陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(9)

87AW&高射学校最終回は、高射学校長宮本久德陸将補へのインタビューで締めくくりたいと思います。

「高射学校の任務のひとつが、高射職種に必要な知識や技能の教育です。技術の進歩が著しい空からの脅威にいかに適応する能力を付与するかが教育の主眼になっており、将来の高射職種を担う『人財』の育成を大きな方針としています。また、ここでは幹部、陸曹とも学生隊を組み、学生隊における日常起居を道場とし、実質陶冶による資質の向上に取り組んでいるので、一自衛官としての資質の教育も含まれています」
「87AWの教育課程では、構造機能や能力を理解したプロの操作員の育成を目的としています。87AWは砲班長が指揮をして対空戦闘を行なうので、この役目を担う陸曹が非常に重要です。今回教育を受けた学生たちもいずれは砲班長として車両を指揮して対空戦闘を行なうことになりますから、指揮官としての素養の涵養にも留意した教育を行なっています」

高射特科が運用する新しい装備品が登場する中で、87AWを学ぶ学生たちのモチベーションは、学校長からはどう見えているのでしょう。

「SAMにシフトしている中においても機関砲の役割は変わりませんし、実は戦闘機パイロットなどに話を聞くと『近距離では誘導弾より機関砲のほうが怖い』という声をよく聞きます。彼らからすると誘導弾は一対一の戦いですが、機関砲はバラバラっと来るからと。機関砲の重要性が今の時代も不変であることは学生も理解しています。それに機関砲というのは、射撃のタイミングがそのまま弾足に出ていくので面白いんですよ。自分の操作ひとつ、整備ひとつで弾足が変わるのが実感できる面白さは、扱った人間だけがわかる醍醐味かもしれませんね」

高射特科全体では、時代に即した変化があるといいます。

「一昔前の高射特科の主たる対象は有人機の戦闘機でしたが、現在は弾道ミサイルや無人機もあり、経空脅威もいろいろ多様化してきました。しかもそれらの高性能化も進んでいるので、高射特科には従来の有人機主体の運用とは異なる対処能力が求められる時代になっています。また、これまでは高価な戦闘機を安価な誘導弾で迎撃することに意味がありましたが、今は安価なUAVや誘導弾、巡航ミサイルを同等価、もしくはそれより高価な装備で対処しなければいけなくなっています。その問題を打破するためには、今後は誘導弾そのものを物理的に破壊するのではなく、誘導している信号をカットすることで誘導弾を無力化するといった方法にも力を入れていかなければいけないのではと考えます」
「UAVも大きな脅威です。有人の戦闘機なら細心の注意を払いながら飛ぶところを、安価な無人機だったら危険を冒してもどんどん来ますから、全周が脅威という状況になります。われわれが持っているレーダーだけでは捕捉できない目標も出てくるので、今後の高射特科には他職種と協働するためのネットワークと、対処要領の運用要領の確立が求められていくと思います」

部隊も装備品も時代に即して変化してくのが常ですが、その中で87AWが今も北方の地を守る頼もしい存在であることは変わりありません。そしてそれを扱う隊員たちのスピリットも熱い!
これから87AWの課程に入校する隊員もまた、「87AW愛」を抱いて高射学校にやって来るのでしょう。
(了)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)12月3日配信)