抱いていた大学にとっては、民生分野でも活用できる研究を進められる大きな機会です。
プログラミング言語も軍事なくして語れません。たとえば1954年に誕生したフォートランという世界初の高級プログラミング言語は、弾道計算にも優れている言語として知られています。人工衛星の進化にも軍事は大きく関わっています。
「防衛省」「自衛隊」と聞いただけで拒否反応を示さず、広く、そして長い目で、いかに学生たちによりよい研究の機会を提供できるか考えて欲しいものです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)6月10日配信)