陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(5)

先週までは87AWの装備について細かく見てきましたが、今週からは陸上自衛隊高射学校(千葉市、下志津駐屯地に所在します)における87AWの陸曹教育についてご紹介します。
2019年の秋から翌年にかけて、陸上自衛隊高射学校で87式自走高射機関砲(以下、87AW)の陸曹教育が行なわれました。
学生たちは約4カ月かけて87AWの射手、砲班長として必要な知識と技能を修得。器材の構造機能を、続いて操法を学び、最後は教育の集大成として北海道での実射訓練に臨みました。
入校した7名の学生を指導する教官のみならず、訓練を支援する部隊や隊員にも支えられての教育で得たスキルを、卒業後は部隊で発揮することになります。
取材は高射学校で実施された手動による給弾訓練のほか、学生や教官、そして高射学校長にインタビューを行ないました。
給弾訓練は朝から高射学校の敷地内で行なわれました。
訓練のため87AWが敷地内の移動を開始します。ドライバーおよび砲塔から前方を見ているのは教官で、このとき学生は87AWを誘導する役目を担っています。
この日はときおり小雨のぱらつく寒い日でしたが、訓練に励む学生たちには関係ありません。所定の場所に到着すると学生たちはすぐに給弾訓練の準備を開始、その間に模擬の弾薬が到着します。運んできてくれたのは高射教導隊。さまざまな支援を受けながら、学生の教育は進められていくのです。
擬製弾を積んだ3t半トラックの荷台から擬製弾を積み込むため、車両はバックで進入して87AWの側面に寄せます。荷台と砲塔内部はベルトリンクでつなぐので、的確な距離が求められます。誘導する学生、隣で見守る教官。どんな作業にも気のゆるみは許されません。
弾をベルトリンクでつなげると、次は擬製弾を砲塔内に格納していきます。
格納場所はいくつかにわかれていて、うまく入らない場合はベルトリンクを逆回転させ擬製弾をいったん戻して入れ直します。焦りは禁物、丁寧な作業が求められます。
今日の訓練のメインは、砲塔内における給弾要領を学ぶこと。役回りを交代しながら全員が砲塔内での作業を経験します。砲塔内で擬製弾の格納を担当している学生からの指示を受けつつ、別の学生たちが3t半トラックの荷台からベルトリンクに擬製弾を乗せていきます。この給弾は電動でも行なえるのですが、むしろ操作にコツが必要で難しいのだそうです。
予定通り給弾訓練が終わると、学生たちは教官から指導を受けます。「いつも右砲でやっているから左、砲でも同じ動きでできるように」など、こちらも聞いていて「なるほど」と思う言葉もありました。
午後は教室で砂盤を用いての講義です。また、教室のシミュレーターで対空戦闘訓練も実施しました。まず射手として経験を積み、いずれは砲班長として実際に87AWに乗車し、この対空戦闘訓練を演習場で行なうようになるのです。
学生たちはほとんど原隊で87AWのドライバー経験があります。けれど砲班長がなにを見てどのような判断をしているのかは未知の世界。学ぶことは山のようにあります。だから4か月の教育期間は長いようであっという間。休日も返上して自習室で勉強することも珍しくないそうです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)11月5日配信)