陸上自衛隊第4師団訓練検閲(1)

今週から陸自の訓練検閲を紹介する連載のスタートです。
敵と味方に分かれて実戦さながらの訓練を行ない、指揮官の判断力や隊員の練度をチェックする訓練検閲は、実戦経験のない自衛隊にとって、いざというときに日頃の実力を発揮するために不可欠なもの。疲労や眠気と闘いつつ最後まで力強さを保持した受閲部隊の面々、そして訓練検閲を陰で支えた多くの人々を取材したレポートに、加筆修正してお届けします。
湯布院での4日間の取材中、食事は最初と最後の2回のみ店で、あとは3食すべてコンビニのおにぎりという、日出生台演習場にどっぷり入り浸った取材でした。温泉に入れたのは取材を終えて空港行のバスを待っている間の一度のみ。なつかしい思い出です。
なお、部隊名や隊員の階級はすべて取材当時のものです。
厳しい残暑が続く8月末から9月にかけ、温泉で知られる大分県湯布院に隣接した日出生台演習場で、第4師団の訓練検閲が行なれました。
話を進める前に、まず訓練検閲とはなにかというところからご紹介します。
訓練検閲とは、実戦を想定した訓練を実施して、指揮官の状況判断や命令、それを具現する隷下部隊の能力を見るものです。
検閲を受ける受閲部隊、受閲部隊の敵役を担当する対抗部隊、そして検閲を統括し円滑に進行する役割を担う統裁部という3つの機能から構成され、今回の訓練検閲には総勢3000名以上が参加しました。
福岡、佐賀、長崎、大分にまたがる九州北部の防衛警備を担う4師団のうち、動ける人員の約8割はこの訓練検閲になんらかの形で参加しているということからも、この検閲の規模の大きさがわかります。
統裁官は4師団長。第1空挺団長などつわものを率いた経歴を持つ、自らも空挺レンジャーの統裁官です。
次に受閲部隊について。
部隊の戦闘力を最大限に発揮するには、普通科、機甲科、野戦特科、高射特科など、諸職種がひとつの戦闘団となることが望ましいです。師・旅団だとちょうどこれらすべての職種が含まれているので、戦闘団を構成することができます(ただし今後は本州から戦車の部隊がなくなることで、師・旅団といえども戦闘団を組むことはできなくなります。戦闘団長を経験しないまま方面総監、陸幕長となる師・旅団長も登場してくるでしょう)。
この取材時は、長崎県の大村駐屯地に所属する第16普通科連隊に、第4戦車大隊、第4特科大隊、高射小隊、第4施設中隊、普通科・特科・戦車の直接支援隊を配属させ、第16戦闘団としました。これに第4高射大隊と第4特殊武器防護隊を加えたものが、今回の主役である受閲部隊となります。戦闘団長は第16普通科連隊長です。
一方、対抗部隊として敵役を担当するのは、前回の訓練検閲では受閲部隊だった第41普通科連隊。今回は「仮想敵国の第141機械科連隊」という位置付けで、一目で対抗部隊とわかるよう、鉄棒に赤いテープをぐるりと貼っています。これは今回に限らず、演習時の対抗部隊はかならずこうするため、「赤部隊」とも称されます。
16戦闘団と141機械科連隊が戦うためのストーリーも用意されています。いわゆる「想定」ですね。
「宮崎地区の領有を企図している仮想敵国の11機械科師団が、長崎地区で作戦準備中。そのうち141機械科連隊がわが先遣部隊を撃破しようとしている。4師団は長崎地区の回復のため、現在宮崎地区で作戦準備中。4師団の先遣部隊である16戦闘団は、日出生台で敵先遣部隊を阻止する!」
実際は、11機械科師団に見立てた部隊は長崎にはいませんし、4師団も宮崎で作戦準備をしているわけではなく、別府市の十文字原演習場を宮崎地区と設定しています。
敵を撃破しまくり撤退させれば、16戦闘団の勝利となって訓練検閲は終了なのかというと、そうではないのがおもしろいところです(といったら語弊があるかもしれませんが)。
今回の16戦闘団に課せられた課題は「防御」。あらかじめ防御ラインを設定し、そこで敵を一定時間足止めしてから離脱、後方の防御ラインまで下がり、再びそこで敵を足止めするといった形で、4師団の作戦準備が終わるまでの時間稼ぎをするのがミッションです。そのために下される指揮官の命令は適時的確か、隊員たちはその命令をしっかり実行できているかといった部分が訓練検閲のチェック事項になるので、特に勝敗がつくわけではないのです。ゲームのように白黒勝敗が付いたら終わりという単純な話ではないんですね。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)8月6日配信)