陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(4)

先週は87AWの抱える課題と、それに対する反論的な意見をご紹介しました。
今週は87AWの存在意義について考えてみます。
対ソ連の北方重視から中国の海洋進出が著しい南西諸島へとシフトした今、87AWの存在意義が微妙になりつつあるという声があるのは事実です。
しかし、「調達が終了している時代遅れの装備品」と決めつけるのは時期尚早と言ってもいいのではないでしょうか。
ロシアの脅威はまったく消えたわけではなく、常に備えなければなりません。
また、飛行中の戦闘ヘリが地上の対空機関砲を見つけるのは容易ではなく、35mm砲弾で被弾すれば墜落のリスクは大きく、回避機動を取らざるをえません。いざというとき、北方の守備で戦車とともに活躍する頼もしい存在が87AWであることは間違いないでしょう。
さらに、ミサイル主流の現代において機関砲の価値が改めて見直されてもいます。
機関砲の「アナログ」ゆえの信頼性、「すぐさま撃てる」という即応性は、ミサイルにはない強みです。具体的には、自走高射機関砲の命中率はミサイルほど高くないといわれるものの、自らレーダーで索敵・照準を行なえること、そして機関砲ゆえ相手に機関砲を向けさえすれば、即、射撃体勢に移行できるという点です。
加えて、北方防衛で力を発揮するのはもちろん、高射特科では南西防衛におけるショートレンジの機関砲の整備の重要性についても議論の対象となっています。
かつてのように有人機による攻撃のみに対応するなら、ペトリオットのような長射程、中SAMやホークの中距離、短SAMの短距離、近SAMの近距離という誘導弾でも間に合っていました。
しかしこの先前面に出てくるのはクルージングミサイルであり、それに加えてUAVによってより飽和的な攻撃をされては、誘導弾ではなかなか対応できません。
さらに対応はできても費用対効果が低すぎるようでは、装備品として不適当です。そこで機関砲の活用を改めて検討するのも一案というわけです。
装備品は新しいほど高性能であり、その時世のニーズに即したものであることは事実です。
だからといって制式化されてから何十年も経った装備品がその役割を終えているのかといえば、まったくそうではありません。
87AWのように適材適所でその性能を生かす道はあり、さらに機関砲という武装に特化して見れば、高価で最新のミサイルの欠点を補うような長所も備えています。
第二次世界大戦で野戦防空兵器が自走化されましたが、地対空ミサイルの発達により「時代遅れ」のレッテルを貼られかけた自走対空砲。
しかしベトナム戦争で低空飛行を行なった米空軍が対空砲で甚大な被害を被ったことで、再び脚光を浴び新型が開発されるようになったという過去を振り返ってもわかるように、自走型対空火器は「今なお役立つ」と「もはや古い」という評価を定期的に繰り返してきたところがあります。
ということは、87AWが敵航空機にとって大きな脅威であり、随伴行動する戦車部隊にとっては心強い存在であることは、今後もしばらく変わることはないでしょう。
次週からは、陸上自衛隊高射学校における87AWの陸曹教育についてご紹介します。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)10月29日配信)