陸上自衛隊第4師団訓練検閲(2)

先々週は、訓練検閲は検閲を受ける受閲部隊、受閲部隊の敵役を担当する対抗部隊、そして検閲を統括し円滑に進行する役割を担う統裁部という3つの機能から構成されることをご紹介しました。
受閲部隊と対抗部隊の説明に続き、今週は統裁部のご紹介からです。
統裁部は統裁部長を筆頭に、企画統制部、補助官部、審判部、安全部などからなり、対抗部隊と合わせると訓練検閲の花形である受閲部隊よりも多くの人員が割かれています。
「縁の下の力持ち」がスポットライトを浴びる人員よりも多いことが、訓練検閲を円滑に進める難しさを物語っています。
企画統制部は訓練検閲と実行動のバランスを調整する、検閲の心臓部ともいえるところ。各地から上がってくる情報を管理し、最新の全体情報を24時間体制で把握しています。
補助官部は指揮官や部隊の精強さをチェックする部署で、統裁官が受閲部隊を評価するための情報を収集します。
統裁部の中で約300名と、もっとも人員の多いのが審判部です。いわば判定係で、16戦闘団と141機械科連隊の双方に審判がつきます。現場の審判は戦車がどの車種に向けて撃ったか、対戦車誘導弾はどの戦車に向かって撃ったのかなど確認してから、その情報を審判本部に送ります。すると本部で「撃破」「何名負傷」といった判断が下されるので、現場ではその通報を受け、部隊に伝えるのです。
ただし、現在の演習ではバトラーが使用されることが多いので、審判部の人数はもっと減っているはず。バトラーとは交戦訓練用装置で、光線発射装置によって実弾を使用することなく実戦同様の交戦訓練が可能な装置です。車両が被弾すると「大破」「中破」など、そのダメージも明確に示されますし、隊員も「重症」「死亡」など、容赦ありません。とある普通科の中隊長は「バトラーだと部下の死亡が生々しく、ぞっとします」と言っていましたが、射撃位置だけでなく被弾する側の地形や風向きといった細かいデータも考慮されたバトラーの「ジャッジ」は、審判部のそれより確かに実戦を感じさせるのでしょう。
統裁部の紹介の続きです。
演習場内で危険になりそうな部分の兆候を見つけ、注意喚起をして安全を確保するのは安全部の役割です。
近隣の農家が採草のために演習場内に入ってくるのですが、彼らも慣れたもので多少の空砲の音ではびくともしません。地元民、恐るべし。そういうときは安全部の出番となります。
もっとも注意しなければいけないのは、戦車が活動するときです。視界が狭いうえにさまざまな隘路も走るため、周囲も危険に巻き込まれやすいそうです。
このように、統裁部では多くの隊員が受閲部隊のために働いています。当時はちょうど4師団から約200名が国際緊急航空援助隊としてパキスタンへ災害派遣中で、人員の調整などの苦労もあったに違いありません。各駐屯地の留守部隊も責任重大です。けれど統裁部長である4師団幕僚長の1佐は、「いる人数でなんとかするのが陸自ですから」と笑って言っていました。頼もしいです。

「自分たちのために検閲を受けている受閲部隊と違い、統裁部は彼らのために日陰仕事に徹します。これは精神的になかなかきつく苦しいことなので、自分たちも訓練なんだという意識を持ってモチベーションを維持するようにしています。業務上での注意点は、現場でなにが起きているかというのを把握し、その情報を審判部や企画、補助官など、横とも共有すること。そのためにひとつ屋根の下に本部を設置しているんですからね」

(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)8月20日配信)